『知らない人んち(仮)』第1話「憧れの丁寧な暮らし」【小説】 #テレ東シナリオコンテスト
これはnoteとテレ東のコラボドラマ『知らない人んち(仮)』のシナリオコンテストの応募作品です。
これまでの『知らない人んち(仮)』
「夕飯に出前オゴってあげるから、家泊まってってイイですか?」と声をかけたら、果たして泊めてくれる人はいるのか?」という体当たり企画を始めたYouTuberのきいろ。
道端で土を弄っていた女性(ジェミ)に声をかけると、彼女と同じ家に住む住人たち(アク、キャン)に快諾され、あるシェアハウスを訪ねることに。撮影もしていいとのことだったが、なぜかアクから外観など場所が特定できる情報は映さないことと条件を課される。
きいろはさっそく家の中を探検するが、×マークのテープが貼ってあるドアを見つける。入ってみようとしたら、ジェミにすさまじい剣幕で拒否される。いわく、暗室だから入らないで──しかしその豹変ぶりは普通ではない。
子供が描いた家族の絵や空のペットケージなどを見つけ、「……この家、この人たちの家じゃない」と気づく。
不審に思うも「何か面白いものが撮れるかも」と欲が出たきいろは家に留まることに。
第1話 憧れの丁寧な暮らし
飴色のタマネギとスパイスで作るカレー
1階のリビングルームでそわそわしているきいろ。もしかしたら前の住人が何らかの理由でいなくなり、彼らがこの家に勝手に住んでいるのではという可能性に思いを馳せる。あるいは、彼らこそがその原因ではないかと。
けれど、彼らは玄関に置きっぱなしになっていた三輪車について何も言わなかった。それはごく当たり前の光景で、来訪者に注釈するようなものではないのかもしれない。もしかしたら誰かに子供がいる? それでも、平日の昼間にYouTuberでもないのに家にいるというのは不自然だ。
そういえば、仕事について尋ねようとしたら、アクが話を変えたがった。人に言えないような仕事か、あるいは全員が無職であることを隠したかったのか。
いろいろな憶測と妄想がきいろの脳裏を駆ける。面白いものが撮れるかも──その確信はゆるがないが、まだ輪郭はぼやけている。いったいあの3人にはどういう事情があるのだろうか。
そのうち、アクが買い出しから帰ってきた。「じゃあさっそく夕飯を作りますね」買い物袋から取り出したのはジャガイモ、ニンジン、タマネギ、肉……どうやらカレーらしい。
「料理はアクさんの担当なんですか?」きいろがスマホのカメラを向けながら尋ねる。たしか、キャンとジェミは2階の女子部屋にいる。
「輪番制です。今日は僕で、明日はジェミさん、明後日はキャンさん。もちろん、明日はきいろさんに作っていただいても構いません」にこっと笑いながらアクが答えた。「客人とはいえ、我々もタダで誰かを泊めるほど裕福ではありませんからね」
「ええ、もちろん!」それは明日もこの家にいていいという言質だから、きいろはむしろその申し出に喜んだ。
アクは話しながらも野菜を切っている。その包丁裁きはゆっくりだが繊細で、ジャガイモがほとんど均等の質量で切られているのが見て分かる。ほかの材料もきっかり4等分に切り分けられていく。
それから、アクは棚から箱を取り出した。開けてみると、なんと多種多様なスパイスが収められている。「もしかして、ルーも作るんですか?」
「ええ、そのほうがおいしいですから」アクが惚れ惚れするほど美しくみじん切りしたタマネギをフライパンに投入し、木べらでしっとりするまで混ぜ合わせる。
飴色のタマネギ。きいろにとっては、いつぞやそういう雑誌で読んだ丁寧な暮らしの代名詞のようなものだった。そこに少量の水が注がれ、弱火で煮込まれとろけていく。そこに何種類ものスパイスが投じられ──ショウガとニンニクはきいろにも分かった──カレールーらしくなっていく。
「すごーい! わたしだったらルーを使うから材料を煮込むだけなんですけど、スパイスを使うとこんなに時間がかかるんですね」きいろは素直に驚きの声を上げた。
「僕も本当はそうしたいところですが、これじゃないとダメなんです」アクが、それまでの柔和な表情を少し強張らせて言った。きいろにはその表情の真意が分からなかった。キャンかジェミか、どちらかがカレーに特別なこだわりを持っているのだろうか。
いずれにせよ、こういう本格的なカレーをレストラン以外では食べたことがないので、きいろは夕飯が楽しみになってきた。が、まだまだ時間がかかりそうで、飽きてきたのも事実。
「あのー、ちょっとキャンさんとジャミさんとも話してきていいですか?」
「ええ、もちろん。2人とも女子部屋にいるでしょう。同じ家に住んでいながら、僕とは住む世界が違いますから、ぜひ新しい話し相手になってあげてください」アクがまた柔らかい表情を取り戻して言った。
きいろはその言葉を額面どおりに受け止めつつ、少し違和感もあった。新しい話し相手。今日と明日の2日間しかいない人間に使う言葉だろうか?
誰でも気持ちよく使えるトイレ
けれど、その言葉を反芻するのもほどほどに、きいろは2階へ。女子部屋のドアは閉まっていた。ノックしようとして、急に下腹部に圧迫感が生じた。先に用を足しに……ジェミが言う暗室を背中にトイレのドアを開けた。
スリッパがちょこんと並べてある。人様の家だし、ということできいろはスリッパを履いてカバーを上げ、便座に落ち着いた。トイレットペーパーを千切り、水を流して、スリッパを脱いだ。そしてドアを開けたら、キャンが立っていた。
「それじゃダメ!」少し怒りながら言うのが、きいろには予想外だった。「トイレットペーパーは真っ直ぐに千切らないと。カバーも閉めて。スリッパもこっち向きに揃えて」
「あ、ごめんなさい」きいろはつい自分の家の作法に従ってしまっていた。ここでは誰でも気持ちよく使えるように配慮しないといけないのだろう。
言われたとおりにしたら、次にキャンがトイレに入った。それならキャンさんが出るときにやってくれたらいいのに、ときいろは思った。
漂うアロマの芳香と手作りのラック
女子部屋のドアは開いていて、中ではジェミがベッドに腰掛けて両手をもごもごさせていた。さっきは気づかなかったが、花の香りがする。
「ラベンダー」ジェミが手元に目線を落としたまま言った。「私はあまり好きではないけれど」
好きでもない香りをなぜ、と考え、キャンの趣味かと思い直す。自分もそうだが、好きな香りは人それぞれだから、女性が2人で同じ部屋に暮らすのはその点で気遣いが必要なのだ。
「何をされてるんですか?」きいろの純粋な疑問。そういえば、出会ったときもジェミは土を弄っていた。
「裁縫」ジェミが顔を上げる。「アクさんが新しいタオルをほしいと言うから」
タオルを自分で作っている、と。そのことにきいろは衝撃を受けた。だって、タオルは買うものだ。それこそ小学生の頃に雑巾をわざわざ縫わせられたが、たかだか100円で買えるものにどうしてそこまで手間をかけないといけないのか。
もしかして、と言いかけて、きいろは口をつぐんだ。もしかして、ジェミさんはアクさんが好きなんですか? そんなことを出会ったばかりの自分が言うべきではない。お金はなくても、それくらいの分別は心得ていた。ただ、ジェミの顔に好気はあまり見えない。それはたんに彼女の性質なのかもしれないが。
またジェミが裁縫に戻って、ちょっと居心地が悪くなる。暗室のことを尋ねたかったし、あるいはあの絵や遊具のことも。いや、ジェミに尋ねるよりキャンかアクのほうがいいかもしれない。この人は……ちょっと、あれだ。
「このラック、素敵ですね」きいろは壁際に置いてあったラックに目をつけた。種類は分からないが木製で、いかにも高級然としている。
「いつだか、アクさんが作ってくれたの」ジェミがそっと答えた。
「へぇ、いま料理をされてますけど、日曜大工もできるんですね! いいなぁ」きいろは素直に思ったことを告げる。
「だって、そうしなくてはいけないでしょう?」
意味を掴みかねた。が、なんとなく察せられた。自分にふさわしい男ならそうしないといけないということだ。幸か不幸か、アクにはジェミに好かれる要素が揃っているのだろう。
きいろはなんだかジェミのことが少し分かったような気がしてきた。だから、もうちょっと部屋の奥に入っていった。
いかにも女子部屋というカラフルな感じ。ベッドにはキャンが好きそうなピンクのシーツが敷いてあり、窓には同じピンクのカーテンが。カーテンを止める紐もかわいらしい。
先ほどのラックには丸い水槽が置かれていて、水草がふわふわと揺れている。ガラス工芸のような置き物は、アロマを焚く容器のようだ。
クローゼットのドアには網のような飾りが設えられている。それ自体に何か意味があるとは思えなかったので、おそらく見栄えのためのものだろう。
「これ、中を見てもいいですか?」きいろは少し遠慮がちに尋ねた。女性のクローゼットの中といえば、いろいろと面白いものが見つかりそうな気がした。あるいは、謎を解決するヒントも。
「ええ」ジェミは相変わらず裁縫に夢中だ。「面白いものはないでしょうけれど」
きいろはゆっくりとクローゼットを開けた。中には秋物の服が数着かけられていて、ちょっと踵が高い靴が置かれている。背の低い衣装棚にはおそらく別の季節の服や下着などが収められていると思うが、女性2人分の持ち物にしては驚くほどに少なかった。
「言ったとおりでしょう」ジェミが嘲りか申し訳なさか分からない感じで微笑んだ。「持ち物は少なく。それがこの家のルールだから」
きいろはすぐに思いついた。「断捨離とか、こんまりですね! 丁寧な暮らしっていうんですか? 私、そういうのにすごく憧れてるんですけど、昔からがさつだって言われてて、自分はわりときちんとしてるつもりで……」
ジェミはまた微笑んだ。とても遠い目をして。その目にきいろは映っていないようだった。
しかし、きいろは構わず話しかけた。「ジェミさんはすごいですよね、布からタオルを作っちゃうくらいですし。私なんて雑巾にしか、雑巾にもならなそう……」
「気持ちが大事なのよ」ジェミがぽつりと言った。「自分はきちんとやっている、やれているっていう気持ちが。それがなくなったら、何もかも無意味に……」
「そう、ですよね。ありがとうございます。私、またちょっと頑張ってみようかな」きいろは本心から笑顔になった。こんな行きがかりの相手に優しくしてくれるなんて。
と、1階から誰かが上がってくる気配があった。キャンだ。「2人とも、ご飯できたよ」
自分らしい、あなたらしいもの
1階に降りると、アクがカレーとサラダを4人分、テーブルに並べていた。スプーンとフォークがテーブルの端ときっちり平行に置かれている。できる男、という感じ。
きいろはジェミ、キャンと揃って席に着いた。どういうタイミングで食べ始めたらいいのか分からなかったので、とりあえず3人の動きを待つ。
「あの、今日はありがとうございました。こんなにすぐ受け入れてもらえるとは思ってなくて──」
「アクさん、これはダメよ!」ジェミがきいろのカレーを指差して叫んだ。「これは、絶対に!」
アクがぎょっとしてジェミを見た。それからきいろを見て、きいろのカレーが盛られた器を見た。
「しょうがないでしょう! いつもは3人しかいないから、4つもなくてやっと見つけたんです」アクが声高に返す。「僕なりにきいろさんにふさわしい、きいろさんらしいものを用意したつもりです」
「ダメ! あなた、これまで自分が何をしてきたか理解しているの? こんなことをしていたら今日にでも……」そこまで言って、ジェミがはっと息を呑んだ。
「わたしは、大丈夫だと思うよ」助け舟を出したのはキャンだった。「だって、アクなりの精一杯なんだから」
ジェミはキャンを睨んで黙った。それは最初から理解している、と言わんばかりに。そして、それ以上の問題があるのだといまにも大声を上げそうな顔で。
「えっと、あの、すみません。どういうことですか……?」きいろが思わず訊いた。3人が何について話しているのか、何が問題なのかまったく分からない。「私のカレー、何かダメなんですか……?」
「いいえ。きいろさんは気にしなくていいの、こっちの話だから。カレーも別に、問題ないし」キャンが言う。「さ、食べましょう」
ジェミは納得いかないようだったが、それでも言葉を噛み殺すように息をつき、両手を合わせた。2人がそれに続き、きいろも真似した。
「いただきます」
採点のとき
カレーは、正直抜群においしかった。だから、あの喧騒が何だったのか余計にわけが分からなくなった。
アクが後片付けをしながら、スマホを弄っているきいろの方を見た。「きいろさん、先にお風呂をどうぞ」
「えっ、最初でいいんですか?」きいろはキャンとジェミの視線を意識しながら言った。
「はい、それが僕らなりのおもてなしです。他人の家だから気持ちが休まらないかもしれませんが、お風呂でなら少しは落ち着くんじゃないでしょうか」
「ありがとうございます」きいろは言うや立ち上がり、2階に向かおうとした。が、途中で足を止め、リビングルームにいる3人に気づかれないように屋根裏に入った。自分のいないところでさっきの件で話し合いが持たれるのではないか、と期待して。
のそのそと移動して、さっそくリビングルームの上に。なぜかちょうど見下ろせる隙間があって、そこにスマホのカメラを差し向けた。
3人は椅子に座り、特に何か話すわけでもなくそれぞれの作業に没頭している。アクは読書、キャンは勉強、ジェミは裁縫。3人の素性も仕事も知れないが、キャンはもしかしたら学生なのかもしれない。誰もスマホを見ないのは不思議だった。
もうそろそろ20時になろうかというとき、アクが本を置いて壁際のテレビに目を向けた。真っ黒で電源も点いてない。なのに、女性2人も手を止めてテレビに顔を向けた。
何か面白い番組が始まる時間だっけ? きいろは思い巡らせたが、ぴんとこなかった。だいたい、どうしてテレビの電源を入れないのかが不思議だった。
「彼女がお風呂にいってる間に終わればいいけど」キャンが言う。
「いつも1分くらいで終わるじゃないですか」アクが答えた。
いったい何が始まるのか? きいろは息を潜め、なりゆきを見守っている。
すると、スマホの時計が20時になった瞬間、テレビに文字が浮かび上がった。
──今週の丁寧ポイント
3人に底知れない緊張感が漂っているのが屋根裏にいても伝わってきた。誰も何も言わず、テレビを見つめている。
──ジェミ 89点(+10点)
最初に、そんなふうに表示された。ジェミが、傍から見ても分かるくらいに安堵して肩の力を抜いた。だが、ほかの2人は体を強張らせている。
──キャン 63点(+8点)
次にキャンの名前と、何かを表す得点が映し出される。キャンが、ジェミほどではないがほっと息を吐き出し、椅子にもたれかかった。
残る1人、アクが次に表示されるはずだった。「今週の丁寧ポイント」とはいったい何なのか?
──アク -3点(-10点)
「嘘だ!」アクが近所にも響き渡るほどの声で喚いた。「どうして!? 今週はいつよりもうまくやったはず!」
ジェミとキャンも狼狽えるような顔で目配せし合っている。
「何がそれほど? 教えてくれ、何がダメだったんだ?」アクは立ち上がると、テレビを激しく揺さぶった。まるでそこに誰かがいて、あるいはテレビに人格があって、どうにかしてもらおうというように。
「器よ」ジェミが小さく呟く。「さっきの器が原因だったのよ」
「器? きいろさんの? 丁寧な暮らしに、そんなに器が大事なのか?」アクがジェミを睨みつける。「器なんてどれも一緒だろう!」
たしかにジェミがきいろのカレーについて何か言っていたが、器が問題だったのか。もしかして、自分のせいでアクは怒っているのか。一部始終を撮影しながら、きいろは不安を覚える。
「私には何も言えないわ。でも……アクさん、いままでありがとう」ジェミが残念そうに、それこそ死の間際に向けるような口ぶりで告げる。
「嫌だ嫌だ嫌だ! あの家族の二の舞なんて! 僕が、どうして? たった1つの器でこんなにマイナスされるなんて、理不尽だ! 僕は人助けもしただろう!」
「理不尽」キャンがこぼす。「アク、わたしたち、ずっと理不尽な目に遭ってるんだよ。そんなの、いまさらじゃない?」ある種の諦念が言葉に染み込んでいた。「それに、もしかしてゴミとか、隠れて道端に捨てたんでしょ」
アクが怒りに任せてテレビを掴み、投げ飛ばそうとしたそのとき。
──アク 8点(+1点)
アクの数字が変化した。マイナスからプラスへ。先ほどと比べて11点、上がった。
一番戸惑っているのはアクだった。だが、続けて現れた文字に、キャン、ジェミ、さらにはきいろさえも動揺を隠せなかった。
──きいろ 30点(S)
テレビにはきいろの名前が浮かび上がっていた。
ようこそ、丁寧な暮らしへ
もはや意味が分からなかった。きいろは屋根裏を下りると、3人が顔を見合わせているリビングルームへ向かった。
3人が一斉にきいろを見た。
「あの、どういうことなんですか?」
その疑問を受け止めたのはジェミだった。「ごめんなさい」
どうして謝られたのか。きいろは3人の顔を見比べた。
「嘘をついてでも止めようとしたけど、どうやらあなたはあの部屋のドアを触ってしまったのね」ジェミが諦めたように言った。「だから、こうなったの」
「きいろちゃん、あなたもこの家の住人になったんだよ」理解不能という顔のきいろに、キャンが説明を加える。「残念なことだけど、でも、これはアクが悪いと私は思う」
「なぜ僕のせいにするんですか? 望んだのも、ついてきたのも彼女でしょう。ですよね、きいろさん」
アクの言葉に、きいろは何も答えられない。事態が掴めない。
「きいろさん、私たちはここで、この家で、丁寧な暮らしを強いられているのよ。気づいたときにはここに連れ込まれていて、誰かに監視されながら」ジェミが厳かに、重要なことを伝えるように告げる。「丁寧さこそがここでは一番の美徳で、私たちは毎週自分の丁寧さを採点される」
「採点……。それが、さっきの?」
「そう。私たちはみんな100点を目指しているの。100点を取れば、開放される。0点を下回れば、それは……おそらくあなたもどうなるか分かってるわよね、きいろさん?」
きいろの脳裏に子供の描いた絵と、玄関の遊具が浮かんだ。前の住人。いまはいなくなった住人。
「でも、きいろちゃんのおかげでアクは助かったみたい」悪気もなさそうにキャンが笑う。「人助けをしたほうが助けられたの」
「……それについては申し訳ないと思います。でも、僕も必死だったのは分かってください。先週、つい不注意で前の住人が飼っていたハムスターを殺してしまって、あとがない状況だったから……」
ハムスター。空のケージと符合する。
「その埋葬の方法は迷ったけれど、さっき、みんなであそこに埋めることにしたのよ。ポイントを分け合うために。そこにきいろさんが現れて……」ジェミがアクを見つめる。こうなるとは思っていなかったというふうに。
「私、どうなるんですか?」当然の疑問だった。
3人がテレビに映るきいろの名前を見て、示し合わせたようにジェミが言う。「あなたもこれからこの家で100点を目指して丁寧な暮らしをするのよ。私たちと同じように。あの部屋で」
ジェミが暗室と言い張った部屋。うかつにも、きいろはドアノブに触れてしまっていた。ジェミがあのときまくし立てたのは、あくまできいろのためだったのだ。しかし、事はもう手遅れのようだった。
丁寧ポイントを稼ぐ。丁寧さを欠いてポイントを失えば、何らかの方法によって前の住人のようになる。
きいろはかろうじてスマホを握ったまま絶句した。3人がまたきいろを見つめて、声を揃えて──何の感情も込めずに──告げていた。
「ようこそ、丁寧な暮らしへ」
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