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あらゆるesports大会が抱える、通常プレイと大会設計の乖離問題

クラロワリーグ アジア シーズン2の優勝チームを決めるプレイオフで、PONOS SportsのライキジョーンズがBANカードに指定されたトルネードを使用し、ルール違反で敗北するというアクシデントが起きた(この動画を参照:MATCH2 SET2 GAME3)。

チャット欄では選手の責任だ、あるいは主催運営側の責任だと喧々諤々だったが、はたしてこのルール違反は誰の責任だったのか? こうしたルール違反はほかの大会でもしょっちゅう起きているが、このことを考えるのは、実はesportsタイトルが克服しなければならない重大な課題について考えることに等しい。

その課題とは、通常プレイ時のゲームルール(通常プレイルール)と大会の時の特殊なルール(大会設計)の乖離をどう埋めるか、どうやって乖離のないルールを作るか、なぜ同一のルールにできないのかということ。ゲーム会社、大会主催者、チームと選手、すべての関係者が向き合わないといけない問題だ。

そこで今回は、大会を実施する際のルールのあり方について改めて議論する。今後esportsシーンを盛り上げていきたい人たち、特に大会を主催していきたいと考えている人たちに、大会設計をする際に役立ててもらいたい。

【目次】
クラロワリーグにおけるBANカード
通常プレイルールと大会設計の乖離
運営を考慮した大会設計&ゲーム設計
事例:WoT、PUBG、LoL
乖離を小さくしながら、面白くて運営しやすい大会設計を

※なお、この記事では「大会主催者」に実質的な運営者も含む(主催者とは別会社が行なう場合は多々ある)。クラロワリーグの場合、主催者はSupercell、運営者はWell Playedだが、特に区別しない。

※通常プレイルールとはゲーム内の機能にすべて実装されているルールのこと。『クラロワ』のBANカードはそれに含まれず、『LoL』のBAN枠は含まれる。ちなみに、ゲーム設計はゲームの内外を含めた全体のデザインのこと。

※追記:ちなみにシーズン1でも同様のアクシデントが起きている。

クラロワリーグにおけるBANカード

まず、クラロワリーグ シーズン2の大会設計と、ライキジョーンズによるルール違反について確認する。

クラロワリーグはBO3のチーム戦である。SET1は2on2形式のBO3、SET2は1on1形式のBO3、それで勝負がつかなかったらSET3として両チーム3名ずつの勝ち抜き戦(KING OF THE HILL)が行なわれる。それぞれのSETでBANカードが指定され、使用すると当該のGAMEで敗北となる。

※チーム対チームをMATCH、MATCH内の2on2や1on1をSET、SET内の各試合をGAMEと呼ぶ。

PONOS SportsのライキジョーンズはSET2のGAME3で、Bren EsportsのManong JhipeeがBANカードに指定したトルネードを使用。実況解説の岸大河とドズルが戸惑う中も試合は続行され、Manong Jhipeeが勝利した。

その後、主催者による協議が行なわれ、岸からライキジョーンズによるルール違反とGAMEの敗北が宣告。PONOS SportsはSET2を落とし、MATCHに敗北した(ライキジョーンズは当該のGAME自体に負けていたので勝敗はルール違反と関係ないが、その点は今回関係ない)。

流れだけを見ると、BANカードをデッキに入れてしまったライキジョーンズ自身に100%の責任があるように見える。

だが、冒頭で紹介した試合の放送を見てもらいたいが、GAME前に設けられたデッキ変更タイムの最中、ライキジョーンズの隣にスタッフ(審判)が立っている。しかも、デッキ変更タイムが終了する合図も送っている。

このとき、なぜ審判はデッキをチェックしなかったのか? それがデッキ変更タイムにおける審判の確認フローに含まれていたら、確実にBANカードの使用というルール違反は防げていただろう(何らかのペネルティはあるとしても、敗北判定ほど重くはないと思われる)。

GAME1の場合はチームメイトと監督がデッキ作成に関与できるため、BANカードが入り込む可能性は極めて低い。GAME2はタイムアウトがあった。しかし、GAME3の前に設けられたデッキ変更タイムは試合に臨む選手1人だけ。緊張や集中によってBANカードを忘れてしまうことは充分に考えられた。ましてや、PONOS Sportsにとってはこれに勝たなければあとがない大事な試合だった。

――BANのトルネードを使ってしまうミスがありましたが、やはり緊張があったのでしょうか。

ライキジョーンズ 最後のジャッジで、「BANカードを使ったため」といわれるまで気がつきませんでした。待っているときも一瞬相手がポーズ撮ってるのもわかったので端末トラブルか何かと思っていました。いままでやっていないミスで、初歩的過ぎてするわけないと。注意不足でした。

“クラロワリーグ アジア”世界戦をかけてのプレイオフは韓国のKING-ZONE Dragon Xが勝利!」より

ライキジョーンズ本人も動画を上げている

明らかに、大会主催者が万全の対策をすべきだった。隣にいた審判はいったい何だったのか。このことから、僕はこのルール違反は大会主催者に100%の責任があると考える。もしこれが言いすぎだとすれば、BANカードに意識が回らなかったライキジョーンズに5%、GAME1前のデッキ作成タイムですべてのデッキからBANカードを抜くよう指摘しなかったチームに5%の責任があると思う(数字はただの感覚だが)。

いずれにせよ、BANカードを始めとした大会ルールは『クラロワ』の通常プレイルールには存在しない。大会を設計したのは主催者であって、ルールを守らせるのも主催者の役割だ。そもそも大会主催者とは選手に万全の態勢で試合に臨めるようにする存在でもある。ゆえに、対策を怠った責任は極めて重い。

ただ、だからといって大会主催者を過度に責め立てる必要はない。クラロワリーグは日本でも最高峰のクオリティを誇る大会で、そのために関係者が血と汗を滲ませて尽力してきたことはあらゆる点から想像できる。大会設計も面白い。けれど、人間が完璧でない以上、ミスは確率に従って起きてしまう。それが、不運にもPONOS Sportsにとって最も大事な試合で本件が起きてしまっただけなのだ。

ライキジョーンズにしても、本件を気にしすぎなくていい。むしろ、pontaが正しく指摘したように、試合自体に敗北した事実を受け止め、さらなる練習を重ねて世界一決定戦に向かってほしい。観戦者やファンも、執拗に罵倒し粘着するのはやりすぎだ。

※Well Playedがとても入念に大会設計を行ない、高いクオリティを発揮していることは業界ではよく知られている。ぜひ「esports専門会社が考えるルール設計の意思と意図の重要性」を読んでほしい。

通常プレイルールと大会設計の乖離

ところで、これはクラロワリーグだけの問題ではない。ほかのesports大会においてもよくあることだ。その原因は、『クラロワ』とクラロワリーグでも明らかなように、通常プレイルールと大会設計の乖離にある。

『クラロワ』の通常プレイルールにBANカードはないし、どのゲームモードでもBANカードは設定できない。もしゲーム内にその機能が搭載されていたら、BANに指定された時点で選択できなくなり、今回のようなルール違反は絶対に起きないだろう。しかし、現実には競技ルールで遊べるモードはなく、クラロワリーグのために特別にBANカードというルールが設けられた。

それ以前に、クラロワリーグの各MATCHはチーム同士(3対3)のBO3で、この点からして通常プレイルールにはない。各SETのBO3というルールも、KING OF THE HILLというルールもない。どれもクラロワリーグのために作られたルールだ。

大会設計は、ゲームの外側と内側の両面に手を加える場合がほとんどだ。ゲームの外側とはBO3やダブルイリミネーション、リーグ形式などのことで、大会全体における戦略に大きな影響を与える。ゲームの内側とは使用禁止アイテムや試合時間の指定などのことで、個々のプレイに大きな影響を与える。

大会を実施する場合、外側のルールを作成することが多いだろう。BO3、リーグ形式などを可能にする機能がゲーム内にもともと搭載されていることは非常に少ない。だから、大会主催者はある程度自由に設計できるし、それによって大会ルールの多様性も生まれる。『クラロワ』や『シャドバ』のように、通常プレイルールでは個人戦でも、大会ではチーム戦にすることもある。こうした外側のルールは「大会ルール」と呼ぼう。

一方で、ゲームの内側のルールを作成することもある。多くの大会では通常プレイルールと同じルールにすることが多いが、通常プレイとは違えることで工夫を凝らしたり、そもそもesportsとして実行しづらかったりする場合に新しく大会用のルールが作られる。こうした内側のルールは「競技ルール」と呼ぼう。

●大会設計――大会全体のレギュレーションのこと。大会ルール+競技ルール
●大会ルール――大会の開催や進行に関わる、ゲームの外側のルールのこと
●競技ルール――プレイや戦術に影響を与える、ゲームの内側のルールのこと。

これら大会ルールと競技ルール(合わせて大会設計)が通常プレイルールと乖離すればするほど、そのギャップを何かで埋め、参加者に守らせる必要が出てくる。だいたいの大会ではそれがチーム・選手の注意やスタッフの人力で賄われる。クラロワリーグを見れば分かるように、デッキ作成・変更タイムを設けたがゆえに審判が立ち会って終了の合図をする必要が生じていた。リーグ形式にする場合も、勝敗や選手の勝率をカウント(インプット)するのは人力だ。これは勝ち上がりのトーナメント形式でも同様で、たいていはスタッフがトーナメントを人力で更新していく。

そして人力であるがゆえにミスが起こる。勝った選手と負けた選手を間違えたり、チームの勝ち点を間違えたり。トーナメント表を自動で作成し、更新も簡単にしてくれるsmash.ggのようなツールはある。ツールを活用すれば、人力で行なわなくてもよくなる作業が増え、手間やミスはいくらか省けるだろう。しかし、それは大会ルールだけだ。競技ルールをサポートしてくれるツールはゲーム内に実装されていなければ基本的に存在しない。

運営を考慮した大会設計&ゲーム設計

大会主催者としては、こうした乖離をいかに小さくするかに腐心しなければならない。BO3やダブルイリミネーションなどであればルール自体が広く普及しているのでノウハウが蓄積されており、運用もやりやすいだろう。

もちろん、RAGEのスト5オールスターやRed BullのTower of Prideのように、それとはまったく異なる大会設計は面白いものも多い。だが、通常プレイルールや普及している大会設計から乖離すると、その運用を人間に頼る部分が大きくなり、ミスが起きる可能性も高まる。

ゲーム会社としては、もしタイトルをesportsとして展開したいなら、できるだけ通常プレイルールと大会設計が乖離しないようにしてもらいたい。特に競技ルールについてはよくよく検討すべきだ。例えば、公式大会で使用禁止アイテムを設定する予定なら、それを通常プレイルール、もしくは何らかのゲームモードで実装する必要がある。

通常プレイルールで15対15ならば大会ルールも15対15にすべきで、唐突に7対7にするのは意味が分からない。こうしたギャップは、大会主催者がルールを作成・運用する際に困難を生じさせるだけでなく、プレイヤーにとっても通常プレイルールでのプレイが大会にはまったく活かせなくなるというデメリットがある。

大会ルールに関しては、柔軟性を持たせておくのは間違いではない。しかし、例えば観戦モードがないのに大会を放送しようとするのは無謀だ。esportsとして展開するなら何が必要なのかを考慮し、ゲームを開発する必要がある(例として、『Rocket League』はカスタムマッチでチーム名の設定ができるし、Bo3からBO7までゲーム内で設定できる)。

選手は用意されたルールを遵守する立場で、よほどおかしな設計でない限りは選手から変更の声を上げるのは難しい。ルール違反すればペナルティがあって当然とはいえ、遵守のために尽力すべきは設計を行なった側だ。だからこそ、大会運営を考慮したルールの作成が欠かせない。

事例:WoT、PUBG、LoL

ここで少し寄り道をして、通常プレイルールと大会設計の乖離について『クラロワ』以外の3つのタイトルを見てみよう。『WoT』、『PUBG』、『LoL』である。

通常プレイと大会でまったく別ゲーと化した『WoT』
いまでこそ少しマシになったとはいえ、『WoT』には当初観戦モードがなく、試合を観戦するにはWargaming社員しか扱えない観戦専用車両を使用する必要があった。だから、サードパーティが大会を行なう場合は社員が立ち会うか、別の方法で観戦しなければならなかった。すなわち、どちらかのチームに余分な1両を潜り込ませ、試合開始直後に撃破してもらい、試合を観戦するという方法だ(撃破されると味方の視点に移動できる)。のちに、どの車両でも観戦モードで試合に入れるようになった。

また、『WoT』は通常プレイルールでは15対15だが、大会ルールでは7対7。競技ルールもまったく別ゲーと化していて、「戦車で移動して弾を撃つ」くらいしか共通点がない(競技ルールがゲームモードの1つとして実装されたのは幸いである)。それ以外にも『WoT』は大会設計が変更されすぎており、大会を安定的に運用するのが非常に難しかったタイトルである。

『PUBG』のPJS、キルポイントはどうやって計算するのか
先日全日程が終了した『PUBG』のリーグであるPJS。PJSでは生き残ったチーム順にポイントが付与され、順位が決定される。また、試合ごとのキル数に応じて加点もされる。そのポイント制度は通常プレイルールにはなく、大会主催者が目で確認して計算ソフトに入力し、合計しなければならない。

そのため、PJS初期には計算ミスも頻発していた。スタッフが慣れたこととシステムが開発されたことでミスは減っていったそうだが、最新のタイトルでも通常プレイルールと大会設計が乖離するとミスが起きる典型的な例である。PUBG社が本格的にesports展開を始めるのであれば、通常プレイルールにポイント制度を導入するか、あるいはゲームモードの1つとしてこのポイント制度を導入してもらいたいものだ。

BAN枠6から10へ、通常プレイルールでも実装した『LoL』
通常プレイルールと大会設計が大きく乖離しているタイトルが多い中で、『LoL』は両者のギャップがあまりないと言っていい。誰でもプレイできるドラフトモードは競技ルールと同じだし、大会ルールも複雑ではない(Worldsのトーナメントは少しややこしい)。

特に、以前まではドラフトモードも競技ルールもBAN枠が6枚だったが、大会での必要に合わせて10枚に増やした際、大会用の特別なモードを作るのではなく、ドラフトモード(通常プレイルール)のBAN枠を10枚に増やしたのは英断であった(ランクとノーマル、順次適用ではあった)。

自動観戦カメラにしろ何にしろ、『LoL』は通常プレイルールと大会設計の乖離に極めて敏感なタイトルだ。これはRiot Gamesがesportsに力を入れていること、また、一般プレイヤーとプロシーンをできるだけ強く結びつけようとしていることの証拠だろう。

通常プレイルールと大会設計(特に競技ルール)の乖離が大きいほど、競技志向のない一般プレイヤーはesportsシーンに興味を持ちづらいと考えられる。なぜなら、自分がプレイしているゲームとルールが違うからで、観戦してもよく分からないからだ。そして、自分のプレイの参考にもならず、自分事にはなりにくい。自社タイトルをesportsとして展開しようとするなら、その点に考慮する必要がある。

乖離を小さくしながら、面白くて運営しやすい大会設計を

ほかにも『スマブラ』のゲームモードや、『ぷよぷよ』の通とフィーバーのルールについても乖離問題は存在している。esportsシーンの発展において大事なことは、いかに一般プレイヤーをesportsシーンに引き込んでいくかということだ。だとすれば、一般プレイヤーが戸惑うような大会設計は極力避けたほうがいい。大会ルールはもちろん、競技ルールならなおさらに。

だいたい、通常プレイルールが大会に臨むための練習として基本的な操作以外全然役に立たないというのは、esportsタイトルとして展開するうえでゲーム設計自体が間違っていると言わざるをえない。と、こう書くと『LoL』ですらソロプレイでの練習は大会に役立たないと言われてしまうが、実際に役立たないのだとしたら、ゲーム設計が間違っているのだ(『LoL』はさまざまなゲームモードがあり、競技ルールとほぼ同じものもあるが)。

『クラロワ』にしても、BANカードの有無でデッキの作り方、相手のデッキの読み方はまったく異なるため、通常プレイが大会に役立つとは言えない。しかし、その乖離は上記で紹介した昔の『WoT』ほどは大きくないだろう。役に立つ部分も非常に大きいのだ。

必要なのはやはり、通常プレイルールと大会設計の乖離を小さくしつつ、あるいは独自の大会設計ならその周知と運用を徹底させて、面白い大会を作ること。先にも書いたように、大会設計とはプレイヤーがベストパフォーマンスを出せて、同時に観戦者が試合を最大限に楽しむためにこそある。かつ、主催者がなるべく手間を省け、アクシデントが起きないような設計にするのがよい。

これから大会を主催しようとしている人にはどうかこの点を重々理解していただき、各タイトルを盛り上げてもらいたい。

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※2018年11月13日訂正:『LoL』の以前のBAN枠を5と書いていたので6に。1チーム3枚から1チーム5枚になった。

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