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「人に還っていく」 ある日の旅するzoom

4月26日に実施した、旅するzoomオリジナル。リクエストをくれたのは2年前にサンボーを訪れてくれた、自由大学の講義「地域とつながる」の仲間たち。あの時の旅の仲間のうち都合がつくメンバーが集まって、かつての旅の舞台を巡った。

サンボーの遺跡の中は、豊かな森という名前が示すとおり、樹冠が濃いと通信状態が悪くなる。いいところで映像が止まってしまうので、時々ラジオ放送になったりする。通信が回復する開けたゾーンに移動するまでの間に、この日集まったメンバーの近況などが交わされた。

今日のそっちの天気はどう?
晴れていて、うん、これは快晴って感じだね。

最近、野菜を植えたんです。野菜!いいね。
あと、藍を。染めてみたいなと思って。
あ!実は私も庭に植えてみたところ。

こういう何気ないやりとりを聞いていたら、おもむろに、ああ、今、私たちは人に還っていってるんだなと思い、それをメンバーにもシェアした。

これまで外注していた、何かを創り出す活動とその過程を、もう一回辿り直している

少し前は天気の話なんて、日常会話に入ってきにくかった。英語の教科書の最初の方にしか出てこないくらい、テレビにも電車の中のモニターにも天気予報。でも、今はたぶん、雨が降るかどうかを知りたいんじゃなくて、その人がいる場所はどんな感じなのかを、その人の感覚と一緒に聞いてみたいんだと思う。
藍を植えたという二人も、染色家やアーティストではない、普通の”仕事をしている大人”。そういう普通の大人が、生活のなかにある”暮らす”の一部に、自ら手を伸ばそうとしている。

今までいろんなものに圧迫されて、縮こまって、息を潜めていた”暮らす”という領域が、この壮大な大転換期にちょっとずつじんわりと、その縮んでいた腰を伸ばし、肩をぐるぐる回して、心地いい姿勢を探そうとしている。そして、”暮らし”さんが伸びをして動きはじめると同時に、私たちの日々にもなにやら血が通いはじめる。そんなシーンが、この何気ない会話の中から立ちあらわれてきた。

そして、かつての旅で2泊3日泊めていただいたホームステイのお宅を再訪。
2年前、この家の庭の一角で、食事のあとの燠火を囲んで、夜まで話した。

最後の朝、出かけようとしたら突然の雨。でもそのおかげで、お父さんと一緒に、庭で摘んできた生のハーブのお茶を飲み、伝統医療のハーブの話から、ポマーという生き物のフンは万能の薬だ、という話題になった。あらゆる木の実を食べるので、様々な薬効成分が凝縮されているのだとう。ポマーは新出単語で、最初何ものかわからず、言葉で説明してもわからず、結局、お父さんが誰かのメモを借りて、絵を描いた。絵のなかのどこか柔らかい、ポマーの顔を何となく覚えている。

お家を訪ねた時、お父さんは外出していた。
今年は例年より水が少なくて、お水を精製して村の中で販売している家族のメンバーはみんな、出かけているのよとお母さんが言った。

日曜日だけど、お仕事なんですね。と画面越しに誰かが言うと、
みんな日曜日もお水は飲むでしょ?とお母さん。

なにも特別ではない、自然のこと。そんな感じで言うお母さん。
その感じをそのままに、画面の向こうのみんなに伝える。
日々のみんなの営みがあって、そのために「仕事」が必要とされている。

旅するzoomのギリギリ最後に、お父さんが登場した。
2年前に来たメンバーだよ、と画面を見せると。
おお、懐かしいね。と。ひとしきり
元気ですか?
そっちは元気かい?
と重ねながら、みんなの顔がほぐれていく。画面の向こうも、目の前の顔も。その瞬間をリアルに見られる、このつなぎのポジションは役得だ。

お父さんが言った。
落ち着いたら、またおいでな。

肩肘張らない、その言い方。
そこにはお客さんとホームステイ先という関係以上に、そこはかとなく血がかよっている。こうやって顔を見ちゃったから、また、もっと会いに行きたくなる。

2年前ここに来た時には、誰も想像しなかった、まさかのオンラインで再訪。そのとき見ていた未来にいるメンバーも、全く想像しなかったところにいるメンバーもいる。その人たちがこうして集まるという奇跡。

zoomでの旅を終えた後、その余韻のままに、チャットで言葉が交わされるのも心地いい。

そして、その対話の中に今のこの時期を、どう過ごすか、どう生きるか、へのヒントがちらっと見えたりする。

それが、たぶん旅するzoomのいいところ。


2020.04.28

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