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失神した患者が入院することでその後の重大な有害事象を発見しやすくなるのか?

 Canadian Syncope Risk Scoreで中等度以上のリスクを抱える場合には入院により重大な有害事象を発見しやすくなる。

Benefit of hospital admission for detecting serious adverse events among emergency department patients with syncope: a propensity-score–matched analysis of a multicentre prospective cohort
CMAJ October 13, 2020 192 (41) E1198-E1205; DOI: https://doi.org/10.1503/cmaj.191637

 失神は救急や内科外来で対応する機会が多い症状のひとつで、10%が有害事象の前触れとも言われます。入院することでその有害事象を発見できるかどうかは不明な点があり、入院率に大きな差があると言われます。

 本研究はカナダで行われた前向きコホート試験から失神患者を抽出して、入院と有害事象の検出との関連を調べた研究です。また、有害事象の発生がCanadian Syncope Risk Scoreによって異なるかについても評価しています。
 主要評価項目は入院患者の場合は入院中の有害事象の発生、救急外来から帰宅した方は30日以内の有害事象の発生についてです。

 Canadian Syncope Risk Scoreは、発症後24時間以内に救急を受診した失神患者の30日以内の重篤有害事象リスクを予測するために開発された評価方法です。

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 上記表はCirculation. 2019;139:1396–1406 Figure1 を引用。
 Estimated risk of serious adverse event(%)は30日以内のリスクを指す。


【結果】
 8183人の失神症例のうち743人(9.1%)が入院した。658人を救急外来から帰宅した患者とマッチさせて評価しました。(マッチコホートは入院症例658人、帰宅症例658人の合計1316人です。)
 オリジナルコホート、マッチコホートのプロフィールはTabel 1を参照。当然ながら入院した群の方が年齢が高く、高血圧・糖尿病・心疾患の既往が多く、CSRSリスクで中等度以上の割合が多くなります。

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 救急外来から直接帰宅した群と比較して入院した群では5倍の有害事象が発生しました。この差は非致死性不整脈(オッズ比5.1倍)と不整脈以外の重要な疾患(オッズ比6.3倍、この疾患群は出血、心筋梗塞、肺塞栓などを含む)の検出が有意に多いことが寄与しました。死亡や心室性不整脈は両群で大きな差はありません。(下記Table 3)

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 入院患者、帰宅患者それぞれのCSRS点数別の有害事象検出率を予測した表は下記Figure2のようになります。入院した方が検出率があがりますが、その傾向はIntermediate <High <Very Highにあがるにつれてその影響が大きくなります。すなわち、CSRSでリスクが高い人で入院による恩恵が大きくなる一方で、CSRSでリスクがVery low , lowの人では入院しても有害事象が見つかる可能性は低いです。これはCSRSの妥当性を支持する結果です。

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【個人的感想】
 この研究はCanadian Syncope Risk Scoreの妥当性を支持するという立ち位置だと思います。救急現場でのスタッフの共通認識であったり、失神診療の質改善、患者説明に有用です。
 個人的にこのCSRSが不安定な印象を感じる点は、救急部門での臨床診断で『迷走神経反射を疑う場合 -2点』『心原性失神を疑う場合 +2点』の部分です。 心電図所見以外に心原性失神を疑うポイントを明記できると大変助かるのですが、、、。


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