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トヨタ バッテリー価格50%削減の解説

極めて久しぶりのnoteですね。まあ忙しくてこっちに手が回らなかったわけですが、さて、本日はわざわざITmedia ビジネスオンラインのコメント欄に、記事と全く関係ない話で煽りにやってきた阿呆がいるので、ここでイジります。それから主題であるトヨタの発表の解説をします。リンク先、1:22:00あたりから池田が質問しております。まあ万が一興味のある奇特な方がいればですが。

書き込みはコレ

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トヨタが1兆5千億円を投資して電池のコストを半分にするそうだが、池田さん曰く電池のコストは下がらないそうなので、失敗に終わるでしょうね。池田さんには投資を辞めるようにトヨタを説得して欲しいです。


トヨタを説得しろとのことですが、その労力に対するギャラはあんたが払ってくれるんでしょうか? トヨタがそれで失敗しようがボクには関係ない話なので好きにすりゃいいだけです。もっともトヨタはその辺ちゃんと理解してやっているので、別にわざわざ「お前大丈夫か?」と言いに行かなくちゃならない気分には全くならないわけですが。

この人が意図的に誤解を生む様に書いている「電池のコストを半分にする」ってのが文章の額面通り「同じ容量の電池の値段が半額になる」って意味だと受け取ると、そんなものかなり確率が低い話だと思いますよ。

トヨタの戦略が分かってないからそういうことを言い出すわけですが、トヨタは電動化にもバッテリーにもマルチソリューションです。とある種類のバッテリーが1兆5000億円(の中の一部)をかけて安くならなかったとしても、「あれ? ダメでしたねぇ」ってだけです。もっと言えば、BEVが完全にコケても「あれ? ダメでしたねぇ」ってだけです。

技術開発なんてのはトライアンドエラーであって、打率10割はあり得ない。やってみないと当たるか外れるかは分からないので、やってみますが、それが外れる確率は折り込み済みなのです。だからちゃんと織り込んだ程度の打率で上がるなら経営は傾かないどころか成長できるのです。

まあボクもトヨタもBEVの否定なんて一度もしてないんですけどね。仮に未来が極めて予想外に進展して、「誰ひとりBEVに見向きもしない世の中」になったとしても、別にあんまり困らないようにトヨタはやっているだけですから。もちろん逆もです。「HEVなんて誰も買わない」時代が来ても大丈夫。どう転んでも大丈夫な戦略をマルチソリューションと言うのです。テスラは万一BEVがダメだった時どうするんでしょうかね?

これだけ何度もしつこく書いてわかんないのでこの人はバカなんだと思うので、まあきっと今回もわかんないんだろうとは思います。

ボクがこれまで否定してきたのは「バッテリーの価格はムーアの法則に従ってどんどん下がって、2021年には内燃機関を購入する経済合理性がなくなる。よって100%がEVになる趨勢はもはや覆しようがないのである」とか「クルマの価格は1/5になる」とか「だから全てのリソースはEVだけに選択的に注入すべきだ」とかと主張している頭がアレな人たちに向けて、「そんでいつ安くなるのよ? 今年もあと4ヶ月しかないけど、その間に誰も内燃機関のクルマを買うヤツがいなくなる気配は全然感じないんだけどねってことです。

「短期間にムーアの法則みたいな極端な価格低下はあり得ないでしょ」という話は、この人のアレな理解では「池田さん曰く電池のコストは下がらない」なのかも知れないですが、日本語がちゃんと分かる人には「そんなことは言っていない」という以外の何者でもないのです。これは賭けても良いですが、バッテリーのコストが上がるか下がるかの丁半博打なのであれば100%下がりますよ。1%でも下がりゃいいんでしょ? アレな人達の言う下がり幅のレベルだとは全く思わないだけで。

さて、バカがバカである証明をいつまでも書いていてもわざわざ読んでくれる方に申し訳ないので、今日のトヨタの発表は何だったのかを説明します。

トヨタがほぼ確定的だとみている未来は「電動化は確実に来る」という所まで。トヨタの説明はいつも舌足らずなので、少し解説しますが、何故電動化なのかと言えば、それは「エネルギー回生ができるから」です。自動車の発明以来、無駄に棄てられてきた減速時のエネルギーを回生できる。それには電気が一番手っ取り早いから。

例えば物理領域でのエネルギー回生を目指すならはずみ車がありますし、あるいは減速時にエアポンプを回して、圧縮空気を作る方法もあります。しかしそれらの方法だと、それを動輪に戻す仕組みを全く新しく作らなきゃならないことになるわけです。そりゃ無駄だよねと。

幸いなことにモーターは機構そのものが発電機と同じなので、電気から力を作ることも力から電気を作ることもできます。電気と力の双方向変換器かつ、乱暴に言えば可変抵抗をつけてやれば入力と出力の制御も簡単なので、だったらそれが良いだろうという話なのです。

で、さっきのおバカさんへのご接待としてテスラをDisっといた方が良いと思うのでやっときましょうか(笑)。その大事な可変回生技術がテスラには大して無い。トヨタはブレーキペダルで回生を行っていますよ。テスラのアクセルワンペダル制御ってのは、技術的にヘボでブレーキ制御に回生の協調をさせられないからそうなっているだけの話です。

トヨタは、減速開始から、停止の直前まで回生を利かせてエネルギーを回収しています。もちろん回生だけでは無理なほどの減速Gが必要な場合はとっとと物理ブレーキも使います。もちろん両方使う協調領域もある。そういうことをトヨタは長い間やってきました。ボクらに「このクソなブレーキフィールを何とかしろ」と文句を付けられながら。

そうやって苦節20年とかで、こんくらいならまあ我慢して食えるというレベルまで直してきたわけです。運動体として読者にお勧めするかどうかは、作り手が頑張っているかどうかとは関係ないのです。だからトヨタのエンジニアの研究と努力には頭を垂れつつも、ダメなものはダメだと書いてきたのがTNGA世代登場までのハイブリッドの歴史であり、そういう積み上げた技術がトヨタにはありますよと。それはBEVにも大事な技術とちゃいますかと。

なので、浮気なマーケットが何を志向しても、あるいは昨今の環境左派の勢いが増しすぎてBEVには向かない大型貨物ですら内燃機関が使えなくなるようなことが起きるところまで想定して、そういう場合はFCEVが使えるように、トヨタはマルチソリューションを粛々とやっているわけです。

EV派の人達が言う「時代遅れのHEV」も「まだまだ可能性が低すぎて話にならないFCV」も、そして「やっていますといくら説明しても理解されないBEV」も全部マップに乗っているのです。まあわかんないでしょうけどね。あ、いけね。トヨタの発表の話をするんだった。

さて、電動化が必須だと思っているトヨタは、とにかく180GWhから、場合によっては200GWhのバッテリーを作る準備を始めましたよと発表しました。まあこれは裏側でずっとやってたけれど黙っていたことを、発表に載せただけの話ですけどね。

さて、そのバッテリーとは何か? こういうときダメな人はすぐ「どの方式に一本化するのか?」「全固体電池なのか?」って話になっちゃうわけですが、そうじゃないんです。バッテリーも色々あるので、色んなバッテリーを適材適所に作りますよと。これがバッテリーのマルチソリューションです。

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トヨタ曰く、大前提としてトヨタが大事にするのはまず「安心」であると。端的に言えば「燃えるんじゃ無いか」みたいに心配にならないものにするぞと。でも心配の種はそれだけじゃないよねと「高いかも」とか「劣化は大丈夫」とか色々あるわけで、そう考えると「安心」ってのは要素別に分けて行くと「安全」「長寿命」「高品質」「良品廉価」「高性能」で出来ていると。

これトヨタの資料を見ると、下段の2つは色が変えてあって、ボクが見ても少しフェイズが違うなぁとは思うのですが、トヨタの説明としてはこの5つのバランスだと。それがバッテリーに求める開発コンセプトだと言うわけですよ。

で、具体的に見て行くと、この5つの要素は、誰のどんなニーズに対しても普遍の1つのバランスじゃないよねぇと。「安全」は普遍的だとしても、例えばEVレース用のバッテリーにとっての価値は「高性能」と「長寿命」はイーブンじゃないわけで、勝てないレース車両に意味はないので、まず高性能でありながら、可能な範囲で長寿命ということになるでしょ。もっと現実的な話で言えば、Bセグクラスの安いクルマの場合、多少高性能は犠牲にしてでも良品廉価の方が大事。一般的に考えて500万円のBセグは成立しないだろうし。

だから、バッテリーも色んな方式がいるよねと。例えば「そんなに容量は要らないけれど、台数が多くて粗雑に扱いかねない顧客層に向けた安全性を大事にするHEVならニッケル水素のバイポーラ型」とか、「同じセグメントでも、もうちょい財布を開いてくれそうな、つまり航続距離のための投資が期待できるEVだと、比較的安価なリン酸鉄系リチウムイオン」だとか、「いやこれプレミアムなEVだから高性能優先って言うなら、三元系のリチウムイオン」だとか。

で、まあトヨタは三元系リチウムイオンに関しては、ニッケルとコバルトの使用量を減らして行きますよと。そりゃ希少な原材料で、価格高騰の原因になるから。だからこれは可能な限り減らしてバッテリーを開発して行きますと言っているわけです。

まあこれでバッテリーの価格はある程度は下がるんじゃないでしょうか。一番高い原材料の使用量が減るから。ただ、今までだって無駄に高い材料を入れてあるわけじゃありませんから、意味があったわけです。無策にニッケルとコバルトを減らすと燃えやすくなるので、そこには色んな対策をしましたよと。

実験

素材別と負荷別の発火テストの順列組み合わせをガンガンやって、しかもそのデータをAIに食わせてシミュレーションできるとこまで持って行きましたと。だから安全に減らせる目処が立ったんですとトヨタは言うのです。ついでに言えば、希少原料の使用量が減れば、生産量的にも有利で、この辺の目処がついたことで200GWhみたいなことが発表できたこともあるのかもしれません。

これで徹底的にケーススタディを重ねて、安全に障害が出ない範囲でニッケルとコバルトを削りますってのがトヨタの言い分です。

削減計算式

で、それ以外に、色んなものをやりますよと。資料には書いていませんでしたが、リン酸鉄リチウムイオンはやらないのかと聞いたら「研究から除外しておりません」みたいな回答でしたが、まあ要するにやっているわけです。あと資料に「絶対口は割らんからな」と言いたげに書いてあった「新電極材」ってのもあります。それとテスラがやってるみたいな搭載効率化もやると言っております。トヨタの用語のまま書き出せば「車両とマッチした電池セル、パックの一体構造」ってことで、要するにバッテリーの過剰包装を止めて、シャシーにダイレクトに積む方法を模索しますよってことです。

で、ここからが大事です。結局トヨタが今回の質疑応答で言い続けていたのは、バッテリーは大事だけれど、そこだけ見たら見えなくなりますよと。車両全体で見て下さいと。そういうことを言っていたわけです。

いや具体的には何なんだと言えば、例えば電費です。回生の効率を上げたり、車両の空力特性を良くしたり、メカ系のロスを無くしたりして、「車両の電費を30%改善したら、必要な電力が減りますよね? それって電池を30%削減出来るわけですから、30%安くなるのと同じですよね」ということです。

で、さっき書いた希少材料の削減など諸々でバッテリーコストそのものも30%下がるとしたら、7掛けの7掛けは49で、トータルで50%削減は見えてくるんですってのがトヨタの説明です。これが額面通りホントに50%削減になるかどうかは開けてみなければわかりませんが、まあこういう考え方であれば硬く見てもその半分の25%くらいは行くんじゃないでしょうかね。

トヨタは別に「同容量のバッテリーの値段を半値にする。」なんてことは言ってないのであります。それはちゃんと理解すれば違う話だとわかるはずなんですけどねぇ。

しかしこれほとんど原稿だよなぁ(笑)。まあこれを自分の制作メモだと思ってどこかにこの話は書きましょうかね。ITnedia ビジネスオンラインかなぁ。

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