『ふたごチャレンジ! 「フツウ」なんかブッとばせ!!』感想

※この感想はネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。

七都にい先生著『ふたごチャレンジ! 「フツウ」なんかブッとばせ!!』(以下「当書」と記載します)を読了しました。
取り急ぎ最高だったので全人類に読んでほしいです。未読の方は、まずはぜひ、当書の特集ページをご覧になってください。

角川つばさ文庫の特集ページ

お話としての魅力
「サイアクな誕生日」をはじめ、ふたごちゃんの心情が真っ直ぐに伝わってきました。全編を通して、ふたごちゃんが自分たちの感情や想いをしっかり言葉にしようとしているところがとても素敵です。
また、終盤の展開のかっこよさも特筆すべきでしょう。ふたごちゃんの内面描写に優れている時点で既に読み続けやすい当書ですが、チームふたごの作戦部分は物語の躍動がありありと感じられて、読んでいて本当に楽しかったです。
主人公のふたごちゃんは言わずもがな魅力的なのですが、他のキャラクターもきちんと各々の考えを持った個々人として描かれていて、お話に説得力がありました。特に北大路さんですね。自分を貫くかっこいい子かと思っていたら、見事に騙されました。堂々とした立ち振る舞いの裏にあった「着たくもない服を着てるってことを知られたくない」という気持ちがめちゃくちゃに人間臭くて、その事実が明かされたことでキャラとして一層輝いたというか、もう好きにならざるを得ませんでした。そんな彼女もふたごちゃんと一緒に前に踏み出せて良かったです。きっとこれからますます素敵な女の子になるのだろうと思います。

社会からかけさせられた色眼鏡をブッとばしてくれる良書
お話の前半は楽しく読み進める一方で、私自身のジェンダー観をグラグラ揺すられているような感じがして、落ち着かない気分にもなりました。ふたごちゃん(特にあかねちゃん)の主張はもっともだと納得するのですが、それはそれとして、美容院のシーンで私は「男の子の髪型をした女の子」と「女の子の髪型をした男の子」とをすぐに思い浮かべることができなかったのです。ああ、分かったような気になっていても、私の頭にもジェンダーバイアスが刷り込まれているんだ! とハッとさせられました。
けれどそのグラグラ感は読み進めるごとに消えていき、物語の終わりには、明けっぴろげに笑うあかねちゃんと花のように微笑むかえでくんとが、私の脳裏にしっくりと描かれていました。ふたごちゃんの「自分らしさ」の輝きが、私の固定観念をブッとばして、前より少し開けた世界に連れ出してくれたのだと思います。
このお話には、私たちが無意識に振りかざしてしまっている「当たり前」を可視化し、気付きを得る手助けをしてくれる力があります。面白いお話だというだけでなく、より良い社会のあり方を考え続けるきっかけとしても、ぜひ多くのひとに読まれてほしいと願っています。

マイノリティの私の心がふたごちゃんに救われたこと
突然自分のことを語って申し訳ありませんが、私は発達障害者です。学生生活は気楽に送れていたのですが、20歳頃から「フツウ」の社会生活がどうしても上手くできず、就職してから発達障害だったことが判明しました。そうと分かってからしばらくは、できるだけ自分を理解してもらい助けてもらおうと、職場などで声を上げて足掻いてみました。けれど社会的な挫折が続くので最近はそれにも疲れてしまって、私さえ我慢すれば、私さえ「フツウ」に合わせられれば丸く収まるのなら……と、ちょうどかえでくんのようなことを思っていました。(もっとも、私は「フツウ」に合わせる能力を持っていないので、外面を取り繕おうとしてもボロが出てばかりではあるのですが。)
少数派はしんどいです。決して誰も悪くなんかないのに、ただ「周りと違う」というだけで、私たちは否応なしに様々なものにぶつかってしまいます。そしてぶつかると痛いです。向かい風はあまりに強く、風に抗うことも、風におもねることも難しいのです。
ジェンダーの面に限らず、そうした「フツウ」を押し付けられて生きづらさを感じたことのある全てのひとにとって、当書のふたごちゃんの存在は光になるに違いありません。少なくとも私は、こんな息苦しさを感じているのはきっと自分だけじゃないんだと、ふたごちゃんが私と手を繋いでくれたように感じました。
この空の下には、「フツウ」になれない自分が悪いんだと思わされ続けてきた子もいるかもしれないし、社会に失望して、もう声を上げる気力もなくなってしまった子もいるかもしれません。私たちのそれぞれの現実は物語のように劇的には変えられないでしょうし、つらかった過去の出来事を無かったことにもできなければ、これからだって何度も何度も自分として生きることを挫かれるかもしれません。
それでも、それでもです。
このふたごちゃんに出会えて、ふたごちゃんがこれから先もずっと私たちの友達でいてくれることは、私たちの人生の一部を確かに救うのだと思います。

最後に
続編の刊行予定が決まっているとのことで、今からとても楽しみにしています。ふたごちゃんや周囲のひとたちが、これからどんなふうに歩いていくのかを、もっともっと見守りたいです。
七都にい先生、当書を届けてくださってありがとうございます。


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