音に同化する
ひとり 暗闇の中 音楽を聞いている。
耳に流れてくる旋律以外に何も存在しない。
私自身の存在すら、この闇に溶けこんで、輪郭がないに違いない。
私はこの闇に同化し、それはこの音楽に同化しているに等しかった。
ーー同化した、どうかした……。
廃墟にでも流れていそうな儚い女性の声。闇を切り裂くようなシャウトにグロウル、ブラストビート。哀愁、美しさ、を感じるプリミティブ・ブラック。歌うように流麗なピアノ。空間を埋めるような電子音。
様々な音に溢れ、音になり、流れていく音が紡いだ世界に、私はなっていた。
ーーこうしていると、心地よい。心地よくて、安心する。
あらゆる音に、あらゆる世界に、私はなって、存在している。散らばりゆくかけらをつなぎ、ひとつの音楽として奏でるような、全能感すら感じる。
ーーあぁ、いつまでも、こうしていたい。
この闇に、この音に、私は私を織り交ぜながら、そのまま、眠りについた。
そうして目が覚めると、あの世界は消え去り、ひとりの人間として輪郭が描かれた。闇はなく、光に溢れた世界は様々なものに存在を与え、輪郭を与え、音はただの音になった。
ーーあぁ、また、一日が始まってしまった。
私は流れ続けていた音楽を止めて、再び人になってしまった私の体を起こし、ため息を、ついた。
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