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我的好曲2019(asia)

色々な方々の年間ベストを拝見して、もはや統一的な傾向を抜き出すのはかなり困難だなとつくづく感じました。それに近年「楽曲は発表済だが、リアルタイムで出会えない」ということも相次ぎ、真の年間ベスト作成は不可能と判断。順位はありません。さらに個人的な感覚として、もはやアルバム単位で選ぶことすら難しいと判断し昨年に引き続き楽曲で紹介しています。

今年は日本の音楽における音像(特にミックス)の転換期で非常に楽しい年でした。ただ音が良くなる反面、個人的な琴線に触れるにはやはり曲が良くないといけないなと。それはコード進行やサウンド、ビート、構造、文脈、歌詞も含めたものです。あともちろん声。

そんな1年で出会えた、アジアの個人的良作を10曲選びました。

・Wonderland / iri
ハイライトは冒頭の“every day, every time/今日もあっという間にdone”。「今日がdone」と完了形を歌詞にするのが新鮮でした。私はこれを近年のヒップホップ・R&Bのチャート席巻以降のポップスとして日本語を響かせようとした結果、と理解しています。日本の洋楽需要は簡単に言えば西洋音楽(唱歌)に始まり、ロック(日本語ロック)、ヒップホップ(日本語ラップ)と続いていく。これらは日本語を音楽に合わせて改造してきた歴史であり、その現在進行形を楽曲に見た気がしました。

・I still got it / SARM
私のなかで2019年ニューカマーがSARM氏。iri氏と同じく英語も日本語もいける本格シンガーで、フロウがとても良い。ふたりともビートを声で圧倒していくようなパワーを感じます。唯一出てくる日本語歌詞“あなたなんてなくなっていなくなればいい”、“あいまいな関係”というラインの韻が秀逸。日本語が他にない分、輝きを増して聴こえます。

・FNCY CLOTHES / FNCY
去年も「AOI夜」を取り上げたFNCYですが、「服」をトピックにしたこの曲もセンスいい。三者三様のヴァースからメロディックなブリッジを経て、BPMを半分に感じさせるビートは三連符主体のメロディになります。特に素晴らしいのはフックの“FREEDOM/FREEDOM/纏えFREEDOM/FREE”という部分。重複する「FREEDOM」が3回目だけズレて配置され、エモい文言である「FREE」で締めているのがファンシー。

・さらしもの / 星野源
星野源のシンギング・ラップも注目に値しますが、個人的に興味深かったのはサンプリングされたCory Henry「NaaNaaNaa」の2小節。最初のイントロで流れている分には問題ないのですが、ビートが入ると非常にゆがんだループだとわかります(最終的にピアノが約8分音符ほどまで遅れる笑)。でもそれが良いドミナント→トニック感を生んで、シンプルな楽曲を深いものにしています。いわゆるJ・ディラ的な価値観を上手に日本語ポップスに落とし込んだ例でしょう。これをお茶の間に持ち込む星野源は相当に教育的というほかなく、ひとりポンキッキーズ/ひとりセサミストリートだと言っても過言ではありません。

・ジェニーハイラプソディー / ジェニーハイ
長年Jロック側からヒップホップに接近しようと試みている川谷氏。この曲では彼による3連符フロウを披露しています。他の諸作におけるラップからも、素養なしに取り組むと違った質感になることが確認できました。一方で曲の内容がリアルであることが真に興味深い。”ゴーストライター”、“掛け持ちさせたらこっちのもん”は川谷氏の他バンドでは表現不可。ジェニーハイは彼がアティテュードとしてのヒップホップを獲得したプロジェクトだと言えます。ただ、この楽曲で一番リアルなのは新垣隆氏でしょう。

・GG STAND UP!! feat. 松本孝弘 / 木梨憲武
とんねるず/ダウンタウン的な笑いの感覚は好みませんが、とんねるずや野猿の音楽は好きでした。この曲はミックス感は今っぽくはないですが、構造にEDM的なドロップがある点が最大のポイントです。おじさんなのにJポップ楽曲が陥りがちな<サビ→ドロップ→イントロ>の重い構成にしていない。来年も世界ではグレタちゃんの件をはじめ「若者vsおじさん」の構図が増えるでしょう。そして同時に今後おじさんが歌う新曲が増えていくのかもしれません。ポップスが若者の音楽であることを辞める日が来るのかも。

・Loving' You / 佐藤千亜妃
アルバム『PLANET』のなかでも異質な曲で、ビートが単純にかっこいい。ビートメイカーは踊Foot Works」のTondenhey氏。ミックス感もすごく御洒落で、Kポップに負けてないと思いました。間奏のノイジーなギターソロは空間を塗りつぶす様に混ぜていて、それが消えた後のスカスカ感の落ちサビも気持ちいいです。

・Love Again / Hoody
Kポップはサウンド・プロダクションの水準が非常に高くなり軒並み良い音が鳴っていますが、均質化も進んでいる印象です。今年は琴線に触れる曲が少ない印象でしたが、Hoodyのアルバム『Departure』は良かったです。前作『On And On』も良作だったので待望の新作アルバムでした。彼女の声が良いんですよね。ⅣM7→Ⅲm7→Ⅵm7系のイントロが提示された瞬間にハードルが上がるのですが(王道すぎるので)、それでも「お!」と思わせる曲。

・Flexing So Hard / Higher Brothers
ビートの低音感がいいし、それぞれのフロウも好き。そして一番大事なのは“I got melody and RMB”というパンチライン。A Tribe Called Questが「Jazz (We've Got)」を歌ったように、ヒップホップはジャズを獲得した。そして中国人ラッパーが「R&Bを手に入れた」と言っている。これは一体何を表しているのか、同じアジアの日本人として深く考えさせられました。

・MOOD 4 / Green Assasin Doller
日本語ラップでは舐達磨が注目を浴びた気もするのですが、Green Assasin Dollerのビートが最高なんですよね。この曲が収録されている『MOOD BEATTAPE』は18の「MOOD」という名前がついたビートが収録されています。このコンセプトはマイルス・デイヴィスが言った「曲っていうのはムードなんだ」という言葉を連想させました。どの曲もかなり踊れる内容になってます。


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ゆとり第一世代・音楽家/記者。 山梨県笛吹市出身の笛吹き(サキソフォン)です。 ヘヴニーズ所属。演奏や取材、企画、MCとか色々とやってます
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