『藁を手に旅に出よう』はきっと多くの人に響く“社会人の基礎講座”だと思う
このあいだ面白い本を読んだので紹介してみます。
荒木博行さんという方が書かれた『藁を手に旅に出よう “伝説の人事部長”による「働き方」の教室』です。
荒木さん(@hiroyuki_araki)は住友商事で人材育成に関わった後、グロービスで法人向けコンサル業務をやったり、書籍要約サービス「フライヤー」運営企業で取締役COOを務めるという、要はめちゃくちゃすごい人です。
そんなすごい人と先日、Voicyのイベントで初めてお会いし、一緒に登壇させてもらいました(詳細は下のVoicyをお聴きください)。
イベントの会場で、荒木さんに「僕の本は当然読んでるよね?」と聞かれ、泣きながら「読んでません…」と答えたところ、本書をいただいてしまったのです(会話の内容は実際とちょっと違うかもしれません)。
誰もが知ってる寓話を下敷きに、あらゆる社会人メソッドを学べる良書
さて、本題ですが、この『藁を手に旅に出よう』という本、めっちゃ面白かったです。
どういう話かというと、主人公はとある企業の新入社員。毎週金曜日の夕方に人事部長の石川さんから研修があります。
その研修というのが面白くて、毎回誰もが知ってる「寓話」をベースに社会人として生きていくためのさまざまなメソッドや今後のキャリアのヒントを学ぶというものです。
人事部長・石川さんと主人公をはじめとした新入社員のやり取りが本書の主な内容になっているわけですが、ただのビジネス本・自己啓発本ではなく、小説という形を取っているため、読みすすめるのが面白く、大変わかりやすい。
しかも「この寓話をこう解釈するの!?」という驚きに溢れています。目からウロコの連続です。
うさぎとかめの話にいきなりやられた。
例えば第1章は「亀が戦略的にうさぎに勝つ日」と題されています。これはあの有名な「うさぎとかめ」の話ですね。
この話、子どもの頃から何度も聞かされ、そのたびに思うことは、これまたWikipediaにも載ってるこんな解釈です。
うさぎのような過信した態度はダメ。亀のように地道にコツコツと進んでいるといつか大きな成果を手に入れられる。だからコツコツがんばりなさい、というものです。
「いい話じゃん!」 この話を初めて聞いた子どもの僕は思いましたし、つい先日までそう思っていました。
でもよくよく考えると、この「うさぎとかめ」の寓話に出てくる亀というのは、社会人としては全然アウトだそうです。
まじで!?って思うじゃないですか。亀の何が悪いんだよ!って。
でも本の中で人事部長・石川さんはこう語ります。
「なぜ亀はわざわざかけっこでうさぎに勝負を仕掛けたのでしょうか。勝ったのは完全に運です。100回のうち99回は負けるでしょう。短絡的な感情に囚われて勝ち目のない不毛な戦いに乗り出すのは、ビジネスの場であってはいけません」(僕の要約)
「亀さん個人の問題ならまだいいですが、会社で偉い人が勝ち目のない戦いを始めると下っ端の人たちは大変です。多くの人が迷惑することになります。しかもそういう偉い人に限って、このうさぎとかめの寓話を持ち出して地道に歩くことの重要性を説いたりするのです」(僕の要約)
ああ…たしかにそうです。
地道な努力は称賛されるべきだけど、その前に戦場を選ぶ必要がある。亀はその点で間違っていたし、戦略的な視点が欠けていたことは明らかにしておかないといけない。これを読んでハッとした自分がいました。
「戦略的」とはつまりどういう状態を指すのか?
ではこのうさぎとかめのお話における「戦略的」とは一体何か。最後に石川部長は新入社員たちに問いかけます。
戦略的という言葉は普段からわりとよく使います。
「戦略的に考えよう」とか「戦略的にはこうしたほうがいいよね」とか、なんか軽く言っちゃいますが、実際どういう状態なのでしょう?
これは新入社員である主人公たちにはもちろん、これを読むすべての人たちに投げかけられた問いです。はっきりと答えられるでしょうか。
これに続く人事部長の話は、ぜひ本で読んでみてください。
とてもわかりやすく説明してくれるので、なんとなくわかっていたこともすごくクリアに考えられます。
しかも小説なのに、1つの章ごとに「今回の学びポイント」みたいな1枚のシートが挿入されてたりして、至れり尽くせりなのです。全部で12章あるので最後まで読むと12個の学びが整理されるわけです。
(主人公の設定から考えると、仕事やキャリアについて学ぶ若い人向けに書かれた本だと思いますが、おじさんもKindleでこっそり読んでみるのをおすすめします)
何よりいい感じの具体例とともに解説してくれるので、スッと入ってくるし、誰彼かまわず人に言いたくなるのです。
「あのうさぎとかめの話さ、おれは違うと思うんだよね。なぜなら亀は…」
なんて飲み屋で語りだしてしまう日はそう遠くなさそうです。
(※100枚くらい貼った付箋を一旦剥がして撮影したくらい良い本です)