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いちプロSS_04

4話 朱御灰音―贖罪―

灰音は僕たちを恨んでいるだろうか…。
愛すべき息子に父親らしいことなんて何もしてあげられなかった。
いっそすべてを打ち明けて二人でこの家を出ればよかったのか…。
いやもう過ぎたことだ、ゅぇを失った妻を残して家を出ることは僕にはできなかった。
結局すべてを灰音に押し付けることになった事実があるだけだ。
ごめんな、灰音。

うちの家計は古くからの芸能家系で普通の家庭とは違った一面が多い。
わかりやすいものに名前がある。個々が己の芸を極めんとする為、たとえ家族であっても別姓を与えられる。
おかげで家系図を見ても本家分家の区別が全くつかない。じっちゃん曰くうちは本家にあたるらしい。
分家と本家ではやはり本家筋のほうが芸能に秀でた者が多かったそうだ。
中には眉唾じみた才能を持つ者もいたらしい。

そんな一族の中でも灰音は優秀だった。何をやってもすぐに人並み以上の結果を出す。
それこそ本人のやる気次第でどんな者にもなれただろう。本人のやる気さえあれば…。
灰音はいつもけだるげだ。周りの能力に合わせのらりくらりと穏やかに場をやり過ごす。
輪を乱さず、その場のノリに合わせて気付かれない程度のフォローを交えたり、どことなくゅぇに似ているかもしれない。
実際小さい頃は僕たち両親よりもゅぇに懐いていた気がする。ほんと神様は意地悪だ。

ゅぇが消えたあの日、灰音を家から出すことが決まった。

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