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映画「プラダを着た悪魔」"The Devil Wears Prada" 感想・ダブルレビュー・好きなシーン&名言

今回2人で話し合ってみたのは、2006年の映画 ”The Devil Wears Prada”(邦題『プラダを着た悪魔』)について! 好きなシーンごとに考察をまとめてみました。

◆作品情報&あらすじ

The Devil Wears Prada プラダを着た悪魔 (2006年, 1h49m)
〔監督〕デヴィッド・フランケル
〔原作〕 ローレン・ワイズバーガー『The Devil Wears Prada』(2003年)
〔出演者〕メリル・ストリープ、アン・ハサウェイ、スタンリー・トゥッチ、エミリー・ブラント ほか

ジャーナリストを目指す主人公アンディ(アン・ハサウェイ)は、夢を掴むステップアップのため出版会社の求人に応募、超有名ファッション雑誌の"鬼"編集長ミランダ・プリスリー(メリル・ストリープ)のアシスタントとして働くことになる。ファッションに全く興味のないアンディは、何もかも分からない中、ミランダの強烈な要求に翻弄されながらも奮闘。ファッションの面白さに目覚めると共に、恋人や周囲の人々との関わりを通して、自身の"信念"とは何なのか、自問自答し成長していく。(とも)

※以下、ネタバレ注意です!

◆最恐ミランダ  ~“セルリアン”の名スピーチ~

なり「アンディが迂闊なことを言ってしまってヒヤヒヤする場面だけど、ここのスピーチは本当に素晴らしい。普段自分が着ている服も、いろんな人があーでもないこーでもないと考えてアイデアを出し合った努力の末にあるものなんだと感じることができる。ファッション業界のことも身近に感じれたなぁ。」
とも「ね!普通に勉強になった。私も、物語前半のアンディと同じで、本当にファッションに疎い人間だから、考えたこともないような話でした。確かにあの青いセーター、駅ビルの地下で買ったんやろうなー、50%オフのやつ買ったんやろうなーっていう服なんだよね笑。私がいつも買うような笑。一つ一つの色の服が存在するまで、その服がその色たるまでに、ものすごいプロセスがあるんだね。。」

Miranda : That blue represents millions of dollars and countless jobs and its sort of comical how you think that you've made a choice that exempts you from the fashion industry when, in fact you're wearing a sweater that was selected for you by the people in this room from a pile of stuff. 
(その青色は、何百万ドルものお金と測り知れない程の努力の象徴。ここにいるファッションに携わる人たちが「こんなの」の中からあなたのために選んだセーターなのに、あなたはファッションの世界とは何の関係もない服を選んだと思っているんでしょ、滑稽ね。)

◆ジミー・チュウで変身!”靴”のシンボル性

なり「靴ってすごい。『セックス・アンド・ザ・シティ』でもあったけど、靴ってファッションでもすごく大事な意味を持ってるんだろうなって。おしゃれは足元からって言うし、そういう社会通念が一般的になったから靴が大事っていうのももちろんあるんだろうけど、一番酷使して消耗する衣類も靴だしね。」
とも「確かに、靴って象徴的だね。歩んでいく、前に進んでいくために履くものだもんね…。これからどんな生き方をするかとか、より大きく言えば、人生の選択の象徴にもなるかもしれない。」
なり「そうそう。ミスチルの『足音』の歌詞が浮かんで。新しい靴を履いたら気持ちも変わるっていうのは経験がある人も多いと思うし、ファッションだけじゃない、気持ちが変わるっていう意味で、いろんな映画でも重要なアイテムになってると思う。」

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◆アンディ VS ネイト&友人たち

とも「ミランダの下で働くうちにファッションの面白さを知り、”自分らしくない”と思っていたはずのものをだんだん好きになっていく。アンディのこの微妙な気持ちにめちゃくちゃ共感した。『本当はこれがしたいわけじゃない』と思っていた仕事でも、新しい学びがあったり、予想もしなかった面白さがあったりして、いつの間にか楽しくなったりするんだよなぁ。。ミランダは普通に考えてcrazyすぎるのに、それでも何故かだんだん仕事を好きになってて、そんな状態の自分をネイトたちにうまく説明できない気持ちも分かる。」
なり「僕は正直、アンディに対してのネイト&友人たちの言葉が個人的には結構傷ついたな。。あなたは私の知ってるアンディじゃないわ、みたいな。気持ちはわかるけど、もっとアンディの繊細な気持ちというか、本当は仕事が楽しくなっちゃってるんだけど、恋人とか友人の前では何か楽しいとは言いづらい。。みたいな微妙なところをもっと話して理解しようとしてあげてよ…!っていうね。笑」
とも「せやんな、、その微妙な気持ちを分かり合えるところまで話してあってほしいよね!ただ個人的には、ネイトの言葉も結構刺さったんだよね。ネイトが納得いかなかったのは、一緒に過ごす時間が取れないこととかについて、いつも『ミランダが..』とか『あれは仕方なかったの』とかいう言葉で謝るアンディに対してだったんじゃないかなと思った。もし自分がアンディみたいに揺れてる状況だったら、パートナーには理解してほしいし、あまり現実的ではないかもしれないけど、究極、もしアンディが"本当に"自ら望んだ仕事をやっているなら、『ミランダ』を理由にするんじゃなくて、『私はこれがやりたいから、どうしてもあなたとの時間が取りづらくなる』って”自分の意志”としての理由をどこかできちんと説明できるはずなんだと。。」
なり「そうだね。アンディが素直になれないというか、本当は仕事にハマってきてたのに、そうじゃない感じを出すから、自分の前で素直でいてくれないアンディというのを感じて、距離を感じてしまったのかもね。」

Andy : I didn't have a choice! Okay? Miranda asked me, and I couldn't say no.
(仕方なかったの!ミランダに言われて、ノーとは言えなかった。)
Nate : I know, I know, that's your answer for everything, "I didn't have a choice," like this job is forced on you, like you don't make these decisions to yourself." (はいはい、そればっかり言うね、『仕方なかった』。無理やりやらされてて、自分で選んでやってるんじゃないみたいにさ。)

なり「友人達と集まるシーンで、男友達が一番ファッションに詳しくてアンディの仕事にも理解があるっていうのがいいなぁと思ったな。」
とも「いいね!女性のファッションを中心に扱って物語が進むからこそ、ここで、ファッションはそもそも女性だけものじゃなくて男性ファッションもあるし、さらに、女性のファッションに関心がある男性だっているし、って間口を広げてるなぁと思った。」

◆アンディ VS ミランダ  ~アンディの選択~

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とも「未知だった仕事から得られる予想外の出会いや学びの素晴らしさについて描きながら、後半でミランダやネイトの言葉によりじわじわとアンディに問いかけられているのは、結局、本当に"本気で"望んで選択してその仕事をしているのか…?ということだと感じた。ミランダとの仕事に愛着を持ち始めるアンディの微妙な気持ちに共感しつつ、同時に、同僚を傷つけたり蹴落としたり、夫婦関係の不和を繰り返しても夢を追い続けたり… そこまでして、自分のやりたいことのためにガチンコでやっている人たちの姿に気づいた時、あー・・本当に本気で自分の欲しいものを掴むためには、きっついこともせなあかんよなーと。。。私は今この人たちほど何かに本気になれてるか…??って、そう感じて、後半泣きそうになった。」
なり「確かにね。アンディとの対比で出てくる人たちがあまりにも本気な人たちばかりだし、どの業界でも最先端で戦うっていうことは本当に生半可な覚悟じゃやっていけないんだろうなって思った。ただ、アンディは物語が進むにつれてだんだんミランダに近い思考になっていく感じもあるけど、人に対する優しさっていうところは彼女の核として大事な部分っていうのはしっかりあった。アンディは本質的には自分自身の成功よりも、自分の大切な人のことを大事にしたい、頑張っている人が報われるべきだ、っていう価値観が大きかったんだろうな、と思ったかな。」
とも「最後のアンディの決断は、最高だったな。平気で人を傷つけたり蹴落としたりするミランダを見て、『私はそんなことはしたくないし、私はあなたとは違う』と、携帯を投げ捨て仕事を辞める。欲しかった”上司に認められる”という勲章を得たのに…!でもこの強さは、きっとアンディがミランダから学んだことなんだと思う。本当に自分のやりたいことをするためには、信念のために生きるには、きっついこともせなあかん。エミリーを蹴落としたり、ナイジェルを傷つけたり、そういうこともするんだと。そして最後の最後、アンディは、自分の信念のために、ミランダを捨てたんだと…… 最高。涙」
なり「本当に胸がスーっとするラストだよね。せっかくミランダに目の前で認められたのに、あっさり捨てるっていうね。ナイジェルが不憫なこともあったし、このラストはやっぱり嬉しかったな。笑 その結果アンディは本当にやりたかった仕事にもたどり着くことができた。」
とも「物語の結末だけでいうと、アンディは自分の信念に従ってミランダを離れる選択をしたわけで、そうなると、いわゆる『自分らしさを大切に』っていうストーリーにも当てはまるとは思うんだけど、映画を見終わった瞬間、なんかそれだけじゃない、強烈なパンチを受けたような余韻が残ったんだよね。。それはもしかしたらやっぱり、あの恐ろしく"本気"な人たちの姿を目撃し続けたかもしれない。そして、その人たちの中で負けじと努力し続け、最終的には信念で決別したアンディの強さもね。。だから、このめっちゃ痛そうな赤いヒールの映画ポスター(上の画像)がすごく好きで。私もアンディと同じで、人を傷つけたりしたくはないし、あんなギスギスした環境で働きたいとは思わないんだけど、なんかあの"本気"の人たち(+アンディ)へのリスペクトが心に残るんだよね。」
なり「わかるわかる。周りの意見なんか気にしない、間違いなく本気の人たちだよね。一生をかけて全力で向き合える仕事っていうのはすごいよね。そういう仕事に出会えたら最高だろうね。それと個人的にはミランダをみてて、仕事をバリバリやるようになってから自分を見下したり利用しようとするようになった知り合いに重なってしまって、アンディにだいぶ肩入れしてしまったな。笑 特に仕事について迷ってる人には、自分の信念とか軸みたいなものと仕事の関係を改めて考えさせてくれるきっかけになるような作品かもね。」
とも「ほんとそう!一見、『女性、ファッション、きらきら!』って感じで、特殊な世界の話のように見えるんだけど、実際はキャリアに関するすごく普遍的な悩みや選択について扱った大きな作品なんだと思う。この映画を見たとき、ちょうど私も転職を考えてて、退職希望のメールを上司に書いたりしてた時で。。仕事を辞めるのっていつもエネルギーがいるし、その時も、上司に伝えるやりとりしんどいな~どうしよう~‥とか思ってた時だったんだけど、『それぐらいのことでヘコたれとったらあかんわ…!!やりたいことのために捨てるんや!』って、この映画からすごくパワーもらいました笑。ほんとに!」
なり「そういう人にはもう絶対に見てほしいね!やめてなんぼのもんじゃい、ってね!笑 もっと自分らしくあれる仕事がきっとあるからね!」

◆ラストの"もやもや" ~『インターン』との比較~

なり「エンディングのネイトと和解するシーンで、個人的にちょっともやもやしたことがありまして。アンディがネイトに、これまで大事な人を大切にできなかったこと、自分の信念に背いたことをネイトに謝罪して、あなたの言った通りだった、許してほしい、というセリフがあるんだけど、それに対してネイトが、まぁいいよ、みたいな態度だったのがちょっと引っ掛かってしまった。ネイトが、自分の言う通りだったでしょ、みたいな。ダサいアンディの方がいいよ、みたいな。ここのシーンだけ、家庭も大事にするべきだ、化粧は薄めの方が男性は好みだ、、みたいな男性主観の価値観にアンディが寄ってしまっているような気がして。」
とも「わかる!ミランダとの仕事が結構面白かったことも、ミランダとは違う自分なりの信念があったことも、アンディにとってはどっちも真実なのに、ネイトとの間では、ネイトの『言う通りだったでしょ』っていう言葉でまとまっちゃうのが残念なんだよね。。」
なり『マイ・インターン』(←前回のダブルレビュー/リンク有)のラストを観たからなおさらもやもやしてしまったのかもなぁ、と。それまでのシーンでネイトから、アンディの仕事についてより深く話をするシーンがあまりなかったから、なおさらそう思ってしまったのかも。」
とも「インターンとは良い比較になるね。最後、ジャーナリストとしての夢を叶えた後のアンディの描写が弱いのも、もったいないと思うんだよね。私は、新聞記者の仕事もおそらくミランダとの仕事と同様に大変な仕事なんだろうってことを自分なりに想像したから、『夢のジャーナリストになれたんだ、すごい~!』って思えたんだけど、もしかすると、単にキツイ仕事から⇒(パートナーのことも大事にできる)マシな仕事に移った、っていうように見えてしまう可能性があるかも。そうなると、《ミランダ=プライベートや優しさを捨てて、大変な仕事をする人》《アンディ=優しさを大切にして、そこまで大変ではない仕事をする人》っていう対比も生まれてしまって、『優しさ/プライベート』と『ばりばり働くこと』は両立できない、みたいなメッセージにも見えかねないんよね。エンディングで、ジャーナリストとして働くアンディの姿を印象的に映したり、ネイト側にも『理解しきれず悪かった』とか言うセリフが入れたりした方が、《ミランダとの仕事が面白かったことも真実、アンディなりの信念があったことも真実》っていう両方の面がより強く伝わったんじゃないかなぁって思う。そういうラストだったら、ほんとに最高だったかな!」
なり「うん、そう!ほんとに!アンディはもっとバリバリ自分のしたいことをするためにジャーナリストになったはずだから、そこが生き生き描かれてたら、また違った印象だったかもしれないな~!」

◆幸せになってくれ、エミリー

とも「エミリーのアンディに対して腹立つ気持ちは、もうこれ以上ないほど理解できるので、足のケガが一日でも早く治り、次の年必ずパリに行ってくれることを願う。泣」
なり「エミリーはほんとに報われてほしいよね。エミリーの仕事に対する誇りもかっこいいし。前半はちょっとヤな奴みたいな感じだったけど、後半が不遇すぎて一気に報われてほしいという気持ちが強くなりました。笑」
とも「アンディは夢のジャーナリストの仕事に就けて本当に良かったと思うし、エミリーこそ、あの編集部に残って自分の夢を掴まなきゃいけない、頑張ってほしい~~!」

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◆[補足] Body Positivityについて

とも「大好きな作品なんだけど、この映画では、ミランダやナイジェルがモデルやアンディの体形にも釘を差したりするように、ボディ・ポジティビティ(body positivity)については描かれていないので、そこは注意して見てほしいな!」
なり「うん。アン・ハサウェイのどこが太りすぎやねん!というね。笑」

*Body positivity とは 
“All bodies are good bodies(全ての身体は良い身体)”というメッセージを軸に、体のサイズや肌の色などに関わらず、誰もが皆、自分の身体に愛を感じる価値を持っていると提案する考え方。世間に溢れるメディアのイメージから作り出された「美」への価値観に対する問題定義であり、2012年以降、ソーシャルメディアの発達により大きなムーブメントとなり、以後ファッション業界にも影響を与えている。

とも「『プラダ~』は日本でもすごく人気のある作品で、つい最近も金ローで放送されてたけど、やっぱり ” 細い・白い=美 "っていうメッセージが批判なく伝わってしまうのでちょっと心配。この映画は、雑誌『Vogue』の編集長アシスタントとして働いていた著者が実体験を元に書いた同名小説がベースになっているけど、その『Vogue』も、近年は様々な体形や人種、文化的背景を持つ人々を起用した広告作りに取り組んでいるよ。」
なり「本家はファッションの多様性についても正面から向き合ってるんだね。」
とも「きっと2010年代に大きく変化があったんじゃないかなぁ。『プラダ~』が公開されたのは2006年。今この映画を作るとしたら、かなり違った内容になるだろうなぁ。」

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(男性服飾メーカー "Dressmann" の下着の広告 / 2015年公開)

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(イギリス版『Vogue』表紙 / 2018年5月発行 )

とも「Body Positivityについては、ぜひ↓こちらの動画をチェックしてみてください :) 性教育に役立つ映像教材をネット上でたくさん公開しているアメリカのNGO、Amaze.orgさんの動画の日本語吹き替え版です。子ども向けにもすごくいい内容になってます~!」



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