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文章を論理的に書くロジカルシンキングというメソッド

ロジカルシンキングという言葉をご存じでしょうか。先日、京都大学の経営工学の先生に取材したときに聞いたのですが、最近、京都大学の学生の間で「ロジシン」と呼ばれ、ちょっとしたブームになっているそうです。

 アメリカの文化人類学者エドワード.T.ホールが唱えた「ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化」という識別法があります。日本文化はハイコンテクスト文化で、「言わなくてもわかるよね?」「空気読めよ」「あ・うんの呼吸」などといった文化です。つまり、伝える努力をしなくても、お互いに相手の意図を察しあうことで、なんとなく通じてしまう文化のことです。一方、欧米はローコンテクスト文化で、「言葉にしなきゃわからねーだろ」「YESかNOかはっきりしろ」といった文化です。

映画のタイトルを比べるとわかりやすいと思います。  たとえばニューシネマの名作『明日に向かって撃て!』の原題は『Butch Cassidy and the Sundance Kid』、『俺たちに明日はない』の原題は『Bonnie and Clyde』。そう単に主人公の名前です。 邦題にはいろいろな解釈や意味が読み取れますが、原題は名前という以外にそれ以上でもそれ以下の意味もありません。

日本人が日本だけで生きていく上ではハイコンテクストで問題はないのですが、世界市場を舞台にしたグローバル社会では、そうも言ってられなくなっています。世界の人々は日本的なハイコンテクストでは理解してくれないからです。 そこで必然性が叫ばれているのがロジカルシンキングなのです。  

どんなに熱く主張しても雰囲気や感情だけでは理解してもらえません。また、論理的に破綻していたら、誰も説得できません。どこがどうつながっていないのか、どの説明が足りなくてわかりづらいのか、なぜ誤解を招く表現になっているのか、つじつまが合わないのはなぜか、結論に説得力がないのはなぜか…など、ひとつずつ因数分解をして、論理的に破綻している箇所をつぶしていかなければなりません。 原稿を書くときも同様です。ツイッターのようなSNSではむしろ論理より感情が先立っている印象ですが、あれは文章の素人が思いつきでつぶやいていることがほとんどなので、論理的展開になりようがないのです。 

しかし、文章を書いてお金をもらうライターはそういうわけにはいきません。読者を説得し、共感してもらわなければライターをやっている意味がないからです。 では文章を論理的に書くにはどうしたらよいのでしょうか。 プロの編集者であれば、経験から論理的破綻があればすぐ見つけられますが、編集の経験がない人にとっては、その作業は決して簡単ではありません。たとえ問題点を見つけても、ライターにどうやって修正指示すればいいのかが、意外と難しいのです。 そこでおすすめしたいのが、「空・雨・傘」という課題解決のためのフレームワークです。空・雨・傘の思考パターンは、マッキンゼー・アンド・カンパニーなど、大手コンサルタント会社の多くが導入していることで知られています。 

 ■空・雨・傘のフレームワーク 

「空」とは、客観的事実。「雨」とは、事実から導かれる客観的な説明や疑問点、予想、解釈。「傘」とは、自身の意見・視点・提案です。 まず「空」の様子を観察し、情景を描写します。晴れているのか曇っているのか、どれくらいの雲があるのか、雲ひとつない快晴なのか。そして、空が全天雲に覆われて暗くなり、「雨」という現象が引き起こされます。雨はどしゃぶりなのか、霧雨なのか、通り雨なのか。雨の状況によって、「傘」を持っていくのか。折りたたみ傘でいいか。交通に影響はあるのか。風が強いから傘よりかっぱのほうがいいのか。 このように、課題に対する解決策や問題提起を行います。  

たとえば、「選挙カーで名前連呼はなぜやめられないのか?」について書かれた原稿があったとします。 

<空> 

・タレントの吉木りさが、選挙カーの大音量で昼寝をしていた保育園児たちが起こされ、泣き出してしまったことをツイートする 

・選挙カーで名前を連呼する声を不快に思う人が多い。 

 <雨> 

・なぜ時代錯誤的な名前連呼が原題も続けられているのか? 

・政策ではなく名前だけ連呼するのはなぜか?  

<傘> 

・インターネットやSNSでの活動ではダメなのか? 

・選挙カー連呼をやめると宣言したら当選確率は上がるか? 

・選挙カー連呼をやめることで選挙費用の優遇はできないか?  

これらの要素を基に、結論につないでいきます。 この、空・雨・傘を分析していくときには、MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)というメソッドが役に立ちます。MECEは「ミーシー」あるいは「ミッシー」と読みます。 「互いに重複や漏れがない」という意味の頭文字を取ったもので、ロジカルシンキングの基本概念とされています。 上述の空・雨・傘のフレームワークを使って、それぞれに重複している箇所ともれている箇所を探し出します。ここが「重複と漏れがなく」ならば、論理的につながっていると考えていいでしょう。 

「選挙カーの名前連呼はなくせないか?」という命題に対して、「客観的事実(空)」があるか?「事実から導かれる客観的な説明や疑問点、予想、解釈(雨)」が述べられているか?そして、「著者自身の意見・視点・提案(傘)」が織り込まれているか? 空の様子を見ないで、雨が降るかどうかは判断できません。雨の動向がわからなければ、傘が必要かどうかの判断ができません。つまり、空を見ないで傘を提示することは、論理の飛躍や破綻を引き起こします。論理的に構成されているかどうか、論理展開に「重複と漏れ」がないかは、この空・雨・傘の組み立てに従ってチェックすることで、ある程度判断できると思います。    

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