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(47)国宝級の将軍-竹簡孫子 地形篇第十

横山成人

複数の将軍を束ねる「上将軍」、つまり現場の最高責任者はどうあるべきか。最上段の視点から行うべき仕事を「孫子」では次のように教えてくれます。

【書き下し文】
夫れ地形は兵の助けなり。敵を料(はか)って勝を制し、険易遠近を計るは、上将の道なり。此れを知りて戦いを用うる者は必ず勝ち、此れを知らずして戦いを用うる者は必ず敗る。
故に戦道必ず勝たば、主は戦う無かれと曰うとも必ず戦いて可(か)なり。戦道勝たずんば、主は必ず戦えと曰うとも戦う無くして可なり。故に進んで名を求めず、退いて罪を避けず、唯(た)だ民を是れ保ちて、而も利の主に合うは、国の宝なり。


【現代文】
そもそも地形は、軍隊に勢いを生み出すための助けです。
敵の戦力や行動を察知して、敵が勝利を収めるための有利な要因を封じ込めて、敵軍との間の地形、つまり険しさ・平易さや、遠い・近いといった条件を自軍に有利に活用していくのが、上将軍の踏むべき原則なのです。
これら上将軍の踏むべき原則を理解して戦う者は、必ず勝利を収め、理解せずに戦う者は必ず敗北します。
だからこれまでに述べた戦いの原則を用いて、戦う前の彼我の分析の段階で、確実な勝算を得ていれば、君主が「戦ってはいけない」と命令をしても、戦うべきなのです。反対に戦いの原則を用いて勝算を得ることができなければ、君主が「必ず戦え」と命令してきても、戦ってはいけないのです。
したがって君命に反して軍隊を進撃させるにしても、個人的な功名心からではなく、君命に反して退却をしても懲罰から逃れるための保身ではなく、ただ国民と兵士の生命や生活
を保全することに命をかけ、君主の意向でもある軍事目的の実現を目指す将軍こそが、国の宝なのです。

スライド24

最高責任者の仕事は、地形を軍隊(軍事)の助けにすることです。敵軍を推し計る、行動を察知し、次の行動を読み、地形の形状や距離を活用することです。全軍の進む経路を決めて進軍させる上将軍の仕事です。

「勝を制す」は、そのまま読むと敵の行動を察知して勝利を収めると読めますが、これは「孫子」の理論の真逆です。「孫子」では勝利は自己の努力の範疇の外にあります。ここでは、敵が勝てる体勢になることを防ぐこと、つまり自軍が敵に討ち破られるような体勢にならないようと解釈をします。軍隊の戦力、コンディションを高い状態を維持することです。

このように読むと、最高責任者は、全軍の負けない体勢を全責任を負っているということです。敵の行動を察知して一か八かの勝負に出て、勝利を奪うというのではありません。上将軍は、負けない体勢を維持しながら、敵のミスを待つのです。ただし作戦篇第二で述べているように時間はかけ過ぎていけない。そこが難しいのです。

スライド25

次は、上将軍、現場の最高責任者のあり方です。
一つ目は名誉を求めないです。二つ目が懲罰から逃れようとすることです。現場の責任者が自分の名を残したい、英雄になりたいという欲があると、戦いを欲してしまいます。また罰を受けたくない、罪を負いたくないという故心があれば、君主に逆らってでも正しい判断をすることが出来なくなります。勝てる算段があれば君主が戦うなと命令しても戦い、算段がなければ君主が戦えと命令しても戦わない。こういう主体的な判断ができなくなります。欲望や保身があれば「敵を料って勝を制す」ではなく「敵に料られて勝を譲る」になってしまみます。

三つ目は、「民を是れ保ちて」、つまり国民や兵士の命や生活を守っていくということです。古代中国は、国民が兵士でもありますので、その両方にしました。「是れ」は強調する語ですから、「命や生活を守ることに命をかけて」としました。それくらいの覚悟を持つという事です。会社経営に例えると、従業員とその家族の生活を命懸けで守るという事です。

四つ目は、「利の主に合う」とは君主の本質的な利益と合致するです。つまり国を守り存続させることです。会社経営に例えると、オーナー、株主の利益を実現するということです。ただし短期的な収益ではなく、長く存続させる形でという訳です。

名誉や懲罰をものともせず、関わる人の命や生活を本気で守り、君主の利益も実現する、まさに理想の最高責任者のあり方と言えるのではないでしょうか。


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横山成人
人間学、東洋思想、孫子など兵法書を学んでいます。30代で起業するも人を見る目を誤って失敗してしまう。精神を病み、人生のどん底を経験するも、人間学の学びを深めていく中で、自分の生まれてきた理由や苦難の意味を悟る。コンサルティングをしながら、本を書いたり、勉強会を開いてます。