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何かお薦めのクルマない?

世の中コロナで大騒ぎ。自動車業界も、ましてや自動車メディア業界もまあ無傷ではいられまいと思う。そんなわけで既存の媒体に記事を書いて、未来をあなた任せにするのもリスキーな時代。自分自身が媒体化して、直接読者と繋がることも考えるべきタイミングだと思う。

そんなことを漠然と考えて、筆者はこのnoteを本格稼働させ始めたわけだけれど、もちろん人によって得意も、向き不向きもある。こうやってテキストを書くにしたってジャンルはいっぱいあるし、Youtuberになるのも良し、読者を集めてサロンを開くのも良し。そういう中から、自分の未来を自分で選んで勝負するしかないだろう。何もしないと言う選択肢は多分ない。

そんな話を先日同業者としていて、「あなたなら何をやります?」と聞いたら「クルマの買い物相談をやりたい」という。実は筆者はあんまりそこに興味が無い。自分に対して皮肉めいた言い方をすれば、大所高所の話をしたいのが性根だ。だからその時はふーんと聞いていたのだけれど、それから間もなく、同級生の女性から「何かクルマ欲しくなってきちゃったんだけど、お薦めってあるかしら?」とSNSで尋ねられて、ああ、なるほどと思った。

というのも相手の人物像が分かると、普段書いていることとお薦めがだいぶ変わる。普段はハードウェアがどうなのか、社会性がどうなのか、エンジニアリングの志はどうなのかみたいな所を重視して書いているのだけれど、そういう面で評価しているクルマは彼女に薦めるクルマと同一ではなかったのだ。もちろん全く一致しないわけではないけれど。

いまさらそんなことに思い至ったのは面目ないが、その人に似合うクルマというのはやっぱりある。メディアの仕事をしていると相手の人となりが全く分からない。年齢も性別も家族構成も財力も全くわからない読者に向けて書いているので、極論を言うと「情報の半分は記事に書くけれど、残り半分はあなた自身が決めてね」ということになっていると思う。

だからカタログを読めばわかる様なことは余り書かない。自動車業界を巡る法律とか、経営背景とか、技術トレンドとかが、最終的にハンドルを握った時どうなのかという、自分にしか伝えられないだろうという話を書いているつもりだ。ついでに言えば好みの範疇のデザインも同じ、これが運動体としてのクルマのデザイン論であれば、また話が違う。いずれにしても書けるのはそこまでだ。

今回の相談者はよく知っている同級生だ。彼女はこどもを育て上げ、旦那を放り出して自由になった。いきさつは知らない。買い物用でも通勤用でもなく、たまに娘と旅行に出かけたりしたいのか、あるいは自分が行きたい時に行きたい所へ行く手段が欲しいと言う風に筆者はリクエストを受け取った。

筆者は友人として、彼女の今からの15年、あるいは20年かもしれないけれど、その未来が楽しく豊かなものであって欲しいと願う。同い年なので、よくわかるけれど、自分の体がハンデなしで動いて、大抵のことは出来る時間は無限にはない。多分15年か20年だろう。子育てに翻弄されてきたであろう彼女の過去二十数年の先に、どんなクルマがあるべきか? どうしたら楽しくなるのか。女性なので、運転して走る姿がカッコ良くあって欲しい。幸いにもそれができる素材である。

ということで選んでみた。並びは価格順。よくは知らないけれど、少なくとも彼女は貧乏には見えない。多分お金はある。けれど、乾坤一擲でクルマに大金を投じて贅沢なクルマを買うことが今の彼女にとって幸せかと言えば、多分そうじゃない。だから基本的にコストパフォーマンスは大事だ。ということで選んでみたのが下の図だ。

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ミラ・トコット

ミニマリズムで考えるならミラ・トコットは素晴らしい。スゴくちゃんと走って、かつその走りが楽しくもあり、何なら109万円から買える。クルマとして最低限ではなく、グレードを問わずちゃんとサムシングエルスが乗っている。最廉価版でも良いのだけれど、多分生まれて初めて軽自動車を検討するのだろうから、内装のトリムがあまり質素だと嫌かもしれないし、想像するにお肌に悪さをする紫外線だ何だをカットするガラスもあった方がいいのだと思う。だからこのグレード。もしかして、シンプルな内装が楽しかったりするなら安いのでも良い。大事なのは衝突安全系装備だけは付いたモデルを選んだ方が良い。

コペン

表の中に「乗って欲しい度」という項目があって、そこは筆者が乗っている姿を見てみたいという意味だ。英国人式に言えばコペンはラブリーだ。専用設計のスポーツカーならではの面白さがあって、値段も安く、そういうものとしては実用性がある方だ。オープンにして走れば気持ち良いし、メタルトップの屋根を閉めてしまえば、普通のクルマと変わらない。2座のスポーツカーなんて、普通の人は人生で通らないルートだ。その経験はきっと彼女を豊かにすると思う。本当に実用性が必要な時は、セダンでもワゴンでもカーシェアで借りられる今という時代だからこそこういう贅沢なものを楽しめると思う。

ヤリス

これはもうドが付く本命。というかこれは誰にでも薦められるという意味で、「彼女に」という事では無いかも知れない。ペダルのオフセットとクルーズコントロールが時速30キロ以下で効かないという問題点はあるけれど、多分世界一のコンパクトカーだと思う。ちなみに燃費はクレージーな40キロ/1Lが期待できる。連続した時代を突如飛び越えるモンスターだと思う。良すぎてむしろ書くことがない。

ノート e-POWER

日産からの唯一のエントリーはノート e-POWER 。色々と見所はあるし、アクセルを離すと軽くブレーキが掛かってくれる1ペダルドライブは確かに面白い。ただ事情通としては、今からお金を払うものとしてはいくらなんでもシャシーが古い。出来が悪くないから強く否定まではしないけれど、日産の経営がもっとまともだったら、今頃は新世代のシャシーが与えられていたであろうと思うと、お薦めというよりは、欲しければ反対しないくらいになってしまう。

インプレッサ・スポーツ

偏見かもしれないけれど、スバルのクルマは男のクルマの様な気がする。あるいはファミリー。安全安心で愉しくもあり、でも質実剛健。それは美点でもあるのだけれど、これから第二の人生を羽ばたこうとする女性に似合うかと言われるとちょっとイメージが違う。特に今回の様に「お薦めのクルマある?」な人に外野がお勧めするようなものではない気がしてならない。スバルのクルマは、本人が欲しくて買うものではないか。だから今敢えてとなるのだ。

フィット

筆者はホンダと日産には試乗会に呼ばれないので、乗っていない。いや別に何かをやらかしたわけでも無いし、対立しても避けてもいない。多分ある種の巡り合わせの問題だと思う。呼ばれれば行く。さて、フィットは同業者諸氏の評判がすこぶる良い。ホッとする癒やし系。デザイン的にも往年のホンダ感があって好きだ。ホンダのデザインは工業製品としてすこぶる明るいものが多かった。影の無さ。無印良品とも通じる様な無装飾でプレーンだけれど明るいもの。フィットはそういうイメージを再び取り戻した感じがある。多分気の置けない日々の相棒として良い選択肢になると思う。

XV

XVは質実剛健で真っ直ぐな良いクルマだと思う。道具としてちゃんとしていて信頼できる。ただお薦めの部分の話はインプレッサと同じ。スバルのクルマは黒子感がある。それは時に良いことなのだけれど、エンターテインメントの部分がどうしてもハンドリングとか駆動力とかパワーとかになりがちで、それ以外となるとアウトドア感になってしまう。どうしたもんだろうか?

ROADSTER

これはお薦め。というかこの種のクルマの楽しさを伝えるのは、筆者のライフワークのひとつだから。そしてとても似合うと思う。スポーツカーだからと言って目を三角にして走らなくて良いし、まあ彼女はそういうことをするとも思えない。だからATでゆるりと海岸でも流して欲しい。その昔志水辰夫の小説で、貨物船の船長が夕陽の時間になるとデッキに寝椅子を引っ張り出してワーグナーを聴くというのがあったけれど、逆光の海を眺めながらロードスターでワーグナーは良いかもしれない。こびりついた権威主義みたいなものをそういうシチュエーションなら感じないで済む気がする。

C-HR

C-HRは乗るとかなり良い。サイズもまあ手頃。ただしリヤシートは狭い。SUVなのにクーペスタイルなので、仕様だと言えば仕様。あとはデザインの好き付きがかなり強そう。手頃な価格のSUVクーペで、ハードウェアの出来が良く、クルーズコントロールがなかなかの出来で、燃費も素晴らしい。という辺りやっぱりトヨタは強い。かと言ってトヨタが無条件に強いかと言えばそうでもない。ハードウェアとしてお薦めできるトヨタ車は、カローラ系、カムリ、クラウンとあるけれど、どれもあまりにも彼女に似合わない。

MAZDA 3 FASTBACK

こういうスタイリッシュなクーペっぽいモデルに乗って欲しい気持ちが強い。これも男性に薦めるのなら1.5のエンジンをブイブイ回せというところだけれど、それはやっぱり似合わない。SKYACTIV-Xは良いのだけれど、あのエンジンを手に入れることにワクワクしない人には高すぎる。念のために書いておくとワクワクする人にとってはバーゲンプライスだと思う。で、太めのトルクで穏やかに走れる2.0。お肌系ガラスの違いでPROACTIVE Touring Selection。それと今マツダのAWDシステムは誰も知らない名店の様なことになっている。雪のある場所へ出掛けるならもちろんだけれど、普段の道でもかなり良い。FFからAWDに乗り換えてもわからないかも知れないけれど、AWDにしばらく乗った後、FFに乗ると結構愕然とする。

CX-30

一番の優等生。サイズも良くて、リヤシートも使える。そしてスタイルも適度な気張り感があって、女性にちゃんと似合う。ただこれを買うならディーゼルだと思うし、MAZDA 3 と同じ理由でAWDがお薦め。そうなると値段が飛び抜ける。CX-30とMAZDA 3 はオーディオも素晴らしい。オプションなんて要らない、素のヤツで十分。値段以外に文句の付け所がないのだけれど、第二の人生を飛躍する女性にとなると、優等生過ぎるきらいはある。何か型破りなところが欲しい。そういうものがあるクルマは「乗って欲しい度」で★を3つ付けている。そしてそういうクルマはたいてい「現実性」で点が低い。

さて、これで解説は終わりだ。書いてみたら意外に楽しかった。何かピンと来るクルマはありました?

あ、車名をクリックすると、各車のHPへ行かれる様にしておこう。ホントは1台ずつ写真を貼った方がいいのだけれど、広報写真のここでの利用は、実は著作権のグレーゾーン。このnoteが「報道だ」と言い張ればOKだし、まあ職業柄認められるだろうけれど、おそらく「池田さんだから」という話で、誰にでも無制限認めるわけには行かないという意味で、自動車メーカー各社はちょっと困惑するかも知れない。トップの写真は自分で撮ったヤツだから大丈夫。

何を買うか決まったら教えてください。




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