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記事の作り方を知るには、実物を分解するのが分かりやすい:書くこと講座(7)実例編

「これからnoteで書き始めたい人のための書くこと講座」の第7回、実例編です。

この記事では講座の総仕上げとして、謎部えむがどのように記事を書いているのか、着想や思考の過程を簡単に紹介していきます。

取り上げるのは僕の渾身の1本である「eスポーツの価値、そしてeスポーツを自分の物語として編むために「書く」こと」という記事です。eスポーツやゲームに馴染みがない人には取っつきにくいと思われますが、ほかの記事と方法論が劇的に違うわけではなく、構造や着想したところからどのように内容を考えていったかに注目してもらえれば幸いです。

記事としてはやや長めで、初めて記事を書くような人だと気後れしてしまうかもしれません。ですが、実際のところ記事の長さはあまり関係ありません。ちょっと気が向いたから書いて見る記事でも応用できるノウハウをお伝えします。

どんな記事?

「eスポーツの価値~」は、昨今話題に上がることが増えてきたeスポーツが持つ根源的な価値について考え、僕なりの答えを出した記事です。

その思考の補助線として、かねてeスポーツと関連づけられると思っていた冲方丁さんの『精神の血を捧げて』と、宇野常寛さんの『遅いインターネット』から理論や考え方を借りています。

具体的には、『精神の血を捧げて』から借りたのは、人間があらゆる物事に価値観を見出すことで社会を構築してきたという主張と、エンタメは誰もが抱きうる精神の血の輝きを表現するものだという考えです。

『遅いインターネット』から借りたのは、多くの人がSNSの登場によって自分の物語を語りたくなっている事実と、「非日常─日常」「他人の物語─自分の物語」という2軸で構成される文化の四象限です。

結論として、僕は「eスポーツは日常の中で自分の物語を豊かにする手段の1つであり、それこそがeスポーツの根源的な価値である」と至りました。詳しくは記事を読んでもらえればと思いますが、かなり長い間このテーマについて考えてきてようやく言語化できたので、その(ぐねぐねしてまどろっこしい)経緯と変遷を共有します。

動機と着想

eスポーツがメディアで取り上げられるとき、たいていプロゲーマーや経済、教育など「eスポーツを活用している人やeスポーツを通して得られる効果」が注目されてきました。

僕はこれらを副次的な効果であると考えており、そもそもこの効果をもたらしてくれるのはeスポーツ自体にどんな価値があるからなのか、と疑問に思っていました。それを明らかにしなければ今後自分がどういう立場でeスポーツに接するかが不明瞭になってしまうため、自分なりの考え方を持っておかなければなりません

過去に、「eスポーツの名のもとに真剣にゲームをプレイできること」、また「ゲームを真剣にプレイする姿はかっこいい」という価値があると考えました。これは「eスポーツをプレイする」という仕事にも暮らしにも何の役にも立たないことに対して価値を見出すことであり、『精神の血を捧げて』に通じる考えです。

時系列としては、上記の価値観に至ったあとに『精神の血を捧げて』を思い出し、まさにこれだと合点しました。さっそく記事を書こうと思ったんですが、しかし、何か足りない気がして手が止まりました

その答えを考え続けているとき、たまたま『遅いインターネット』を読みました。そこで文化の四象限に出会い、気づいたのです。いま社会に必要なことは「日常×自分の物語」であり、eスポーツはそれを満たせるのだと。

整理すると、僕はeスポーツが持つ根源的な価値について、『精神の血を捧げて』に準じるような価値を見出していましたが、それはごく個人的な価値観にもとづいたものでした。そこに、『遅いインターネット』が社会という視点をかけ算してくれたわけです。

つまり、「eスポーツの名のもとに真剣にゲームをプレイできること」という価値は、僕の個人的な価値観に収まるだけではなく、社会的にも有意義なことだと説明しうると思い至ったということです。

以上のように、最初に抱いた疑問から動機が生まれたものの、なかなか記事は書けませんでした。しかし、長い時間がかかり紆余曲折もあって、ようやく結論が見えてきました。動機と着想をこの「煮込み」にかけることが記事を書くうえでは大切です。

アイデアメモと構成を作る

次は上記の思考の流れや考えをメモにまとめる段階です。書くべきことが分かっているので、ここからは早いです。僕が作ったアイデアメモを紹介しましょう。

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ほとんど構成に近いですが、それはテーマについて長らく考えてきた結果、書くことが頭の中でまとまっていたからです。皆さんが作るときは、先ほど記述したようなことをアイデアメモでまとめるといいですね。

とはいえ、伝えたいことを誰にどのような形・流れで表現すべきかは改めて考えないといけません。このアイデアメモは分かりやすく記事で書くとおりの順番に書いてあるので、番号を追いかけてみましょう。

なお、想定読者については詳細がありませんが、今回は「eスポーツ(対戦ゲーム)で上達するより、ほかの有意義なことをやったほうがいいのでは」と考えてしまう人に向けて書いています。自分がまさにそうだったので、eスポーツをプレイすることを肯定するためです。

① テーマ
何を書こうとしているのか、テーマを明確にしています。eスポーツの(根源的な)価値について書こうとしていますね。ちなみに、ここではなぜか明示していませんが、eスポーツをプレイすることで自分の物語を作るという実践についても低減したいと思っています。

②③ 状況整理と問題設定
記事を書くにあたり、テーマに関連する社会状況や環境を検討しています。eスポーツについて語るので、その前提であるエンタメについても触れる必要があります。

エンタメには「他人の物語」が描かれ、埋め込まれています。エンタメの感想を語る(書く)ことは多くの人がやっていますが、それはあくまでメインとなる「他人の物語」をかろうじて「自分の物語」に引き寄せるだけです。

一方で、SNSの台頭で多くの人にとって「書くこと」が日常になり、誰もが「自分の物語」を書きたいと考えるようになってきました。しかも、それによって承認されることの気持ちよさはほかに代えがたいことにも気がつきました。

他人が作ったエンタメは「自分の物語」ではありません。だから、「自分の物語」を語るための何かが必要なわけです。

④ 解決策
設定した問題の解決策として、eスポーツが登場します。eスポーツをプレイすることはまさしく自分の物語を歩むことです。何百、何千時間もプレイしてしまうなど、プレイヤーの自分だけがその行為に特別な価値を見出しえます。

⑤ 解決策への疑問
次に、上記の解決策への疑問が提示されます。これに答えない限り、解決策は妥当ではなく意味をなさないため、なんとか論理を見つけて解消しなければなりません。

ここでは人間が作った、衣食住を満たせない「たかがゲーム」にいかほどの価値があるのかという疑問と、なぜゲームではなくeスポーツでないとダメなのかという疑問が呈されています。

この解消に、『精神の血を捧げて』の主張を用います。つまり、人類はみずから作り出した価値観によって社会を構築(維持)してきたという主張です。ゲームは人類が持つ好奇心や面白いという感情(精神の血の輝き)を見出して表現する媒体であり、それゆえに価値がある、となります。

ですが、これは作り手の視点です。プレイヤーからすれば、単にゲームをプレイするのは他人の物語(精神の血の輝き)に触れるにすぎません。そこでeスポーツ(対戦ゲーム)が価値を持ちえます。なぜなら、eスポーツはプレイヤーが主体的にプレイでき、成長や社交を可能にする手段だからです。eスポーツを日常的にプレイすることは、自分の物語を歩むことにほかなりません。

また、他人と競い合ったりコミュニケーションしたりするということは、世界に対して開かれており、世界に直接的に触れられるということでもあります。『遅いインターネット』では世界に触れる実感が社会を維持するために必要と書かれており、したがってそれを可能にすることもeスポーツの根源的な価値です。

⑥ 解決策を実践する提言
最後に、提示した解決策をいかに実践していけばいいのかを書いています。僕はこの記事でeスポーツの価値を明らかにするだけでなく、「日常×自分の物語」を実践するためにeスポーツを利用してもらいたいと考えていました。

それにはプレイするだけでなく、体験をシェアすることもあてはまります。そして、体験を書くこともそうです。『遅いインターネット』では「書くこと」に重点が置かれており、「日常×自分の物語」を実践するうえで最も大切な行為だとしています。僕はそれにおおいに共感したので、記事のタイトルの後半を「そしてeスポーツを自分の物語として編むために「書く」こと」としたのでした。僕が実際にやっていることでもありますからね。

⑦ 提言からの波及
これは余談にあたりますが、提言から波及する事柄について書いています。ここでは、プレイヤーからすれば他人の物語であるeスポーツチームの応援や大会観戦のあり方をどう捉えればいいのかを考えました。

プレイヤーが「日常×自分の物語」を営んでいるところに、「他人の物語」に熱狂しろというのは受け入れられにくいでしょう。だとしたら、eスポーツチーム(プロゲーマー)はもう継続できないのでしょうか。

そうではなく、プレイヤーが自分の物語を編むことをエンパワーメントする存在になるべきだと述べています。応援してもらうことも、応援した人が人生をより充実させられるならたいへん価値あることです。

⑧ 構成(目次)
左端の箇条書きは、記事を書くときにどんな目次(見出し)で書いていくかの順番を明確にしたものです。これがあると、次に何を書けばいいのか迷わなくて済みます。

執筆とタイトル

ということで次は執筆とタイトルです。上記でまとめたことをひたすら論理の階段を上るように書いていきます

ただ、ここはあまりお伝えすることがなく、各々精進してくださいませと言っておきましょう。具体的な方法論は書くこと講座の(4)執筆編(6)承認編で書きましたので、参考にしてください。

記事は1万3000字で書き上げるのに4、5日くらいかかっており、いつもより時間がかかりました。それだけ手強いテーマでしたが、内容はよくなったと自負しています。

シェアと拡散

書き終わって公開したあと、通常は自分のTwitterで宣伝します。シェアと拡散ですね。(6)承認編にも詳しいです(ツイートだけで内容が分かるようにするのがコツです)。

ただ、今回僕は自分でツイートをしていません。というのも、渾身の記事を完全に読者の手に委ねたらどうなるかを知りたかったからです。結果としては多くの人に読んでもらえて、note編集部のおすすめにも載せてもらえました。公式アカウントでのツイートも。

しかしながら、自分で宣伝ツイートをしないのはまったくおすすめする方法ではありませんので、真似されませんよう。

書くこと講座の終わりに

以上で、書くこと講座はすべて終了です。全7回にわたってお送りしていますので、まだ読んでいない分があればぜひお目通しを。

この講座で紹介してきたことは、いずれも重要なポイントのみで、言いかえれば最低限の心得です。ここから皆さん自身でああでもないこうでもないと試行錯誤して記事を書いていってもらえれば嬉しく思います。

もし書いた記事をレビューしてほしい、どうするのがいいかアドバイスがほしい、といったご希望がありましたら、僕のTwitterからでも相談ください。可能な限りはお答えします。

書くことは簡単なように思えて難しく、難しいように思えて簡単でもあります。でも、それゆえに面白く、改善のしがいがあります。書き続けることが大切ですが、疲れたら休んでインプットに時間を割きましょう。

ここまで読んでいただき、まことにありがとうございました。

【これからnoteで書き始めたい人のための書くこと講座】
(0)宣言編 ←講座の狙い、何が学べるかについて
(1)マインドセット編 ←書き始める前に身につけたい心構えについて
(2)目的編 ←書き続けるために必要な戦略について
(3)準備編 ←決めておくとすらすら書ける手法について
(4)執筆編 ←いい感じの文章に見せるためのコツについて
(5)継続編 ←ネタ、時間、モチベーションについて
(6)承認編 ←多くの人に読まれるための工夫について
(7)実例編 ←イマコレ!

ここまで読んでいただき、ありがとうございます! もしよかったらスキやフォローをよろしくお願いします。