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砂漠のコンビニ

ここはコンビニ砂丘店。砂漠の真ん中に位置するコンビニエンスストアだ。

幾度となく聞いた入店音が鳴る。客が来た。

「この時間にしては珍しいな」
品出しの手をとめたカリンドは時計を見た。
物騒な格好をした客が1人店内をウロウロしだした。何かを探しているのか。まあよくあることだからほかっておこう。

空になったコンテナを片付けようと外の倉庫に移動する。自動ドアをでると砂漠独特のムっとした暑さが襲ってきた。カリンドにとっては慣れたものだ。

本社は一体何を考えてここにコンビニを建てたのだろう。需要があるのは砂漠を移動する旅人もしくは珍しがって写真を撮りにくるインスタグラマーくらいのものだ。

何段にも積まれたコンテナの上にさらに重ねる。そのとき再度入店音が鳴った。
「また来たのか。この時間に。」
ふと振り返ったその瞬間である。

「カリンド!そいつを捕まえろ!」
店長だ。店長が慌てふためいた顔でこちらに走ってきた。
「万引きだよ!あいつを捕まえろ!」
「万引き!?」
カリンドは辺りを見回した。するとさきほどの店内をウロウロしていた男が砂漠を逃走していた。
砂漠においては人間は見つけやすい。犯人の白い服が月の光にあたり闇夜と対照的に輝いていた。

「何ボーっとしてる!ああもう!とにかくお前は警察に通報しろ!」
店長は左手にカラーボールを持っている。投げつけるつもりだろうか。結構な距離はあるが。
「店長、それ、投げるんですか!?」
「一回使ってみたかったんだよね。」
そう言うと店長は大きな体全身を使ってカラーボールを犯人にむかって投げつけた。

ぺちゃっ....
店長の気合いとは裏腹にカラーボールは犯人の10メートルほど前に落ちて破裂した。夜の砂漠にオレンジの塗料が鮮明に輝いている。異様な光景だ。
「店長、左利きだったんですね笑」
「うるせえ、早く通報しろ」
店長は犯人の姿を追い夜の砂漠に消えていった。

カリンドは諦め半ばだが警察に通報した。
すぐに向かうらしい。すぐに向かうといってもここは砂漠だ。周りに何もない。相当時間がかかるはずだ。そもそもどうやって砂漠の中を移動するのか。たかが万引き1人でそこまでよくやる国だよな。カリンドはふとそんなことを思った。

「おい!そっちにいっても何もないぞー!ずっと砂が、続いてるだけだ、止まれー!!」
店長がゼエゼエと犯人に呼びかける。
距離はあっても遮るものがないため声はよく通る。

そこから100メートル走ったところである。犯人が急に止まった。
「止まれと言われて本当に止まるやついるんだな」
店長もペースを落としてどうしたものかと様子を伺った。

「おとなしくしなさい」
拡声器から声が響く。店長は思わず目を疑った。警察の服を着た2人がラクダに乗ってこちらへ向かってきた。白バイならぬ白ラクダ。犯人はそこで諦めがついたのかあっさりと逮捕された。

取調べ室にて刑事が盗んだものをひろげる。
大量の水と食料がでてきた。犯人に問いただす。

「どうしてこんなことをしたんだ?」
「家で、お腹をすかせて待っている妻と5人の子供がいるんです、、、僕先月仕事をクビになってしまって、仕方なくやってしまいました、、」
「だからって万引きが正当化されるわけではないだろう。こんなことを家族が知れば悲しむし、それで食べるご飯なんてちっとも美味しくないぞ。水なんてそこらへんの公園にいけば飲めるだろう。まあ、砂漠の中じゃ飲めないけどな笑
仕事だってハローワークなど社会保障は充実しているだろう。この国だったらな。諦めずに頑張れよ。とりあえずお金を払いなさい。今日のところは許してやるから、店長にも謝っておけよ。」

犯人は大粒の涙を流して泣いた。それは砂漠の砂が潤う勢いだった。

アルバイトのカリンドは店長の田中と今日も深夜の勤務をこなす。

なにもない砂漠にポツンとあるコンビニエンスストア。そこは「なにもない」から「なんでもある」場所へ。
ここはコンビニ鳥取砂丘店。

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