見出し画像

CASHのデザインプロセスから考える戦略思考とその落とし穴

このブログ。半月ほど前の投稿ですが、私の周りでバズっていて、読んでみたらシビレました。タイトルの通り、CASHのデザインプロセスを紹介する内容なのですが、私もこれに触発されて、ブログを書いてみることにしました。


今回、私がお伝えしたいことは、

●引用元はデザインやUI/UXの話しをしているのですが、経営戦略やマーケティング全般にいえることだなーということ。

●それに加えて、理論でわかっていてもなかなか実践が難しい問題であり、それを難しくする思考の落とし穴と、それの回避策について考えたいということです。



まずは、kabukibankerさんのブログ(※1)から引用します。

== 引用 ==

まず自分たちのビジョン、ゴールセッティングがあり

その結果何が顧客の課題解決・付加価値になるのか、の明確な定義があり

初めてデザインの要件に入る、と。

ここが決定的に違うんです。

微妙なサービスの多くは機能ドリブンのあやふやなゴールセッティングでデザインを始めてしまうため、要件がぶれてしまい「他行では○○だ」とか「マネジメントが××と言っている」という非論理的な要件をただ浴び続けるだけに陥りがちです。

どの高みを目指すかによってデザインの重要度は大きく変わります。極論とりあえず1個の機能としてあればいいのなら、デザインなんかいらないわけです。存在することが付加価値なので。

凄さポイント:ゴールから逆算して論理的に要件が導き出されている

==引用終わり==


これには100%同意します。CASHという今年大きな話題さらったサービスの実例で語られる内容は説得力が違いますね。

ここで、CASHにはすでに目的も戦略も定まっていて、デザインはそれを達成するための戦術と捉えることができます。つまり、デザインという戦術は、マーケティング施策だったり、オペレーションだったり、すべての手段に置き換えて考えることができるわけです。

ここから先は、戦略と戦術(マーケティング施策)に置き換えて考えていきます。



で、なぜこれを実行するのが難しいのか?

それは、物事がカタチになって現れるのは戦術に落とし込まれたときが初めてであって、目的も戦略もカタチがないものだからかなんですよね。つまり、戦術のほうがイメージしやすくて、考える側(マーケター)は、ついつい戦術から考えてしまうところがあるのではないかと思います。

けど、それじゃダメで、目的→戦略→戦術の順じゃないといけないんです。

そんなの分かってるって?本当でしょうか?ここでちょっとした問題を解いてみましょう。(私が尊敬してやまない元USJの森岡さんの著書(※2)から引用します。)

以下の、横軸に戦略の良し悪しを、縦軸に戦術の良し悪しを定めた2軸4象限のうち、ビジネスの結果が良いと思う順に並べてみてください。

いかがでしょうか?

ここでヒント。多くの皆さんが答えるのは「A→B→D→C」で、その次に多いのが「A→D→B→C」だそうです。しかし、どちらも正解ではありません。

ここでちょっと間を空けますので、今一度考えてみてください。













それでは正解を発表しましょう。正解は、「A→B→C→D」です。なぜだかわかるでしょうか?

大阪から東京ディズニーリゾート(TDR)に行くことを目的とした場合を例に考えてみると、戦略と戦術の関係は以下のように表すことができます。

■戦略
良:正しい方向に(TDRに向かって)進む
悪:間違った方向に(香港に向かって)進む

■戦術
良:正しい手段で(飛行機や新幹線を使って)進む
悪:間違った手段で(自転車を使って)進む


これをABCDに当てはめると・・・

Aは、良い戦略で、良い戦術なので、飛行機でTDRへ行く。これが最善なのは議論の余地はないでしょう。


Bは、良い戦略で、悪い戦術なので、自転車でTDRに向かう。これは、目的地までた取り付けない可能性が高いですが、目的に向かっているのですから次善といえます。おそらく途中ですぐに無理だと気づき、京都か米原あたりから新幹線に乗れば目的地に着けるでしょう。


Cは、悪い戦略で、悪い戦術なので、自転車で反対方向に進む。これは、絶対に目的地にたどり着けませんが、気づいた時に引き返すことができるため、まだマシ


一方、Dは、悪い戦略で、良い戦術なので、飛行機で反対方向(例えば香港ディズニー)に進む。これは、絶対に目的地にたどり着けないうえに、取り返しがつかないことを意味します。往復で約10時間の上に費用もかかってしまいます。ですので、最悪といえるのです。

やはり、戦略→戦術の順でなくてはいけないのですが、ちょっと気を抜くと、戦術(手段や方法)さえ正しければなんとかなると考えてしまう、ここに落とし穴があるのではないかと思います。



じゃあ、どうするのか?

次に、誤った戦術に陥らないための回避策について考えてみたいと思います。

少し前に私はあるビジネススクールで以下の講義を受けました。

実は、私は上記に対して違和感を感じたんですね。いや、間違ってはいないのでしょうけど、“解決策のオプションを挙げる”ことが、戦術に飛びついてしまうことにつながらないかちょっと危ういです。

その前にやるべきことは、目的を果たせる解決策とはどんなものなのかを先に考えることなのではないでしょうか。

ここでも、元USJ森岡さんの言葉を借りると、戦略を達成させるための必要条件を定めることです。著書(※3)から引用します。

== 引用 ==

ターゲットの不必要な狭さに着眼して、最も達成可能性が高いと判断した戦略が「小さな子供連れファミリーを獲得する」ことでした。そうなれば「小さな子供連れファミリーの獲得」を必要条件にアイデアを考えれば良いわけです。さらに、その大きな一つの必要条件をもう1レベル噛み砕いて、より具体的な4つの必要条件として考えました。

必要条件「小さな子供連れファミリーを獲得できる」とは?
①「小さな子供連れは楽しめない」という消費者のパーク全体に対する認識を強く覆すものでなくてはならない。
②実際に数倍増えるであろう集客に十分に大きな収容キャパがなくてはならない。
③設備投資資金の予算内で実現できるアイデアでなければならない。
④既存資産とのプラスの相乗効果で経営効率を高めるアイデアであれば尚良い。

この段階でようやく、これら必要条件を満たすアイデアを具体的に探していくことになります。この4つの条件を足がかりに、当てはまるものをどんどん発想していって、その中から成功確率が最も高いと思えるアイデアを選ぶわけです。

==引用終わり==


これをまとめると以下の通りです。

※余談ですが、USJのV字回復の軌跡が書かれたこの本のすごいところは、この必要条件を噛み砕き、具体化するプロセスを、刻々と変わる状況に応じて何度も(少なくとも本で紹介されているだけで6回)行われていることです。どんな時にどんな必要条件を打ち出すべきなのか、非常に参考になる良書です。


これは、最初に紹介したビジネススクールのスライド(青の背景)の1番目の項目が、USJ森岡式(黄の背景)では3番目にきていることがわかります。どちらが、目的→戦略→戦術を捉えられているか、また、どちらが限りある経営資源を有効活用できるか、結果は一目瞭然ですね。


これらを踏まえて、改めてCASHの河原さんのスライド(※4)にあてはめてみましょう。


目的


目的を果たせる必要条件

必要条件を1レベル噛み砕いて、より具体的な必要条件を複数挙げる

ここで注目したいのが、上記の5枚のスライドの段階では、まだ何のカタチにもなっていないということ。(だからこれを先に考えるのが難しい!)これを戦略と呼ぶわけです。

※戦略というとつい全社的な経営戦略だけを指すものと思われがちですが、戦略思考を持つことと捉えると、それはデザイナーでもマーケターにもできるし、必要なことですよね。

そして、この先で初めて、配色やロゴ、アニメーションとなってカタチ(戦術)になるわけです。

デザインを語る上でこの戦術(配色やロゴ、アニメーション)が大切なのは言うまでもありません。だたし、そこにいたるまでのプロセスが、目的→戦略→戦術の順になっていることが重要なのです。


少し長くなってしまいました。最後にまとめると…


●今年ブレイクしたサービス、CASHのデザインプロセスは、目的→戦略→戦術になっているところがすごい

●しかし、それを実践するのは難しく、具体的で目に見える戦術に飛びついてしまう落とし穴が潜んでいる

●それを回避するための一つの方法として、(解決策のオプションに飛びつく前に)目的を果たせる必要条件を定め、さらに1レベル噛み砕いてその必要条件を満たす必要条件に落とし込むことが有効



私自身も戦術を具体化して遂行する部門に長く関わっているため、ついつい戦術のラットレースに陥りがちです。

その対策として、必要条件に落とし込むことはほんの一例に過ぎないのかもしれません。

ただ、何らかの仕組み・仕掛けを用意して目的・戦略は常に意識しておきたいですね。




※引用元

(※1)CASHのデザインプロセスが凄すぎて思わずブログを書いてしまった話(2017/9/29アクセス)

(※2)森岡 毅.“第4章 「戦略を学ぼう」”.USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門.角川書店.2016.P116-P121.

(※3)森岡 毅.“第6章 アイデアの神様を呼ぶ方法”.USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?.角川書店.2014.P159-P160.

(※4)CASH|ポジティブな「お金」の表現 by Kanako Kawahara(2017/9/29アクセス)

最後までお読みいただきありがとうございます。サポートいただいたお金はありがたく使わせていただきます。