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【掌編】『知られてはいけない』


【一駅ぶんのおどろき】コンテスト投稿作品

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11月下旬。

この日は妙に暖かかった為、私はTシャツ姿で外出した。
そしてマモルに手を引かれ、街中を歩いた。

周囲を歩く人達の話し声が聞こえてくる。
私は、右隣を歩くマモルに聞いてみた。

「ねえ、他の人達、どんな格好してるの?」

「はい。皆、ハルカさんと似た格好ですよ」

私は、少し安堵した。

「そう。良かった」

暖かいとはいえ、11月下旬にTシャツ姿は周りから浮いてしまわないかと、少し心配だった。

マモルは続けた。

「服を着てない人もいますよ」

「えっ?嘘!ホントに?」

「いえ、冗談です」

「なんだ..」

1年前に一人暮らしを始めて以来、マモルは目が不自由な私をサポートしてくれている。
私一人では外を自由に歩く事は出来ない。

マモルが聞いてくる。

「ハルカさん。今の冗談は面白かったですか?」

最近、マモルはよく冗談を言って、私の反応を確認する。

「え?..あ、まあまあ、かな」

「そうですか」

少し残念そうなマモルに、私は声を掛ける。

「あ、でも段々、面白くなってるよ!」

「はい。有り難うございます」

「どういたしまして..ははは」

私はマモルをからかう様に聞いてみた。

「ねえ、マモル。私の作る曲も段々良くなってるかなぁ?」

マモルは少し考え込む様な間を開けて答えた。

「..難しいですね。僕には何とも言えません」

その答えに、私は努めて明るい声を出した。

「ええー、私、頑張ってるんだよぉ!」

マモルも私に応じて明るく答える。

「はい。応援してますよ」

そして続けた。

「ハルカさんの夢が僕の夢です」

「え?..あ、ありがとう!」

思いもかけず弾んだ声を出した私は、照れ隠しでこう続けた。

「でも、もし歌手になれなかったら、私、マモルに養ってもらうから、よろしくね!」

マモルは私の手を握る力を弱めた。

そして、徐々に歩みを緩めて、止まった..

「え..」

マモルは、そのまま沈黙している。

「マモル?」


突如、マモルの口から無機質な音声が流れた。

『警告..アンドロイドとの恋愛関係は、如何なる場合に置いても、法律により固く禁じられています』

私の背中を冷たいものが走る。

数秒後、それは恥ずかしさに変わり、私の口から言葉がこぼれた。

「..ごめんなさい」


止まっていたマモルは、再び動きだし、私に声を掛ける。

「ハルカさん。どうかしました?」

私は、無理やり言葉を紡ぐ。

「あ、いや、もうすぐ12月なのに、Tシャツじゃ、やっぱり寒いね」

マモルは心配そうな声色で答えた。

「風邪を引いたら大変ですよ。もう帰りましょう」

「..そうだね」


そう答えた私の心に、暗い影がよぎる。


そうだ。

知られてはいけないんだ..


そう..

絶対に知られてはいけない..

この恋心は..


【了】

サポートされたいなぁ..