コンポントム税務署物語・起 おなか痛い


毎月苛烈な戦いを強いられると言われるカンボジアの納税事情。納税窓口のガラスを挟んで納税する側とされる側の間で繰り広げられる悲喜こもごもな逸話を先輩経営者さんたちからたくさん耳にしてきた。
その一方で、私たちは創業後から、コンポントム州の税務署の皆さんに多岐にわたり助けられ、おかげ様でなんとか支えられている。

そんな税務署との物語を話すたびに驚かれるので、この小さな町の税務署で生まれる不思議に懐かしい瞬間を気まぐれに記録することにしました。

あるとき。

今月も月〆の納税のため、町の中心から2キロほど離れたコンポントム税務署に向かう。自転車をこぐ額に午後の日差しがさんさんとそそぐ。

正面玄関を抜けて、左手の茶色い色ガラスの扉を開ける。パソコンのディスプレイとプリンター、書類が積まれた机たちが並びその向こうにいつもの税務署スタッフのみなさんがいる。手前に置かれた椅子には先客が数名。外側のカバーがちょっと黄色くなったエアコンはブラインドを通して入ってくる午後の熱気に負け気味で、全体的にもやっと暑い。
ガラスの色、室内にただよう空気が、昔ながらの喫茶店を思わせる。

納税窓口の一つにいつも私たちを担当してくれているMR.CHENがいる。
目で呼ばれ、いつも通り、目の前の椅子に座って書類を出す。
変わらないルーティンだ。

その時、先に隣の窓口に座っていたおじさんが、横目で私を見やりながら、目の前にいる長い黒髪がキレイな担当のお姉さんに聞いた。

「何、となりのこの韓国人もここで会社やってんの?」

コンポントムには日本人より韓国人が多く、私たちも町でよく「ジャポン(日本人)」より「コレー(韓国人)?」と声をかけられる。

「この人ね、日本人ですよ。クメール語もできるし」
「え、日本人なの?!」ちょっと驚くおじさん。意外だったらしい。

最初から遠慮なく、その会話はものすごく耳に届いている。
でき女系キレイなお姉さんがそこまで説明してチラッと私を見るので、

「そうです、私、日本人です」とクメール語で伝えたら、

「え?おなか痛い?」とおじさん。

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