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デバイスの違いを超えたバーチャルイベントに辿り着くまで┃幸甚亭ライブを振り返る

バーチャル空間を利用したイベントはとても難しい。

なぜなら、特にclusterの場合、スマホ(タブレット)、PC、VR機器というデバイスの違いが体験の差に直結し、主催者がそれぞれのユーザーに対して共通の体験=価値を提供する方法が限られてしまうからです。

VR機器のユーザーは、感覚としてはバーチャル空間の中にいる状態です。スマホとPCのユーザーはそれとは異なり、身体の自由度は高くなく、あくまでディスプレイを通してバーチャル空間を眺めることになります。

もしこの3種のデバイスに共通の体験を提供するなら、基本的にはVR機器のユーザーが有する「空間内で自由に動ける機能」を横に置いて、誰にでも一様に体験してもらえる「見る」か「聞く」のコンテンツを提供せざるをえません。

そのため、特に企業主催のイベントでは単にスタジオの風景や動画をスクリーンに流したり、出演者がステージでトークをしたりすることになり、参加者はせっかくバーチャル空間にやってきたのに棒立ちでスクリーンやステージを見上げるしかありません。

でもそれだけだとなぁ……と思って、僕はこの半年ほど「デバイスを問わずユーザーが能動的に参加でき、インタラクティブな体験ができるイベントのあり方」を試行錯誤してきました。

それをかなり満足のいく形で達成できたのが、7月10日(土)に開催した幸甚亭ライブ 第七廻です。とにかく↓の動画を観てもらえれば、なるほどと思ってもらえるはず。

ということで、今回は僕がこれまでの幸甚亭ライブの企画・開催において何を考え、何を実践しようとし、この第七廻で何を実現できたのかをまとめます。スマホ、PC、VR機器というデバイスの違いがある環境でバーチャルイベントを開催したい方の参考になれば、甚だ幸いです。

そもそも幸甚亭と幸甚亭ライブとは

まず簡単に、幸甚亭について紹介します。

幸甚亭はclusterで運営しているバーチャルバーで、普段は毎週月水金の21時から営業しています。来てくれた人と雑談したり、時間帯によってはカジノで遊んだりしています(実際にブラックジャックとテキサスホールデムをプレイできます!)。

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幸甚亭は僕が好きなことをやるだけのバーチャル空間で、始めた理由はTwitterやnoteでは難しかった「ネットで友達を作る」という実験をしたかったからです(詳しくは↓の記事に)。

で、幸甚亭ライブは幸甚亭が主催する、バーチャルSNSのclusterで開催してきたクラブイベント。DJが音楽を流して、参加者が聴いて踊って騒ぐやつです。みんなで楽しいことをやりたいというだけで、バーチャルSNSでDJ文化を普及したいみたいな意識は強くありません。

これまで7回開催し、僕が自分でDJをやったり、友達にDJをやってもらったりしてきました。過去にも関連記事を書いているので見かけた方もいるかもしれませんが、幸甚亭ライブのコンセプトは一貫して「誰もが主役になれる」ことです。

そのため、最初から会場の設計にはこだわっていて、DJはいつつも、参加者が自由にステージに上がってパフォーマンスをできるようにしていました(詳しくは↓の記事に)。

「誰もが主役になれる」というコンセプトには「1対1の関係性」や「デバイスの違いを乗り越えた共通体験」を実現したいという目的が付随しています。ようやくこれらを(かなり!)実現できたと感じたのが、直近の第七廻でした。

※上掲の記事を読まなくても分かるようにまとめると、僕はネットを席巻する「1対多」へのアンチテーゼとしてネットで「1対1または少数対少数」の関係性を作っていきたいと考えています。

バーチャルイベントでもそれを実現するには、出演者が主役としてステージでパフォーマンスをしているのを、参加者が観客として一段下のフロアから眺めるだけ、という構図ではダメです。

ダメというのは僕の思想とコンセプトに適していないというだけで、そういうバーチャルイベントを否定していません。むしろもっと好きにやれ。

デバイスの違いを超えた共通体験が生まれた瞬間

前提として知っておいてほしいことが多いですね。しかし、上記を踏まえて冒頭の動画を改めて観てもらえれば、僕の考えを少し理解してもらえるのではないでしょうか。

撮影はいつもながらダンスアンバサダーを務めてくれたPOKKYさん。都合で無音にしていますが、走り出したくなる楽曲が流れています。

幸甚亭ライブ 第七廻で生まれた光景の一部です。何度観ても最高。しかも、同様の光景が4時間のイベント中に何度も発生しました。

スマホ、PC、VR機器のユーザーがデバイスの違いを超えてステージの周囲を走り回っている光景は、僕が思うに、バーチャルイベントとしてけっこう極まっている瞬間だったのではないでしょうか。

※前回のvol.6未満でも同じ会場にしていたんですが、みんながステージの周りを走る現象はそのときに自然発生しました。第七廻ではそれを狙って演出に取り入れたわけです。

前回までのさらに先

これまでのライブでは、誰でも主役になれる会場にしてはいたものの、暗に身体を自由に動かせるVR機器ユーザーだけが対象になってしまっていました。スマホとPCのユーザーはアバターを自由に動かせないので、パフォーマンスするのが難しいからです。

とはいえ、何人ものVR機器ユーザーがステージに上がって踊ってくれていました。いままでの6回ともがこのフリーパフォーマンスを取り入れていたので、常連の方には「幸甚亭ライブはそういうイベント」として認識してもらえていたのだと思います。

第七廻でも、ライブが始まってすぐに360度ステージを取り囲むようにVR機器ユーザーが踊り始めてくれました。実は僕は、DJをやりながら皆さんの後ろ姿を見て感極まっていました。気持ちを言葉にできないくらいに。

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撮影は僕と、DJをしてくれたでんこさん。ここに映っている方以外もたくさん踊ってくれていました。

ただしもちろん、ステージで踊っているのはほぼ全員VR機器のユーザーです。それは前回までと同じで、かつ想定していたことなので、第七廻ではその先をいかなければなりませんでした。

つまり、スマホとPCのユーザーにもパフォーマンスに参加して主役になってもらうこと。その答えが先ほどの動画です。写真でも別のシーンを紹介しておきます。

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ミニ四駆がドリフトを決めている! ちなみに自動車も走っていましたし、寝パンダやダチョウ、ロブスター、寿司も走っていました。

もう1つの工夫として、「使う」でパーティクルが発生するケミカルライトも用意していました(ちょっと不具合がありましたが)。これによってclusterのエモーションだけでなく、より積極的に音楽に合わせてリアクションを取れるように。clusterには早いところ動き=モーションが実装されるといいですね。

なお、会場の設計やアイテム、ギミックにはまだまだ工夫と開拓の余地が多く残されているように感じます。それが何なのか、どう実現すればいいのかは分かりませんが。

とはいえ――幸甚亭ライブ 第七廻は、少なくとも何度かの瞬間は、会場にいた全員が真に主役になったイベントになりました。踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿保なら踊らにゃ損々。

分かってくれていたDJ陣&ダンサー陣

ところで実は、開始直前に会場のとあるオブジェクトが激烈に重いことが判明し(ある程度人数が集まらないと分からなかった罠)、僕が直そうとUnityを立ち上げたらPCがフリーズして開始時刻が1時間延びてしまいました。

皆さんをお待たせしてしまったのは申し訳なかったものの、トラブルもよき思い出にしてもらえたら幸い。僕としては自分が参加者の立場でもあらゆるイベントのトラブルはそれ自体を余興だと捉えているので、幸甚亭のトラブルはそういうものだと受け止めてもらえればと思います。

で、それに動じずプレイしてくれたDJ陣とダンサー陣には感謝。DJ陣はでんこさん、Dolphiiiinさん、至日レイさん。ダンサー陣はアンバサダーをお願いしたのはPOKKYさんだけですが、踊ってくれた皆さま方、本当にありがとうございました。

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ダンサー陣は前述したように、そしてDJ陣も僕の考えを完全に理解してくれていました。でんこさんとDolphiiiinさんは走りたくなる楽曲を組み込んでくれていて、至日レイさんは幸甚亭と幸甚亭ライブの歴史をフル活用した動画でVJをやってくれました。

幸甚亭ライブはclusterのイベント枠4時間を全部使い、音楽を流しながら枠の強制終了で終わっていくのが通例です。至日レイさんのVJはまさにその仕様を利用した斬新な演出でした。エモすぎた。

次回のアイデアは……まだ思い浮かんでいない!

幸甚亭ライブはもともと身内ノリで、いつも幸甚亭に来てくれる人が楽しんでくれればいいやという軽い感じで始まりました。いまも同じくらい軽い気持ちで突然企画して日程を決めており、身内ノリの体裁を取ってはいますが、cluster自体の成長に伴って参加者も増えてきました。

このところライブの振り返りを書いてなかったのでイベントの参加者数を公開していませんでしたが、ちょっと振り返りがてら見てみましょう。

◆第1回 2020年12月25日 幸甚亭クリスマス 2020 ~1時まで延長戦~
延べ参加者数 147人

◆第2回 2021年2月13日 幸甚亭ライブ "Bean to Bar"
延べ参加者数 241人

◆第3回 2021年3月13日 幸甚亭ライブ "Never too Late"
延べ参加者数 216人

◆第4回 2021年4月10日 幸甚亭ライブ "アバター解放宣言"
延べ参加者数 337人

◆第5回 2021年5月15日 幸甚亭ライブ vol.5 ~DJが好きな楽曲を流してみんなで遊ぶクラブイベント~
延べ参加者数 507人

◆第6回 2021年6月12日 幸甚亭ライブ vol.6未満┃誰でもふらっと参加できるクラブイベント
延べ参加者数 284人

◆第7回 2021年7月10日 幸甚亭ライブ 第七廻┃誰でも参加できるし主役にもなれる音楽イベント
延べ参加者数 357人

4月以降は増減が激しいものの、およそ300人ほどの出入りがあるようです(ユニーク人数ではなく会場への出入り回数)。ちなみに、毎回最後の瞬間まで30~40人くらいが残ってくれています。

clusterのイベント枠は3月のアップデートで同接50人までアバターが表示されるようになったので、この規模なら全員が自分のアバターで一堂に介せるのでありがたいですね。しかも、7月のアップデートで同接100人までアバターが表示されるようになりました(101人以降はゴーストという周囲からはアバターが見えない状態になります)。

幸甚亭ライブも一時的には同接50人を超えるんですが、100人はかなり遠そうです。と言いつつ、そこを目指して頑張るモチベーションが特にないので、気楽に楽しんでいこうという所存です。もちろん、来てくれる人が増えるのは嬉しいし、そのためにできることはやってくぞ。

6月くらいからclusterにも少しずつDJライブのカルチャーが根づき始め、何名もDJデビューされています(僕のノウハウ記事を読んでくれた人も多いらしい)。演奏や歌唱など音楽イベントも激増していて、完全にムーブメントが来てます。

この盛り上がりを継続できればいいなと思いつつ、幸甚亭ライブの次回vol.8はいまのところ何も考えていないし着想もありません。

だって第七廻が終わって1週間、まだ余韻に浸ってるからね。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます! もしよかったらスキやフォローをよろしくお願いします。