ラーメン屋の噂話・実況中継
閑散としたラーメン屋でなにかが起こる気配が
何年も前のある日曜日、午後6時前後の出来事。
N氏は小田急線のある駅から調布市に向かって、自転車でラーメン屋を探索していた。
探していた近辺に店はなかったが、まもなく古い造りの店を見つけたので入ってみた。
「いらっしゃい!」
店主は60代前半くらいだろうか、妻らしい女性とふたりで店を切り盛りしているようだ。
カウンターに60歳前後のひと目で酔っているとわかるオヤジ。オヤジと大きく離れた反対側のカウンターの椅子にすわる。
混んでいそうな時間帯なのに、客はN氏のほかに2組だ。このオヤジ。そして、テーブル席にパパと小学校高学年くらいの父娘。
今日の新規開拓は失敗だったか。この閑散ぶり。それに、酔っ払いが居座るラーメン屋はハズレが多い。
とりあえず、こういうときは無難なおすすめメニューにでもしておくか。店主のごまかしがきくスタミナラーメン(だったと思う)を注文。
そのとき、テーブル席の女の子がスマホで話す声が聞こえてきた。
父と娘の静かなひととき
「うん、うん……わかってる……でもそれは私、わかんないよ~……そういうことは、お父さんと話して」
小学生くらいなのに、話し方がずいぶん大人びている。ビールを飲んでいたお父さんは娘からスマホを受け取り、お母さんと小声で話しはじめた。
娘はテーブルにあった餃子を、物憂げにつつき始めた。食欲はなさそうだ。
感情的な態度ではないものの、父と母はささいなことでもめているらしい。一時期、従姉妹が同じ状況だったN氏にはピンとくるものがある。
別居中、あるいは離婚しているのか。月に何回か子どもと会っているような状況なのか。娘を何時までにうちに返してくれなどと言われているのか。
父は言われたことを聞いているようである。
そこへ父娘のラーメン、チャーハン(だったと思う)が運ばれてきた。いつしか電話は終わり、ふたりは笑顔もないまま静かに食事を済ませた。
会話という会話も少しだけ。それから、父は「ごちそうさまでした」と店主に声をかけて出ていった。
「ありがとうございました!」と店主。
ここまでは、N氏にとって何気ない日常に思えた。ところが、ここから物語は急展開を見せるのだ。
店の空気をぶちこわす店主
親子が出て行くとすぐ、店主がぶっきらぼうに言った。
「あの親子、ヘンだよな~」
ぎょっとするN氏。今、出ていったばかりの客の悪口を、他の客の前で平気で言いはじめるとは……。この店が人気がないのもよくわかる。N氏の次の来店はなくなった。
「いつもお父さんとあの女の子だけなんだよ。奥さんいないのかねえ、ヘンだよな~」
「あ~そう」
酔っ払いはたいして関心がなさそうだ。そうだろ、他人のことなんて、どうでもいいじゃないか。よけいな関心持つな。
すると、生活に疲れたような風貌の妻が口を出した。
妻「いないってことないでしょ。毎日来るわけじゃなし。1週間に1回くらいじゃないの」
店主「でもヘンだよな~」
N氏の正義感がムクムクと頭を持ち上げた。ヘンだっていいじゃないか。それを言うならオヤジ、お前もヘンだぞ。
ついでに、よく言われるけどオレはもっとヘンだぞ。
明日の後編に続きます。お楽しみに!
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