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【映画感想107】大怪獣のあとしまつ/三木聡(2022)

こんにちこんばんは。200本目指して週2で映画の感想を書いている絵描きです。
今回は「大怪獣のあとしまつ」をみました。

【あらすじ】
大怪獣が死に、巨大な死体が残された。

誰が死体を処理するのか?
どうやって処理するのか?
死体は人体に有害なのか?

混乱が続く中、着実に腐敗していく死体。
前代未聞の処理作戦がはじまる…!

【感想】
・全体的な感想
周りの人が酷評していたので気になって見てみました。自分の感想としては、後で詳しく書きますが「確かにその反応になるのはわかるけど映画レビューのようにめちゃくちゃ叩く気にはなれない」感じです。

よかったところは俳優の豪華さと「怪獣映画は沢山あるけど死体ってどうなるの?」って着眼点のおもしろさ、もったいなかったのはストーリーの緩急のなさとシリアスSFなのかシュールコメディなのか映画全体の方向性が見ててわからないところでした。

しかしここまでやたらと酷評が目立つのは、予告編と本編内容との乖離が1番の原因なんじゃないかなと思います。
「怪獣のあとしまつ」を前面に押し出しながら蓋を開けると人を選ぶ笑いがメインだったので、ミスマッチを起こしたお客さんが文字通り「ふざけるなよ」な感じになったんじゃないでしょうか。
予告編も「こうゆう路線のギャグがあるナンセンスな世界観ですよ」な紹介をしていたら反応はすこし違ってた気がします。

・キャラクターについて
政府の大臣たちはコメディ色が強くふざけまくってる一方、山田悠介はじめ若手のキャラにはおふざけがほぼなく単純にカッコイイキャラクター。この温度差で前者のギャグが(元々すべりぎみなのが)さらに浮いてしまい「サムイ」感じになってる気がしました。
TRICKの山田&上田コンビがデスノートに出てきてすごく浮くような感じ。あの大臣たちは堤幸彦ワールドだったらもっと輝いたんじゃないかと思います。

特に主人公のアラタが終始勇敢なイケメンなので、例えば内輪でワイワイふざけてる中で「え?何がおもしろいんすかそれ?」って場を冷ますのに近い、観客に外の視点を思い起こさせる存在に(本人は悪くないんだけど)なってしまっている。この映画でいうと、大臣たちがワイワイするだけならまだ「こういう感じの世界観なのかあ」ですむところが、次のシーンでまともな人間が真面目なことを話すので「さっきのあいつらなんだったんだ…?」と我に返ってしまうような感じ。
事務所的なNGなのか監督の意図なのかはわからないのですが、いっそ致命的な欠点とか性癖などキャラクターに笑いどころがほしかったかも。
せめてツッコミに回ってくれたら「あ、この映画はくだらない箇所を笑えばいいんだな」ってなるのですがそれもなく、コメディとして認識できていなかったため「真面目に話を進めたいのにおふざけを連発されて話が一向に進まない」というフラストレーションを感じてしまいしんどかったです。

・ストーリーについて
メインの死体処理が成り行き進行で、さらにサブ要素である三角関係や過去回想とかがなんで???っていうタイミングで挿入されたりで見どころが定まらなくて困惑しました。

・ギャグとシリアスのミスマッチ
監督インタビューでは「ばかばかしさを大事にしたい」という旨のコメントがあったので、前述のおふざけなしの主人公はもしかしたらデスノートや進撃の巨人みたいな「シリアスな笑い」路線を狙った気もします。しかし「かっこいいやつが大真面目に変なことをする」ってのを笑いどころにするには大前提としてキャラクターのかっこよさとしっかりした世界観が必要なわけで、この映画には不足しているように感じました。

主人公のかっこよさをアピールできるシーンが終盤まであまりないことと、
例えば腐敗ガスが溜まって〜のくだりはたぶん大型動物の死骸の腐敗をベースにしてると思うんですが、あれは「動物」じゃなくて「大怪獣」で、体積が大きい上に未知の生命体なんだから全く予想外の展開があっても…あ、キノコか……それでキノコ出したのか……でもあのキノコの造形完全にギャグだったじゃん…

※「シリアスな笑い」の解説があったので貼っておきます↓

同監督の「飛んで埼玉」みたいに、綺麗系のキャラクターすら全員ふざけ倒してシュールギャグに全振りするとかならまたちがったんじゃないかなと思います。
もともとコメディ要素が強い監督らしく、また今回俳優さんの演技力に問題があるわけではないので。

・でも身につまされる映画
偉そうなコメントをしましたが、この「慣れてないSFをやろうとした結果持ち味のギャグが悪い方向に向かう」様子って、「アート色を出さなきゃ!!」「アーティストっぽくしなきゃ!!」って身の丈に合わない理想を目指してた結果、唯一持っていた個性がかすんで迷走する絵描きに似ている気がします。
「あの笑いを生かしたいなら土台となるしっかりした作り込みが必要(キリッ)」とか偉そうにコメントしてる場合じゃないんですよね…

何かしらの創作活動してる人は「まじ俺天才だわ」と渾身のアイデアだと思って出した作品がもう言い訳できないくらいめちゃめちゃに叩かれた場合、自分だったらどうするのか考えるのに(おすすめはしないけど)一回見るのもいいんじゃないでしょうか。

筆を折るのか、批判で病むのか、
あるいはなにくそと切り替えていけるのか。
「期待はずれだ」という罵声に自分ならなんと答えるのか。

自分の身に置き換えた途端「で、でも批判を恐れず実際に作ったものを世界中に公開するのは立派じゃないですかァ!!」と口から唾を飛ばして擁護したい気持ちに若干なってしまったところに自分のエゴを痛感しているところですが、実際のところ昨今の邦画にありがちなヒットした他人の作品を借りてくるのではなく、自分のオリジナルストーリーで勝負してるところはいいところだと思います。

邦画はあまり見ないので見るかわからないけど、この監督が次に何を作るのか少し気になっています。

・余談
脚本は監督が書いたそうなのですが、設定はほんとにおもしろいのでこのテーマで小松左京が書いたらどうなるんだろう……ともふと思いました。SF作家が脚本を書いたガチSFバージョン見てみたいです。

あとこの監督、もしかしてサメ映画撮ったら傑作になったりして。(揶揄じゃなくてほんとに一回つくってほしい)



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