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企業は複数部門を持っているeスポーツチームにスポンサーすべき? キーワードは「成長」と「長期」

もし自分がeスポーツに関心を持っている企業の担当者で、一存でチームや選手へのスポンサー(協賛)を決められるとしたら、どういうチームや選手に声をかけますか?

今回は企業目線に立ちながら、どんなチームにならスポンサーシップやパートナーシップを結びたくなるかを考えます(翻せばチームにとって何が訴求ポイントになるかということ)。大事なことは一緒に成長できるかどうか、そのために長期的な関係を作れるかどうかです。

※この記事ではスポンサーシップとパートナーシップをまとめて「協賛」と呼びます。また、チームと選手はまとめて「チーム」と呼びます。

マーケティングは中長期にわたる活動

スポンサーシップやパートナーシップはマーケティング活動の1つです。なのでまず、いまマーケティングの仕事をしている僕の目線から、企業のマーケティング活動がどんな思惑で進んでいくのかを見ていきましょう。

僕はマーケティングの戦略や施策を検討するとき、最初に目的を明確にします。最終的には、新しく知ってくれる人をどんどん増やしながらも、同じ人に商品を購入し続けてもらうことで売上を増やしたい。ですが、この2つを結びつけるにはいくつかのポイントを通過しないといけません。そのポイントは、内容に応じて意識変容、態度変容、行動変容と呼ばれます。

●まだ知らない人に知ってもらいたいのか。
●もっと興味を持ってもらいたいのか。
●とにかく1度購入してもらいたいのか。
●ファンになって何度も購入してもらいたいのか。

こうした目的に合わせて戦略と施策が決まります。いますぐ売上を増やしたいときは広告を出してアピールするときもありますし、まず興味を持ってもらいたいときは商品に関連するコンテンツを無料で掲載するときもあります。当然、広く知ってもらいたい場合や新しいターゲットを狙いたい場合はインフルエンサーとコラボをする選択肢もありえます。

ここで大事なのが、短期施策か長期施策かという視点です。日本では長らく短期的な認知拡大と販売促進がマーケティングの柱となっていました。おおまかには、テレビ広告や新聞広告を使ってまだ知らない人にお知らせし、お店の売り場で割引やセールでお得感を訴求して買ってもらう、というパターンです。

こうした信仰は根強く、マーケティングを短期施策(特に販促)のことだと考えている人もまだいるようです。そういう人ほどTwitterで瞬間的なバズを狙ってしまうんですが、しかし、いまや風向きは変わりつつあります。

マーケティングはユーザーが商品やブランドに出会う前から始まっており、認知、理解、購入はもちろん、好きになってもらうこと、ファンになってもらうこと、商品を使ってくれたあとのサポートも含まれています。つまり、マーケティングは中長期にわたる活動なのです。

ここが、eスポーツチームに協賛するうえで重要なところです。

eスポーツチームの大きな価値は成長

企業がマーケティングを短期施策だと捉えると、「eスポーツが熱いらしい」と聞きつけてチームに協賛しても、販売促進の広告を出す感覚で即座の成果を求めてしまいます。

例えば、6月にお金を出したら早ければ同月や翌月中には売上が増えるなどの結果が出ているだろうと考えてしまう、ということです(半年でも短期です)。

eスポーツ業界について少し調べてもらえれば、これがいかに痛恨の誤解かは理解できます。チームや選手に協賛したところで、そんなにすぐ売上にインパクトが出ることはありません。もしそういう効果を求めるなら、別の広告を利用したほうが賢明です。

最近ではこうした早計な協賛は減ってきており、考えに考えた企業がチームに協賛している印象があります。たいへんに幸いなことです。

では、そうした企業は何を目的に協賛するのでしょうか。これはあくまで僕の考えで、僕が協賛するとしたらですが、チームが持つ最大の価値である「成長」に期待して協賛します。

成長とはチームが大会で優勝を目指して実力面を向上させることですし、より多くのファンを惹きつける人格面の魅力を高めることでもあります。もちろん、フォロワー数やエンゲージメント率など数字面での成長もあります。

成長。これは企業にとっても蠱惑的な響きを持つ言葉です。成長したくない企業は基本的には存在しません。だからこそ、企業(の中の人)もチームが成長していく姿に共感しますし、応援したくなります。それを自社が金銭面でサポートするのが協賛です。

企業がチームと一緒に成長していくことで、チームのファンに商品を知ってもらうだけでなく、あるいは商品を購入してもらうだけでもなく、チームを応援する仲間としてファンに長いお付き合いをしてもらうことが期待できます(言い方を変えれば、チームのファンに自社のファンにもなってもらえるということ)。

自社のファンが増えることは、企業にとって非常に大事なテーマです。常に新規のユーザーを獲得をし続けるのは不可能であり(それでも向き合い続けなければなりませんが)、同じ人に何度も購入してもらうことで売上アップを図りたいと考えるのが通常です。

eスポーツチームへの協賛は、企業にとってなかなかに難しいファン獲得において重要な機会となりうる(すでになっている)というのが僕の持論です。

成長には時間がかかる……

当たり前ですが、チームが成長するには時間がかかります。また、企業がチームのファンとして溶け込み、みんなの仲間になるには1年では足りません。企業感覚の長期とは3~5年以上を指すことが多いですが、要は企業は長期で関係を作るとすればそれくらいの期間を想定しています。

ところが、これほどの期間、成長どころか存続し続けられるチームはごくわずかです。ほとんどのチームがあっという間に消えてしまう。このことが、僕が会社でeスポーツチームへの協賛を提案できない最大の理由です。

eスポーツチームにとって「成長」は大きな価値です。しかし、成長するには時間がかかる。その時間を持ちえない、長く存続できなさそうなチームに、企業は協賛などできません

そこで企業がどんなチームに関心を持つかというと、いくつものタイトルで活動する複数部門を有しているチームです。

複数部門を持っているチームは「強い」

eスポーツシーンでは複数部門を抱えている団体や企業をチームと呼びますし、各タイトルで活動している集団もチームと呼びます。ややこしいので、ここでは前者を「母体チーム」、後者を「単体チーム」と呼び分けましょう。両者を合わせて「チーム」とします。

例を出すと、JUPITERは母体チームですが、『VALORANT』部門のAbsolute JUPITERは単体チームです。『スプラトゥーン』シリーズで活躍するGG BOYZは単体チームですが、母体チームはありません。

成長をキーワードにしたとき、企業が母体チームと単体チーム、どちらにより魅力を感じるかは一目瞭然です。

単体チームはそのタイトルが衰退したり、選手のモチベーションがなくなったりして解散したら消えてなくなってしまいます(もちろん選手は移籍するなどしますが)。

それは企業が投資してきたお金がほとんど水泡に帰すのに等しい事態です。できれば、そんな事態に出くわすのは避けたい。だから、企業はできるだけ長く存続しそうな母体チームに目をつけます。たとえ単体チームが解散しても、母体チームは残るからです。

これが複数部門を持っている母体チームの強さ。母体チームは大きな価値を有する成長を実現し、企業と長い付き合いができる可能性が高いのです(部門が多いことでファンへのリーチも広くなります)。

ただし、単体チームの場合でも活動の幅を広げることで存続していけると示すことはできます。そういうチームもたくさんあります。企業が協賛したいと思うのは、単に強いチームや単にファンが多いチームではなく、自社の目的と合致しているチームです。

自社チームを持つことの利点

では、いま多くの企業が自社チームを持ち始めているのはどう説明できるでしょうか(社員で構成するチームだけでなく、既存チームのオーナーになることも含めて)。これも成長と長期という視点に立てばすぐに理解できるはず。

そのとおり、企業は基本的には長く存続することを前提にしていますから(できるかどうかはさておき)、その中でチームを成長させていくのは一石二鳥どころではない利点があるわけです。

ゆえに、もしチームが企業の協賛を取りつけたいと考えるなら、自分たちがいかに長く活動し、その中で価値を提供し続けられるかを示さなければなりません。将来的に複数部門を持とうとするのは一案ですし、それこそAbsolute JUPITERのようにタイトルを移行してでも活動を継続する覚悟や可能性を見せることも一案です。

もちろん、存続するだけではダメです。それは目的ではなく成長のための手段でしかありません。そして、成長もまた別の目的のための手段です。

チームにとって、どうやったら長期的に活動し続けられるかは優先度の高いテーマかと思いますが、そうしたノウハウが最前線のチームからより積極的に共有されるようになると「いよいよeスポーツシーンもビッグウェーブが来てるな」という感じがします。

短期施策から長期施策へ

短期施策はスポットとも言われますが、僕はスポットの広告が好きではありません。たしかに、短期施策が必要な場面、功を奏する場面も多々ありますが、それでも長期施策の中でスポットを組み込むようにしています。目先の売上のために割引を連発するのは疲弊するだけですし、ファンや好意度などの資産にも繋がりません。

このことは多くの企業で認識されつつあると思います。長期施策(特にブランディング)は効果測定ができないから毛嫌いされる傾向もありましたが、効果測定の方法はあります。ブランディングの効果とは購入意向が高まったかどうかなので、アンケート調査で数字を出せます(好意度も大事ですが、ブランドを好きでも買ってくれないなら意味がありません。ゲームセンターが潰れてから「好きだった」と言うようなものです)。

実際のところ、eスポーツチームが提供しうる価値を企業側が正しく測定できないという事態も起こっていそうな気がします。先ほど書いたように、短期施策一辺倒でやってきた企業は現状のeスポーツシーンに微塵の価値も感じず、手を出してもすぐに撤退するでしょう。

しかし、チームにとってもeスポーツ業界にとっても、短期施策だけで値踏みされるのはたまったものではないはずです。なので、業界側からしっかり価値とその証明となる数字を提示し続けてほしいと思います。

最近は配信技研がゲーム実況(生放送)の価値を示す指標として視聴時間を公表し始めました。これが必ずしも優れているとは思いませんが、新しい価値は新しい指標で評価すべきです。こうした試みはどんどん増えていってほしいです。

ということで、僕がeスポーツチームに協賛するとしたら、長く存続して成長していきそうなチームを選びします。もちろん、自社の商品やターゲットと合っているかが大事ですが……。

上掲の記事を書いたあと、Rush Gamingの西谷麗さんはチームを続けていくためにブランド化が不可欠だと話していました。

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