いちプロSS_05

5話　餅付ぬるぽ―最初のファン―

私達は母子家庭だ。物心つく頃にはお父さんはいなかった。
でも寂しいと感じることはなかった。お母さんはちょっと破天荒で、家の中では私が喜ぶ声と妹が怒る声で賑わっていた。
間違いないのは私が小学生男子みたいな下ネタで笑っちゃうのはお母さんのせいだと思う。
逆に妹が下ネタを苦手になったのもお母さんのせいで間違いない。
実のお母さんからセクハラされる娘…母子家庭であることの珍しさを忘れるくらいには変な家庭だと思う。
お母さんが言うには「お母さんはお母さん兼お父さんだからおじさんなんだよぅ」だそうだ。
ちょっとよくわからない。

こんなお母さんだけど何気に仕事ではなかなかに仰々しい肩書がある。

FIRST STAGE PRODUCTION
アートディレクター　　餅付ぬるぽ

FIRST STAGE PRODUCTION通称いちプロ。
芸能の一族が起こした事務所だ。
その一族はなぜか全員苗字が違う為〇〇一族とかの呼び方ができなかったが、事務所設立以降いちプロの血族なんて呼ばれるようになった。
そんないちプロだが芸能方面以外のサポートを外部からスカウトする事が稀にあるそうで、そのお眼鏡にかなったのがお母さんだ。
当の本人は「いやぁ～居心地いいんだよね」とあまり自覚はないみたいだけど…。

私が絵を描くルーツはお母さんの影響が大きい。
流石に私の前では可愛い絵ばかり描いているけど昔は百合同人なんかも描いていたらしい。
先日一人でリビングにいたお母さんが「うちの娘達はほんと可愛いなぁ。娘達の百合かぁ…さすがにエリに勘当されるかな？」なんて言ってたのは聞かなかったことにした。
いつも変なことばかり言ってるお母さんだけど実は歌も上手だ。
お母さんの言動に辟易している妹もお母さんの歌は大好きなようで、家族3人で歌を口ずさむことは多かった。
こうして考えると私は結構お母さんに似てるのかも。

比較的放任主義なお母さんだけど内緒で私達がいちプロのオーディションを受けた時は珍しく驚いてたな。
驚いてたというか焦ってた？なんか不思議な反応だった。
でも、次に出てきた言葉は「2人とも大好きよ、お母さんがファン1号ね」と応援してくれた。
今はお母さんがどうして焦ったような反応をしたのか何となく察している。
いちプロに入ってからわかったことだがいちプロ所属のタレントは全員いちプロの血族だった。
それが意味するところは1つ、私たちのお父さんは…。