Y子と距離を置き詩織と過ごした時間

Y子とは半年間距離を置く事にした。
その話をしたのが6月だったので、12月の中旬にまたお互いが関係を戻したいと考えていたらやり直そうと言う話になった。

俺は別れ際、「Y子は俺以外にもっと色んな男を見た方が良いぜ」と言った。

俺がY子以外の女性と付き合う為に距離を置く事になった罪悪感を軽減する為に発した言葉だった。

Y子はそれに対し間髪入れずに、

「絶対そんな事しない」

と言った。
Y子は自分をしっかり持っていて、決して複数の男を同時に好きになる事がないんだなと感じた。

改めて、俺には勿体ない出来すぎた良い子だなと思った。

Y子を駅まで車で送る最中、Y子は「わがままな彼女でごめんね」と言った。
Y子は俺が他の女性を好きになってY子と距離を置くと言う選択を取ったとは知らずに、ただ自分自身を責めた。

罪悪感で胸が締め付けられた。


Y子と別れ、俺はすぐにまた詩織と会う約束をした。
早いとこ明確に「恋人」と言う称号が欲しいと思っており、次のデートで告白しようと考えていた。

詩織との次のデートでまた夜のドライブをした。
そしてお気に入りの海岸で詩織と談笑しながら、タイミングを見計らって聞いてみた。

「俺達って付き合ってるんだよね」

しかし返ってきた言葉は期待と反するものだった。

「付き合ってるとか付き合ってないとか、そう言う言葉にあんまり意味はないと思う。付き合ってたって浮気したりするんだし、いま一緒にいるって事実があるだけで良くない?」

俺は明確に恋人と言う関係になって自分を安心させたいと思っていた。
また過去に付き合った女性の数を増やしたいと言う打算もあった(男は過去に付き合った女性の数でマウントを取る傾向がある)。

期待した答えは得られなかったが、それ以上追求しても俺の期待する返事は引き出せないと思い、その日はそれについて追求する事も無かった。

それよりも俺には詩織について、解決しないといけないもう一つの大きな問題があった。

それは、

詩織にソープで働くのを辞めて欲しい

と言う事だった。
ソープで客と店のキャストと言う関係で出会い、そこからプライベートでデートする関係になって、明確に回答を得られなかったものの、一般的には恋人同士と思える時間を一緒に過ごす様になった訳だが、詩織が店に出勤を上げているのを見ると胸が締め付けられる様になっていた。

詩織が出勤している時間になると、詩織が他の男のモノを加えて、他の男のモノを受け入れて喘いでいる姿を想像して苦しんだ。

おかしな話だよな。
それを承知の上で付き合いたいと言ってた癖に。

俺はそれとなく詩織に、「詩織が風俗で働いてるのを見ると嫌な気持ちになる」と言う事を伝えた。

それに対し、詩織は悩みながら「お金を貯めたいから今すぐは無理だけど、あと50万円貯まったら辞める事も考える」と言った。

それに対して俺はすかさず「50万円俺が払ったら今すぐ辞められる?」と聞いた。本当にお金だけの問題であれば、お金があれば辞めてくれるはず。詩織がお店を辞めてくれるなら50万円なんて安いと思った。

俺にとって詩織が風俗店で働き続ける事の辛さを汲み取ってくれた様で、「じゃあお店は近い内に辞める」と約束してくれた。

俺は素直に嬉しかった。
辞めると約束してくれた日以降、実際にお店のHPの詩織のページに出勤予定は上がらなくなっていた。

それを見て、後はもう明確に恋人であると言う言質を取れば、二人に障害は何もない。
晴れて詩織の恋人として一緒に素晴らしい時間を過ごそう、と能天気に考えていた。


事件はすぐに起きた。

詩織の出勤がお店のHPに上がらなくなってしばらくの事、たまたまキャストの出勤一覧を眺めていると、名前は全く別で髪型が異なるが、どことなく詩織に雰囲気が似てる女性の出勤が上がっていた。
顔はモザイクが掛かっているので本人かどうかは分からないが、俺は嫌な予感がして、詩織に電話で聞いてみた。

詩織は「私じゃない。もう出勤しないって言ったのにお店のHP見るなんて、信用してない証拠じゃない?」と怒りを顕にした。


それ以来詩織はメールや電話にも応じてくれなくなってしまった。

そしてやはり疑惑の晴れない俺は、店に出向いて、「ちょっとこの女性の写真を見せて貰う事出来ますか?」と店員にお願いした。

店員はすんなり写真を見せてくれた。
俺は恐る恐る写真を見た。

詩織だった。

やはりすんなりお店を辞めると言う決断は出来なかった様だ。
でも俺がお店を辞めて欲しいと強く懇願する事に対しても断りきれず、出した結論がそれだったのだ。

俺は酷く落胆した。
お店の客とキャストと言う関係で出会った手前、お店を辞める事を申し入れる事は身勝手だとも思いつつ、でも俺の詩織への気持ちはそれほど大きな物になってしまっていた。

色々悩んだし、詩織が俺に嘘をついていた事を恨んだりもしたが、結局は俺が蒔いた種だと自分を納得させ、もう一度直接話し合いたいと思った。

詩織が当面の貯めたいと言う金額を俺が負担する事も、今後の生活費も家に一緒に住みながら少しずつ負担する事もやぶさかでは無いとすら考えていた。

俺はいつもと違う電話番号から、いつもと違う名前で「詩織」を予約した。予約名で自分だとバレたら会うのを拒否されるかもと考えたからだ。


詩織と会う日、俺の心臓は爆発しそうだった。
どんな顔をされるか、その後また今までの様に付き合い続ける事は出来るのか。

待合室で待っていると俺の番号が呼ばれた。
階段に向かうと詩織がいて、俺の顔を見て一瞬驚いた顔をしたが、次に発した言葉は、

「ヤバい、バレちゃったー。怒られるー」

だった。
二人で部屋に入り、詩織はずっとベッドでダルそうに横になっていた。
俺は詩織に言おうとしてた言葉を全て伝えた。

「お金の事は俺が何とかするし、もう無理に仕事を辞めてとは言わない。だからまた俺と付き合って欲しい。」

詩織は黙ってそれを聞いていた。


しかしその行動も虚しく、その後メールや電話にも一度も応答してくれる事は無かった。

それ以来詩織とは一度も会ってない。
俺にとって過去最高に理想的な女性との恋愛は結局出会ってから3ヶ月足らずで幕を閉じる事になった。



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