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水物だらけのシーンで、確固たる目的と持続可能なeスポーツ目標だけが拠り所になる

表層的に見れば、eスポーツシーンは水物だらけで成立している。

いつサービス終了するか分からないゲーム、朝令暮改で変わっていくルール、来年のスケジュールが見えないリーグ、離合集散を繰り返すチーム、気まぐれで引退する選手、おいしいとこ取りで利用しようとする広告主、受託でしか成り立たない企業、話題だからとネタにするメディア……。

こうして眺めると、ゲーム業界外からの「ゲームの人気がなくなる前にぱぱっと儲けてさようなら」という向き合い方も理に適っているように思える。

しかし、この表層をはがして内側を見つめると、確固たる理念、リソースを効率的に利用する仕組み、高い志を持ち目標の実現に向けた活動といったシーンの持続のための営みが、eスポーツに関わるうえでいかに大事かが分かってくる。そしてそれこそがビジネスに取り組むうえでも最も重要であることも。

この「持続のための営み」をいい感じに言いかえると、「持続可能なeスポーツ目標」となる。もちろんこれはSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)から借りてきた言い回しだが、eスポーツシーンにも当てはめたくなるほど魅力的であり、不可欠な思想である。

この思想を前提に今回取り上げたいのが、JeSU肝煎りの全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI(国体eスポーツ)だ。はたして国体eスポーツは持続可能なeスポーツ目標という観点から見て、どういう役割を担っていたのか。

各協会・各企業が目標にしていた国体eスポーツ

2019年の国体eスポーツが発表されて以降、地方eスポーツ協会や地方に拠点を置く企業がこれに注目してきた。地方協会にとっては存在感を示すまたとないチャンスだし、企業はチームを作って代表選手を送り込むことを目指してもいた。

その結果や盛り上がり、注目ポイントは徳岡正肇が丁寧にまとめているので参照してほしい。視聴者数はどのタイトルも2000ほどだったが、現地ではたいへんに熱かったそうだ。参加した選手にとっても大きな価値があっただろう。

一方でこの記事で触れられていないのが、そもそも国体eスポーツがシーン全体においてどういう価値を持っていて、どんな役割を担っていたのかということだ。

直前に述べたように、国体eスポーツを大きな目標にしてチームを立ち上げた企業・団体がいくつもあった(目的はeスポーツの普及や何やかやだ)。eスポーツに何らかの形で参入するきっかけという意味では、国体eスポーツは間違いなく重要な役割を果たしたと言えるだろう。

しかし、それが終わってしまったいま、そうしたチームはどこに向かっていくのか? 2021年の三重とこわか国体でもeスポーツ関連のプログラムがあるそうだが、次はこれを目標とするのだろうか。ではその次は? 国体ではずっとeスポーツが採用され続けるのか? あるいは、採用されるゲームが違うかもしれないのはどうするのか?

お気づきのように、国体eスポーツには持続可能性に欠けるというeスポーツシーンにおける非常に重大な課題が含まれている。これは特に地方創生というお題目にとって致命的な課題だが、正しく認識し対応できている地方協会は多くないように見える。

地方協会の持続可能なeスポーツ目標とは?

国体eスポーツが地方創生と関連づけられ、そこに地方協会が絡むという形はいまはもう珍しくもない。むしろ、JeSUの傘下かどうかを問わず、地方協会の目的はeスポーツを通した地方創生にある(そうではない地方協会もあるだろうか?)。ところが現実を見てみると、地方でeスポーツを活用して創生や活性化の道筋を見通せている、もしくはその糸口を掴めている地域は5本の指で足りるくらいだ。

当たり前のことだが、地方創生に欠かせないのは人口か事業であって一過性のイベントではない。国体eスポーツはeスポーツに関わり始めるきっかけの1つではあるし、2年に1度のお祭(お披露目)として機能するだろうが、単に出場や優勝をeスポーツ目標──すなわち中長期の目標として掲げるのは、目的の達成のためにはふさわしくない。

※目的とは存在理由で、目標はそれを達成するために必要な事柄(いくつでもいい)。弊誌で言えば、目的はeスポーツでハッピーになるための情報を提供することであり、目標は週1の記事更新となる。

にもかかわらず、どうやら多くの地方協会で国体eスポーツが大きな目標になってしまっていた/なってしまっているようだ。さらに、イベントを開催して人を集めることを重視している地方協会や企業も少なくないという。けれども、そのような一過性のイベントに人が集まったところで何も起きない。残るのは関係者の自己満足と疲労に伴う達成感だけだ。

だから、eスポーツを通して地方創生を目論むのであれば、eスポーツを起点にして定住人口を増やすか事業/産業を興すしかない。富山や福岡の協会はゲーム会社を誘致して産業基盤を作ろうとしているそうだが、それは地方創生という文脈ではかなり正解に近い道筋の1つだろう。

もちろん、地方協会がToyamaGamersDayに憧れてイベントを開催しようとするのは理解できる。けれど、このイベントは開催が目的ではないし、目標も集客にはない。TGDは地元企業にeスポーツのポテンシャルを示すことが目的であり、そのために地方協会がなすべきことをやっていると示すことが目標になっている、と僕は考えている(そのために集客やスポンサードが必要になる)。富山県eスポーツ協会には、地域にeスポーツを通じた産業を作るという持続可能なeスポーツ目標があるのだ。

地方協会がeスポーツで地方創生することを目的に掲げるなら、明らかにイベントや大会の開催自体を目標にすべきではない。地方協会のTwitterアカウントなどでイベント開催報告がなされていることがままあるが、たかだか数十人を集めたところで何になるのか? 無駄だとは言わないが、それは地方協会がすべきことではない(イベント開催をメインにしたいならコミュニティを称するべきでは?)。

地方協会は地方創生のために、eスポーツを通じた産業の基盤を作らないといけない。つまり、イベントを開催してくれる人を見つけたり、コミュニティを育てたり、助力してくれる企業を探すことだ。これが目的を達成するための持続可能なeスポーツ目標になる。そう考えると、サポートすることはあってもみずからイベントを主催・運営している暇はないはずだ。

この考え方があれば、国体eスポーツをどのように捉えればいいのかも見えてくる。はたして国体eスポーツで地方に何が残ったのだろうか。

その目標は持続可能か?

先ほど書いたように、国体eスポーツが持続可能性に欠けるという課題からは一般性を導ける。すなわち、どんな大会やリーグも基本的には短期の目標にしかならないということだ。あるチームが直近の大きな大会でベスト8になることを目標に掲げたとして、その大会が終わったあとはどうするのか。別の大会か、また来年同じ大会での好成績を目標にするのか?

あるいは、あるプレイヤーが名誉や富を目的に人気ゲームでトッププレイヤーになることを目標にしたとして、そのゲームの人気がなくなったらどうするのか? 別のゲームに転向するにしても、実力は及ぶのか?

プロやそれに近い立場を自覚しているプレイヤーやチームには、何らかの大きな目的がある。ゲームで食べていくだとか、ゲームを通して誰かに夢を与えるだとか。一介のプレイヤーであれば大会での優勝が目的になることはあっても、プロならありえないだろう。その大会がなくなった時点で存在理由が消滅してしまうのだから。

水物に照準を合わせた目的は脆く儚い。eスポーツシーンは水物だらけだが、ゆえに多少の天変地異が起きても揺るがない目的と目標を持っているプレイヤーは強くあれる。ここで改めてeスポーツのプロを定義するなら、流行り廃りに左右されない確固たる目的を持っていて、それを達成するために必要な持続可能なeスポーツ目標を持っていること、としたい。

『モンスト』が国内eスポーツの最前線を走れる理由

このことは地方協会やプレイヤーにだけあてはまるわけではない。ゲーム会社にしても、目的と目標がしっかり確立していてそのための手段としてeスポーツを活用できている企業は着実に成長を遂げている。

例えば、『モンスト』を展開するミクシィはいま日本で最も多くの視聴者数を集めるeスポーツ大会を開催している。これが実現されたのは、ミクシィが『モンスト』のリブートや売上回復を狙って戦略を立て施策を行なったからではない。ミクシィが人々のコミュニケーションを盛り上げることを目的(ミッション)にしており、そのために資産である『モンスト』をフル活用するという目標を持っていたからだ。

どうすれば『モンスト』でユーザーのコミュニケーションが活性化するか? そこにeスポーツという選択肢があった。プロを育て彼らが輝ける舞台を作り続けることが、『モンスト』における持続可能なeスポーツ目標なのだと言える。漫然と大会を主催したり受託したりするだけでは、『モンスト』のようなシーンを作ることは叶わないだろう。

あらゆる個人・団体が目的と目標を持たなくてはいけない

大げさに言えば、eスポーツに関わる/関わりたいすべての個人や団体はみずからの存在理由(目的や理念)と、持続可能なeスポーツ目標を持たなくてはいけない。当然、それは強制されるものではないが、長期的に活動していくには絶対に必要なことである。

このように考えると、eスポーツは人が中心だと言われる理由もはっきり理解できる。長期を見据えた目的や目標を持てるのは人だけだからだ。そして、人はそれらを持つ人を応援したくなる。これは目的や目標を自分事にしてもらえば応援されるということでもある。

気をつけないといけないのは、正しい目的に対して誤った目標を持ってしまうことだ。僕が地方協会の中の人に実態を少し聞いたときに感じたのは、まさにそれだった。eスポーツで地方を盛り上げるには事業/産業を興し雇用を作るしかないのに、小規模イベントを主催して満足・疲弊していては発展性がない。

そのための方法としてはゲーム会社の誘致のほか、ゲーミングチームを誘致するなどいくつかあるだろう。特に後者は今後地方協会が積極的に取り組んでいくといいのではないかと思われる(eスポーツ施設は、僕は現状ネガティブだ)。人気チームのホームだという理由で大きな大会がその地域で開催される可能性もある。

RAGEや『Shadowverse』など、地方に足を踏み入れている大会やゲームも数多い。明確に地域を冠しているチームも少なくない。そこにどんな目的と目標があるのか、分析してみるのも有用だろう。

繰り返すが、イベントは施策でしかない。さらにイベントは戦略あってのもので、戦略は目標を達成するためのものだ。そして目標は目的があって始めて意味をなす。この階層構造にはいろいろな定義や形がありうるものの、自分の方程式を持っていれば問題ない。施策で疲弊している人には、まずは自分たちの目的から検討してみてもらいたい。

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