E TICKET PRODUCTION(桑島由一)インタビュー(後編)最新作「E TICKET RAP SHOW」の全貌に迫る。
前編はこちら→(https://note.mu/narima01/n/nc7f4ec65222c)
――いよいよ、1月10日(火)にミニアルバム「E TICKET RAP SHOW」が発売されます。心境はいかがですか。
作り終わった後でアルバム完成ブルーみたいになっちゃって。どう受け止められるか、すごく怖いですね。
――Eチケさんの集大成ですね。
僕としては色々と実験しながら作っていました。
一番大きかったのは、DAW(デジタルオーディオワークステーション)を変えたことです。最初は「ACID Pro」(SONY)という昔のソフトと併用していたのですが、「GOES ON」で「Live」(Ableton)に完全に切り替えました。
切り替えている最中は若干不安定で、作り方も試行錯誤の連続でした。
――作り方が大きく変わったのですか?
すごく変わりました。欲しい音を、自分で作って入れられるようになりました。
――完全に作りたい音が作れるようになったということですか?
そこまでじゃないですね。自転車の両手離しみたいに不安定で(笑)
あとは、映画『BEATOPIA』の劇伴の仕事をしたことが大きかったです。
今までは偶然出来たものを作品として出していたのですが「こういう曲を作ってください」という明確なオーダーに応える作業だったので。
完成形のイメージを再現するという作業をして、それが大きかったです。
――プロの仕事ですね。
いろいろ勉強になりました。まだ詳しくは言えないのですが、今まで作ったことがないタイプのトラックも作りました。
――自分でコントロールしているのか、していないかという微妙な差があるんですね。
今までは、有りもののサンプリング音源を組み合わせて、うまく合わなかったら諦めていたのが、今回から部分部分で細かく合わせられるようになったんですよ。
たぶんみんなが十代の頃にやっている事だと思うのですが、39歳にしてそこまで成長できたのが、嬉しいです。
――レコーディングはどうでしたか?
仮歌の僕の声だとアイドルさんとキーが合わなくてレコーディングの時に調整が必要でした。だから「FIRE LIAR」の仮歌は、MIXとマスタリングをお願いしている(里本)あすかさんに頼みました。あとは、「りんねラップ2」の場合は後になって足す声がほしいからと、あすかさんにコーラスを入れてもらったりしました。だから最終調整が長引きました。
――制作体制は変化したのに、最終的に選んだ音が、今まで同様90年代っぽさ満載なのが面白いですよね。
今っぽい曲にしても古臭くなるんですよね。EDMっぽくしようとしてもリチャード・D・ジェームスのドリルンベースみたいで、おじさんが若ぶってるみたいな音になって。結局、若い音は出せないので、自分のできることをやるしかないですね。
収録曲解説
アルバム・トレイラ―
02 GOES ON feat.ようなぴ(ゆるめるモ!)
ここからはアルバム収録曲と参加したアイドルさんについて教えてください。「GOES ON」はゆるめるモ!のようなぴさんが歌っていますが、レコーディングの時の印象を教えてください。
ようなぴさんは、1番早く収録が終わりました。すんなり進みすぎて、録りこぼしがあるんじゃないかと逆に不安になるぐらいでした。キックボードを持ってスタジオにいらっしゃったので、只者じゃない感もありましたね。完成した曲も期待通りでした。
――以前は、インタビューしたりアンケートをとって、アイドルさんのプロフィールをリリックに反映させるとおっしゃっていましたが、リリックの作り方は変わりましたか?
インタビューして書いた曲もあれば、そうでない曲もありますね。「GOES ON」は、アンケートも参考にしましたが、ようなぴさんが過去のインタビューで「ディズニーが好き」とおっしゃっていたので、「遊園地の曲」というワンテーマで書きました。
――「偏差値偏差値偏差値偏差値」ってのは、ようなぴさんとは関係ないんですか? 学校が嫌いだったとか。
あれはMIGOSの「Versace」という「Versace、Versace、Versace、Versace」と連呼する有名な曲があって、それがモチーフです。
――同じ遊園地の曲でも、ライムベリーの「We did it」は楽しくて最後に少し切ない感じでしたが、こちらは終始切ないですね。
遊園地の曲はこれからもずっと作り続けると思うんですよ。僕にとって普遍的なテーマなので。
――「We did it」の遊園地と同じ遊園地なのかなぁとか思いました。
基本的にディズニーランドのイメージで作っているから、同じかもしれないですね。
――同じ遊園地で、当時のメンバーが楽しそうに遊んでいるところを、ようなぴさんがすれ違ってる場面を想像しました。
「IN THE HOUSE」(※)の遊園地の感じもありますね。駅を出てミニーの耳を取った時の寂しさとか。基本的に、僕の歌詞に出てくる「海」は「ディズニーシー」で「国」は「ディズニーランド」のことが多いんですよ。時系列的には「きみとぼく」の前のことで、あの歌詞にある「また海に行きたいね」というのはディズニーシーのことなんですよ。
※IN THE HOUSE 「パークを出た後 駅の前 ミニーの耳 とっちゃうみたい 風がピクシーダストを払う。だから私は無理して笑う」というリリックがある。
――「Ich liebe dich」にも「テストが終わったらシーかランドね」って出てきますね。
ディズニーで遊んだ楽しい思い出が「きみとぼく」で消えていくというEチケ的な歌詞の時系列があるんですよ。『スターウォーズ』ので言うとダースベイダ―が誕生する前の話みたいな。
――Eチケ・クロニクルですね。「GOES ON」はどのあたりに位置づけられるんですか?
「きみとぼく」の前くらいですね。楽しいけど終わりの予感を感じているみたいな。
ちなみに「今日は晴れラッキー」ってのは、Jinmenusagiというラッパーが歌う「雨止めFuck it」(BABEL feat. Mato)っていう歌詞のアイドルバージョンです。すごく楽観的なリリックに置き換えてます。
――Eチケさんの歌詞にはディズニーの引用が多いですね。昔から好きだったのですか?
ディズニーを好きになったのは大人になってからです。
エプコットというフューチャー・ワールドの元になったアイデアがあるのですが、当初は敷地をドームで覆って天候を管理して、その中に雇用を生み出して畑を生み出して小さい地球を作ろうとしていたそうです。その話を聞いた時は、ウォルト・ディズニーは世界を作って神になろうとしていたのかと衝撃を受けました。
ディズニーから学んだことは、世界観を強固にするってことが、いかに大事なのかということです。
ディズニーランドには、クリッター・カントリーという地区があるのですが、スプラッシュマウンテンが作られたバックストーリーがあるんです。この地区のレストランには完成する前の写真が飾ってあって、そのレストランを作ったのが、別のアトラクションにいるビーバーで、という感じで、それぞれのキャラクターや物語がつながっているんですよ。
それを知った時に「モノづくりとはこうあるべきだ」と思ってライムベリーの時は世界観を打ちだそうとしました。
世界観を統一して打ち出すというのがヒップホップと相性がよかったってのもありますね。ヒップホップも「俺はこういうものだ」とラッパーが言うことで世界観を作っていくものですので。
――自分で自分のストーリーを語るというのは私小説みたいなものですよね。でもEチケさんと歌う女の子とは違う人間であるため、そこにどうしてもズレが生まれます。その辺りはどのようにお考えですか?
ヒップホッパーにはB-BOYイズムがあるから成立する。何をやっても根底に自分というものがあるから、違う音楽のジャンルに行っても成立するけど、当時のライムベリーはE TIKCETイズムを貫かないと成立しないと思っていました。
よけいなものを入れるとそこから崩れてしまうので、徹底的に自分の世界観を打ち出す。だからE TICKET PRODUCTIONなんです。
昔のディズニーってチケットにランクがあって、Aチケットから始まって最上級のチケットがEチケットなんです。宇宙飛行士が宇宙に行った時に「最高、まるでEチケットみたい」と言った記録が残っているくらいで、そこから名前は取りました。
それでMUROがKING OF DIGGIN’ PRODUCTIONと名乗っていたので、じゃあ僕は、E TICKET PRODUCTIONだっていう。
1人なのにプロダクションと名乗っているので、会社なんですか? 事務所なんですか? みたいなことをよく言われますね。
――基本的にミュージシャンの発想じゃないですね。
MOE-K-MCZの時は最初に三人の女の子のイラストを作って、妹キャラと気の強い女の子キャラとお嬢様キャラを作って、ライムベリーの時もMOE -Kの作り方を引き継いでいて、特にDJ HIKARUはMOE-K-MCZの時はできなかった真面目そうな女の子がDJをしてしまうというファンタジーのキャラクターとして配置しました。
――発想が萌えアニメですね。
「こんな美少女がDJを! しかも無口」そしたら、前に出ることが少なくてひかるさんが不満っていう(笑)
03 アウトラウドFeat.根本凪(虹のコンキスタドール)
――「アウトラウド」は根本凪さんがひきこもりだったという経験が歌詞に反映されているそうですが。
根本さんはインドア派で、イラスト描くのが趣味だとお伺いしていたので、勝手に親近感を持ってしまいました。MOSAIC.WAVさんが好きだということもアンケートに書いてあって、MOSAIC.WAVさんの作詞もしたことがあったので。
曲は今回のアルバムの中で1番しっとりしてるかも知れませんね。根本さんはアッパーなラップ曲をリリースしているのを聴いたことがあったので、それと真逆なものをお願いしました。ちょっとダウナーというか、「明日から本気出す」感というか。
同時に「IN THE HOUSE」の「新聞配達の音する 新しい朝がくる」というフレーズにあった前後の時間を一曲に引き伸ばしたところがありますね。引きこもりで夜中にダラダラとネットのまとめサイトみてたら、また何もできないまま朝が来てしまったときの感覚を歌詞にしました。
――WJ(ウィンタージャム)にも「テレビの中ではお祭り騒ぎ あたしは広い部屋に一人」ってありましたよね。部屋に一人で、みんな楽しそうにしてるのに、自分だけが一人取り残されているんじゃないかっていう不安というか。
ただ、WJは、元々、MOE-K-MCZの設定が先にあったんですよ。あれは一人はお嬢様で大きいお屋敷に住んでいてあまり外に出られないって設定があったので。
だから「あたしは広い部屋に一人」ってのは孤独感を出したわけじゃなくて、実際に金持ちだから部屋が広いんですよ(笑)
――そういえば、今回、MOE-K-MCZの二人が参加していますね。
今回アイドルラップがテーマのアルバムだったので、MOE-KはラップはしてないですがSKITで参加してもらっています。SKITの掛け合いの感じは桑島法子さんと豊嶋真千子さんという声優さんのユニット・GIRLS BEのアルバム「フレンチ大作戦」に「尋ねあい」ってのがあって。「~は好き? ~は好き?」って掛け合いがあって、それをやってみたんですよ。「フレンチ大作戦」は本当に素晴らしいアルバムで。
あと、ケラさんの「ロングバケーション」の曲からの引用もあります。
――ピコピコしたゲームっぽい音がいいですね。
あれは、コルグのガジェットっていうiOS用のシンセアプリで作りました。
あまり意識してなかったんですが、結果的にアートワークのファミコンっぽい感じと合致しました。
05 AS ONE 寺口夏花&山崎愛(sora tob sakana)
――「AS ONE」は元々、Special Deals.(中嶋春陽&姫川風子)がライブで企画的に数回ラップしていたトラックですが、オサカナの二人が歌うにあたって歌詞を変えたのですか?
サビは変わってないですが、Aメロ、Bメロで出てくる好きな食べ物とかの細かい部分は変えています。
――声の子ども感が凄くいいですね。レコーディングも楽しかったんじゃないかなぁと思います。
良い意味でですが、親戚の子供みたいな可愛さがありますよね。たまに会うと最初はモジモジしてるけど、そのうちハシャいで遊んでる、みたいな。2人はレコーディングの時もそうですが、スタジオリハの時も楽しそうでいいですね。写真撮るから好きなポーズしてくださいっていうスタッフさんの指示に、組体操みたいなことやりだしたりとか。寺口さんと吉田凜音さんは同い年なんですけど、印象がだいぶ違いますね。
――「小説の中 集合したら」って意味がわからなかったんですけど、どういう意味ですか? てっきり音楽の「小節」かと思っていました。
「あの小説の中で集まろう」っていうフレーズがTOKYO No.1 SOUL SETの「 MORE BIG PARTY」にあって、「フライトの準備できたはずほら」はYOU THE ROCK★のラジオ番組「HIP HOP NIGHT FLIGHT」から、「時代が動く」ってのは、THE BLUE HERBですね。この辺りは日本語ラップのクラシックに対するオマージュになっています。
――全部、元ネタがあるんですよね。
「凄い瞬きを見せてあげるよ」ってのは、アンケートに答えてもらったら特技に「瞬きがスゴイ」って書いてあったのでリリックに入れました。
――そこ、一番気になったところです。
だから、リハの時に山崎さんに見せてって言ったら、「そんなの書きましたっけ?」みたいな感じになって(笑)。ノリで書いたのか、よくわからなかったけど、面白いフレーズだったので残しました。
――「AS ONE」はそういう謎のフレーズがいっぱいありますね。「空飛んでヒー 泳いでハー」とか
寺口さんのテンションがカラムーチョのCMのおばーちゃんが、ヒーとかハーって言いながら空飛んでた感じに似てたから書いたのかな。
――オサカナと較べた時にすごく子どもよりになってるのは、Eチケさんが引き出してる部分もあると思うんですよね。少女って「子ども」と「女」の中間の存在だと思うんですけど、Eチケさんがプロデュースするアイドルは子どもの方にすごく寄ってると思うんですよ。
アイドルなので男の匂いをさせたくないから、恋愛の要素が薄くなるというのはあります。ラノベを昔書いてた時も、書いてるうちにみんな馬鹿になっちゃうんですよね。バカなキャラと普通のキャラと頭良いキャラと色々作っても、最終的にはみんなボケ出して馬鹿のあつまりみたいになって。
面白くしようとするとみんなが過剰になって突飛になっていって、みんな馬鹿になっちゃうみたいな。それが子供っぽく見えるのかも知れません。
――「子どもでいいんだよ」って言われているみたいに感じるんですよね。
そんなメッセージは発していないですよ(笑)。でも、14歳で中学に行かなくなって、その瞬間で精神年齢が止まってしまったってのは、あるのかもしれない。
――それが、ネガティブな感じに聞こえないんですよ。本当に子どもの頃の楽しい瞬間がパッケージングされているからですかね。
あんまりネガティブな歌詞になると、岡島紳士さんが止めてくれるというのもあります。
昔、打ち込みでフレンチポップをやっているRobertというミュージシャンの「Sine」というアルバムを買ったらライナーノーツに「幼い女の子にとって、靴下の柄が嫌で死にたくなるという気持ちは、大人にとってはどうでもいいことだけど、その子にとってはすごく重要なことなんだ」という感じのことが書いてあって、その精神が若干あるのかもしれないですね。
――「FIRE LIAR」で歌われているネットの炎上とかって、まさにそういうことですからね。個人にとっては切実だけど、世の中にとってはどうでもいいことで。
「アウトラウド」の「些細なことが重要なようで 明日になったらどうでもよくて 明後日になったらやっぱ大切で」って不安定さも、そういう子どもにとっては大事なこだわりなんだろうなぁと思います。
――子どもが好きなものだけで固めた世界観が最高です。「AS ONE」は漫画化できますよ。「ゲームセンターあらし」のノリで。
「コロコロアニキ」みたいな感じで(笑)
FIRE LIAR feat.椎名ぴかりん
「FIRE LIAR」MV
――最初に聴いた時は「FIRE LIAR」が一番刺さったんですよ。「人の悪口を言うやつは死ね」ってリリックが、いいですよね。
こんな素朴なメッセージ、今時ないですよね(笑)
――ぴかりんの印象はどうでしたか?
ぴかりんはプロフェッショナルだし、クリエイティブな印象でした。声についてもバリエーションをいくつも出してくれるし、こちらの要望だけじゃなくて、自分で表現したいところも提案してくれて。残念ながら全部使うことはできなかったのですが、アイデアが豊富で積極性があるんだと思います。
――「FIRE LIAR」は電気グルーヴを彷彿とさせます。「誰だ!」って声も入ってますし。
あれはたまたまなんですよ。結果として電気の『誰だ!』になったけど、意識はしていなかったです。意識していたのはケミカルブラザーズの「Hey Boy hey girl」や、タイトルはプロディジーの「ファイアスターター」で。
――90年代にデジロックと言われていたものですよね。あとはアンダーワールドとか。僕の大好物です。
あのあたりの90年代のテクノですね。レイヴっぽいやつ。この曲はアルバムの製作期間のはじめから最後までいじっていて、結構大変でした。
――TB-303(※)の音も入ってますね。
※アナログシンセのキュキュキューンという音。アシッドハウスでよく使われていた。
あれは303に似ているクローンシンセ(PHOSCYON / BASS LINE)ですね。曲を作った後でTB-03が出たので、どうしうよう、TB‐03で打ち込み直そうかなぁと思ったけど、そのままです。
クローンシンセで303の音が入れられるようになったことも、DAWを変えたことによる大きな変化です。
――303の音は「アンサーアンサー」にも入ってましたが、何か違うんですか?
あれはサンプリングだったんですけど、今回は細かい調整ができるようになりました。「FIRE LIAR」は、ラップじゃないいのでどう受け入れられるのか不安ですね。MVの感想を見てるとぴかりんのファンからは好評なようで安心してますが。
――電気グルーヴがラップなのか? みたいな話ですよね。僕にとってはラップなんですけど。
あと「もうやり尽くした? 世界は残りもんだ!」という歌詞には自分の気持ちが詰まってます。「FIRE LIAR」は全体的に混沌としていて、ごちゃってなってるんだけど、その混沌とした感じが魅力でもあるのかなぁと思っています。
――最初に聴いた時に、一番キャッチーだったのはこの曲でした。魔界だし鬼(カフェ・ド・鬼)ですね。
イントロで音が止まるのは、スピーカーを蹴っ飛ばしてノイズが入るイメージだったんですけど、あれって電気グルーヴの「FLASH PAPA MENTHOL」にありますよね。あの乱暴な感じを再現しようとしてやりましたね。たまたまラップの日本語の歌詞だから電気っぽくなってるだけで、そこまで意識はしてないです。でも、出来上がってみると「DRILLKING ANTHOLOGY」みたいなアルバムだなぁと思いました。曲のテイストはバラバラなのに、統一感があるというか。
01 りんねラップ&06 りんねラップ2 feat.吉田凜音
「りんねラップ」MV
「りんねラップ2」MV
――最後に吉田凜音さんの「りんねラップ」と「りんねラップ2」について教えてください。「りんねラップ」は、このアルバムを代表する曲ですね。
凜音さんはどんどんラップが上手くなってるし、なんでも乗りこなす感じですね。与えられたイメージを演じることも上手だし、とても器用です。
――「りんねラップ」の2を作ったのはどうしてですか?
アルバムを作るにあたって、凜音さんの曲をもう一曲入れたいってなってたのかな。「りんねラップ」というタイトルは「マツケンサンバ」みたいにしようと思いました。マツケンさんは普段サンバ歌ってないけど、サンバを歌うので「マツケンサンバ」っていうストレートさ。凜音さんも普段ラップしてないけどラップするので「りんねラップ」という。「マツケンサンバ」も2曲目は「2」だったので、りんねラップも「2」です。
――ナーシャ・ジベリとか、謎の固有名詞がたくさん出てきますね。
ナーシャ・ジベリってのは『ファイナルファンタジー』などの天才プログラマーですね。飛空艇の動きを異常に早くした人として有名です。プログラマー憧れとかハッカー憧れからピックしました。
――「ドンパチドンパチ」ってのは、駄菓子から来てるんですか。
ギャングスター感を出したつもりだけど、そうしようかな(笑)
アイドルラップの今後について
――アルバムのテーマとも言えるアイドルラップについてどのようにお考えか教えてください。アイドルラップって難しいジャンルですよね。プロのラッパーが曲を提供するだけでは中々成立しないし、時にうまくラップができない方がアイドルラップとしては面白かったりする。
ただ、「事故ってる」みたいな「ダメなものをあえて愛でる」みたいな聴き方は、あまり好きではないですね。そこから脱却しないと、アイドルラップの進化はないと思うんですよ。
――でも、フィメールラッパーとしてスキルを磨いて成長することがアイドルラップのゴールでもないわけですよね。そこが難しいところで、その辺りのさじ加減でみなさん迷っているのかなぁって、思うんですよ。
アーティストとアイドルの境界ですよね。求められてるものが全然違うし。
――すごく矛盾した言い方ですが、子どものまま生き物として成長しないといけないというか。サルから人に進化するのではなくて、凄いサルにならないといけないみたいな。舐められてるんだけど、舐められてる部分を洗練させていかないといけないというか。
舐められてるところからスタートして、徐々にスキルアップして年齢と共に完成するっていうのが良いですよね。一曲、一曲じゃなくて長期的に考える。でもそれってラップと心中するようなとこもあるので、1人のタレントさんの活動として考えるとリスキーですよね。しかもHIPHOPに興味を持ちすぎてしまうのもアイドルとして違うから、さじ加減に正解がないですね。そこまで凄いサルが誕生するには、自由の女神が崩壊するぐらい時間がかかるかもしれませんね。
E TICKET PRODUCTION×岡島紳士
――最後にアイドル専門ライターの岡島紳士さんにも参加していただきます。
岡島さんはDVDマガジン「IDOL NEWSING vol.2」で「りんねラップ」の制作をEチケさんに依頼しました。今回のアルバムは「りんねラップ」の成功を受けてのものかと思うのですが、どのようなコンセプトで曲を依頼したのですか?
岡島紳士(以下、岡島) 成功したからというんじゃなくて、元々このコンセプトのアルバムを作るつもりで「りんねラップ」を作ったんですよ。なのでそのままスケジュールを進めたという感じで。コンセプトは「E TICKET PRODUCTION」ですね。今までの仕事の総決算であると同時に、彼の名刺代わりになるようなものを目指しました。曲としてはセルフボースティング的なものを集めようと。基本的に初めてラップをやる人たちの曲なので、自己紹介的な内容にならざるをえないかなと。分かりやすいですし。
――参加されたアイドルは、どのような基準で選ばれたのですか?
E TICKET PRODUCTION(以下、Eチケ) 岡島さんに候補の女の子は選んでもらいました。
岡島 音楽作品なので、まず声だけでそれぞれ特徴づけられないといけないと思いました。なのでアニメ声と子ども声のアイドルは必ず入れようと。アニメ声は椎名ぴかりんさん。ぴかりんさんはデスボイスとかもできるし、歌も上手いので、いろいろできると思ってました。子ども声はsora tob sakanaの2人。ラップと子ども声のアンバランスさって、曲としての強いインパクトと魅力になるし、それは外部にも響くものになるだろうと。根本さんはラップ経験者なのと、グラビアでも人気という立ち位置、元引きこもりという経歴に惹かれました。ようなぴさんはゆるめるモ!のメンバーでありつつ、ソロアーティストとして、そしてDJとしても活動している。このアルバムに参加することがとてもしっくり来るなと。凜音さんはさっきEチケさんが話した通りの力のある人なので、欠かせないなと思いました。あと「りんねラップ2」というタイトルを思いついたので、これはどうしてもお願いしたいというのがありました。
――「CLUTUER Bros.Vol.3」(東京ニュース通信社)にEチケさんのインタビューが掲載された頃から、レトロゲームやオモチャを全面に打ち出したお店で撮影したグラビアが小出しにされてましたが、アートワークのイメージはどのように作っていったのですか?
岡島 ライムベリーの頃から、レトロゲームや駄菓子屋のイメージを打ち出していたので、その延長ですね。あれこそがEチケ感だと思います。とはいえ、僕もレトロなものとかオタクっぽいギミックは元々好きなんですよ。いまだに90年代に生きてると思ってますし。Eチケ的なもので僕に知識がないのは、ヒップホップ、テクノ、機材系くらい。ジャケットの写真は、モデル&女優のりりかさんにお願いしたのですが、顔を隠して匿名性を打ち出しているのはノーディスクレコーズ(※)の引用です。
※ノーディスクレコーズ Eチケ(桑島由一)が発行していた同人誌のレーベル(http://www.clearloversoul.jp/ndil/intro.html)。阿部和重の小説『インディヴィジュアル・プロジェクション』(新潮社)の表紙などで知られている写真家・常盤響が撮影する匿名の女の子のイメージが表紙に引用されていた。
――制作はいつ頃スタートしたのですか?
岡島 「IDOL NEWSING LIVE 2」が終わった夏頃です。8月にはミニアルバムを発売するというプレスリリースを出しています。
Eチケ その頃は、本気にしてませんでした。話半分でボンヤリ聞いていました。具体的な作業は2~3か月で一気に進めた感じですね。
――岡島さんの仕事について教えてください。プロデューサーということでいいんですか?
岡島 英語で言うとプロデューサーでEチケさんがサウンドプロデューサーということになるんですけど、ややこしいですよね。あとプロデューサーって名乗るのが恥ずかしい。
今回のCDのフォトブック盤に付帯するフォトブックには、自分の肩書きを「Planning&Production」とクレジットしました。企画と制作ですね。簡単に言うと、Eチケさんの世界観を表現するためのサポートとクリエーターのコーディネイト、あとマネタイズやプロモーションをするのが仕事です。
でも昔からEチケさんは、やりたいことを聞いても、スピルバーグに映画化してほしいとか、植田まさし先生に4コマ漫画を書いてほしいとか、基本そのまま実現できないような、夢みたいなことしか言わないんですよ。だから実現可能なアイディアまで落とし込む、という作業も行います。構成作家みたいな?
Eチケ 何なら植田まさし先生本人じゃなくてもいいから、うろ覚えのDJのイメージで漫画を書いてほしかったんですよ(笑)
岡島 具体的に言うと、たとえば駄菓子屋で撮影するというアイデアがあったら、撮影できる駄菓子屋を調べてリストアップして、交渉して、カメラマンや映像監督に依頼して、当日の撮影に立ちあうという感じです。
Eチケ 一番大変なことをしてもらっています。
――漫画家と編集者みたいな感じですね。
岡島 漫画家と編集者でも、浦沢直樹と長崎尚志みたいな距離感ですね。ただ仕事を依頼するというよりは、いっしょにイメージを詰めていくというか。
――音楽に関してはEチケさんの作品ですけど、アートワーク等のメディア展開まで含めると二人の作品という感じなんですかね。
岡島 MVやイメージフォトの撮影は、Eチケさんがこれなかった現場もありますので。ただ、本人がいない時でも、Eチケさんの世界観を表現することを第一に考えて動いています。
Eチケ スーラボ(けん玉のお店、ぴかりんのジャケット撮影が行われた場所)は岡島さん発信のアイデアですね。撮影現場に行ってもあまり僕は作業がないので、ただ見てることが多いです。頼まれたら小物を選ぶぐらいで。
岡島 MVの撮影場所は各監督の希望に寄り添おうとしたんですけど、結果的に僕がほぼ全て選びました。
Eチケ 「りんねラップ2」の撮影の時に有名なYouTuberも同じ場所で撮影してましたね。
岡島 僕らは知らなくて、(吉田)凜音さんだけそのYouTuberのことを知ってたんですよね。ジェネレーションギャップ。
Eチケ ロケ地の王子はラッパーのKOHHの出身地だからサグいHIPHOPの人かと思ったら、違いました。
――Eチケさんのイメージを具現化するのが岡島さんの仕事なわけですね。
Eチケ 曲を作った後にアドバイスを貰うんですが、その時は疲れてイライラしてるので、何を言われても「そうですかねー?」って思うけど、寝て起きると、やっぱそうかなと調整しています。
岡島 2~3の候補があったとして、どれを選ぶのかというのはEチケさんが決めることで、どれでも良いと言われたら、こちらで決めて進めるという感じです。
Eチケ 今回、歌モノが多くなったのは岡島さんも予想外だったんじゃないかなぁと。
岡島 そもそも「FIRE RIAR」はラップじゃないですし。
――確かにサビで歌っているものが多いですね。何か心境の変化があったんですか?
Eチケ 前はサビで歌わせないことにこだわっていたけど、今回は歌うことに対してもこだわってなくて。まぁ、歌わないというのはライムベリーの時に他との差別化を図るためのルールだったんで。今回は特に決めたルールがないから、多少違うものに聴こえるんじゃないかなぁと思います。
――制作過程で苦労されたことはありますか?
岡島 今回はDVDを二本分作るくらいの大変さがありました。「俺はライターじゃないのか」と思いながら、ライターの仕事を止めて、作っていました。
Eチケ 制作が進むにつれて「思ったより金がかかる」って言ってたのが、申し訳ないなぁと思って。
岡島 ただ、大変ではありましたが苦ではなかったです。楽しくて、ずっと遊んでるみたいなものなので。
Eチケ 陰の功労者はNEW KIDS(イイヤン)ですね。オサカナの二人が撮影したシンセのお店も彼に教えてもらった場所です。
NEW KIDSは基本的に僕の曲をいいと思ってない節があるんですよ。以前、「アンサーアンサー」を聞かせた時も別にって感じで「ラップなんてトラックは何でもいい」って言われて。でも、だったら何を作っても自由なんだなと、逆に勇気をもらいました。
――最後に今後の予定について教えてください。
岡島 1月8日(日)に先行リリースイベントを代官山LOOPでおこないますので、是非、遊びに来てください。
Eチケ アルバムのリリイベもありますし、今後まだ音源がリリースされる予定があるので発表されたら聴いてみて欲しいです。「桑島由一」名義でも仕事をしているので、よろしくお願いします。
――ありがとうございました。
アルバム情報
発売日:2017年1月10日(火)
レーベル:IDOL NEWSING
●E TICKET RAP SHOW(通常盤)
品番:INRC-0001
JANコード:4571346500111
価格:2400円+税
E TICKET RAP SHOW(フォトブックセット盤)
品番:INRC-0002
JANコード:4571346500142
価格:3700円+税
参加者:吉田凜音、椎名ぴかりん、ようなぴ(ゆるめるモ!)、根本凪(虹のコンキスタドール)、寺口夏花&山崎愛(sora tob sakana)
曲目
01.りんねラップ feat.吉田凜音
02.GOES ON feat.ようなぴ(ゆるめるモ!)
03.アウトラウド feat.根本凪(虹のコンキスタドール)
04.SKIT
05.AS ONE feat.寺口夏花&山崎愛(sora tob sakana)
06.FIRE LIAR feat.椎名ぴかりん
07.りんねラップ2 feat.吉田凜音
E TICKET PRODUCTION(Eチケ)にとって、自身の名前を冠しての初となる作品集。Eチケが全ての楽曲プロデュースをつとめるミニアルバムとなっている。テーマはズバリ「アイドルラップ」。アイドルラップを作り続けて来たEチケがアイドルを1曲ごとにフィーチャリング。吉田凜音「りんねラップ」を含む2曲と、椎名ぴかりん、ようなぴ(ゆるめるモ!)、根本凪(虹のコンキスタドール)、寺口夏花&山崎愛(sora tob sakana)の各1曲を収録。SKITにはYui&Aoi(MOE-K-MCZ)が登場。
さらに通常盤+カラーA4サイズ32Pのフォトブックの「フォトブックセット盤」もリリース。フォトブックには、CD付属のブックレットに収まりきらなかった参加アイドルたちのグラビアが盛りだくさんで掲載されている。
レーベル、企画・制作はIDOL NEWSING。タワーレコードを初めとしてヴィレッジヴァンガードなど、全国の店舗にて販売。Amazonなどでのネット販売、配信も予定。
リリースイベント
E TICKET PRODUCTION 1stミニアルバム「E TICKET RAP SHOW」発売記念LIVE
「E TICKET RAP SHOW」
期日:2017/1/8(日)
場所:代官山LOOP
時間:開場 14:00 / 開演 15:00
出演:吉田凜音 ようなぴ(ゆるめるモ!) 椎名ぴかりん
根本凪(虹のコンキスタドール)
寺口夏花&山崎愛(sora tob sakana)/NEWKIDSCREW(OA)
チケット:前売 2000円+D / 当日2500円+D
CD「E TICKET RAP SHOW」(通常盤)付き前売チケット(500円お得!) / 4000円+D 当日4500円+D
CD「E TICKET RAP SHOW」(フォトブックセット盤)付き前売チケット(500円お得!) 5500円+D / 当日6000円+D
「E TICKET RAP SHOW」初売りの他、オリジナルTシャツを販売します。
イープラスにて発売中
IDOL NEWWSING LIVE 2.5
期日:2017/1/8(日)
場所:代官山LOOP
時間:開場 17:50 / 開演 18:40
出演:吉田凜音 椎名ぴかりん 虹のコンキスタドール sora tob sakana
チケット:前売 3500円+D / 当日4000円+D
「りんねラップ」MVフルver&メイキング他収録、DVD「IDOL NEWSING vol.2」付き前売チケット(500円お得!) 5000円+D / 当日5500円+D
イープラスにて発売中
「E TICKET RAP SHOW」インストアイベント
1/9(月・祝)15:30~ HMV&BOOKS TOKYO(渋谷・modi 7F)
出演:吉田凜音、ようなぴ(ゆるめるモ!)
1/14(土)12:00~ タワーレコード新宿店
出演:吉田凜音
1/24(火) 18:30~ タワーレコード渋谷店 4F
出演:根本凪(虹のコンキスタドール)、ようなぴ(ゆるめるモ!)
2/4(土)18:30~ タワーレコード渋谷店 4F
出演:椎名ぴかりん and more...?
※お問い合わせは店舗ではなくIDOL NEWSINGまでお願いいたします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?