全ては自分の頭が作った世界
「はじめて借りたあの部屋」のコンテストで審査員特別賞に選んでいただきました。
講評にも書いていただきましたが、この話は下宿していた部屋での実際の出来事や、誰かに言われた印象的な言葉ではなく、全て自分ひとりの「妄想」で書いたお話です。
人と人の良いエピソードも出てきません。
自分と、自分が住んだ部屋と、両者を繋ぐ電車の音だけの無機質な話です。
でも、自分があの部屋で暮らした3年弱を総括した、部屋への精一杯のラブレターでもあります。自分なりの最大の愛情表現でありました。
自分以外の特定の人間は出てきませんが、この文章の行間には
あの部屋で鍋に興じてくれたサークルの仲間、高校の友だち、大学のクラスの友だち、研究室にいた好きな人、そんな大切な人たちとの思い出が詰まっています。
そして、今思えば宝物のようであったそんな時間を一緒に過ごしてくれた人たちがこの文章を読んで、「あの部屋の光景を思い出した」「私らしくて良かった」と言ってくれたこと。
これが、何よりの贈り物でありました。
ああ、文章を書いて本当に良かったと思わせてくれる、大切な人たちが身近にいる幸せを再認識させていただきました。
そして何より、この部屋に住んでいる間の家賃を、生活費を、工面し続けてくれた母にも読んでもらえて、嬉しそうにしてくれたこともとても幸せでありました。
書ききれないけれど、この部屋での思い出は他にもたくさんあります。
初めてこの部屋をひと目見て、「陰気だな…」と呟いたこと。
部屋の中で最初に人と交わした会話が別れ話だったこと。
泣きながらオムライスを作ったこと。
腐って液状化した人参を見つめ、少々高くついても1本ずつ買った方がいいと悟ったこと。
炊飯器から水が溢れてきてパニックになったこと。 就活後に鬱状態になり、10分おきに両親に電話をしないとどうにかなりそうだったこと。
当時の自分に向かって、何とかなるから大丈夫だよと言ってあげられること、どうなるんやろねえと一緒に困った顔をするしか無いこと、両方がありますが、
いずれにしてもこの部屋での出来事は、宝箱にまとめて閉じ込めておきたくなる、かけがえのない思い出です。
お読みいただきありがとうございました!
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