「Gigazinの記事を読んで」 からの大手メディアポルノ論

「古いiPhoneの性能を落としていた問題でAppleから約2700円の和解金を受け取ることが可能に」

を読んだ。ミスではなく意図的。もっと言えば自分の都合で顧客に不利益を押し付ける不当行為。一応、専門外のことなので飛ばし記事の可能性も警戒して「Batterygate+iPhone」で検索して、大量の英文記事がアップされていることは確認した。

本当は今日は、昨日の続きとして、自動車メーカーのコスト低減の話を書くつもりだったのだけれど、今日この記事を読んで、こいつを挟んだ方がよりわかりやすいのではないかと感じたのだ。なので「中編」に準ずる形でこれを挟ませてもらいたい。

さて、アップルの問題。なんと言うかねぇ。こういう不誠実なことは後々響くと思うんだよね。儲けるためにはユーザーに不利益を意図的に与える陰謀だって巡らす会社であることはこういう事件で容赦無く明るみに出てしまう。

オールドエコノミーに対して、いつもキラキラした新時代の成功者として扱われる側のアップルなのだけれど、実態としては好青年のように、爽やかで生真面目で誠実というわけではない。

そして逆に老害扱いされるような産業だって、いつもいつもくだらない権力闘争とか意固地なプライドとか硬直した思考だけでやっているわけじゃない。そこには瑞々しい未来への思いなんてのもちゃんとある。

そういう先入観と言うか、パブリックイメージみたいなものと、戦って行くのは、ボクの仕事のテーマのひとつだと思っている。

古い話だけれどそういうパブリックイメージベースでの事件って言うと裕木奈江を思い出す。彼女の場合は、本業である芝居が上手かったからこそ、不愉快な人物を演じきり、それが残念な頭の視聴者によって陰湿なバッシングにつながった。そして時代の空気として、いつの間にやら、何やら訳ありなアンタッチャブル的に見られてしまった。このケースでは本人に全く罪はないけれど、企業や組織の場合はそうでないところがややこしい。

例えば中韓。リアルな問題点とイメージの問題点を切り分けるのは難しいし、フェアであることやフラットであることよりも、ヘイトの感情に乗ってしまった方が、読者に寄り添える。でもそれも誠実ではない。読者の満足を得るために「中韓がいかに出鱈目で悪辣か」ばかりにフォーカスするのは、一種のポルノで、読者の欲望を拡大するツールに成り下がることだと思う。問題点は批判すべし、ただしそこで読者へのサービスとしての「盛った」表現は不誠実だ。フラットな位置に踏みとどまりつつ伝えることが極めて重要だと思う。それは批判を封じることとは全然違う。

そういうサービスのためのポルノはたくさんある。ボクがずっと戦っているもので言えば、EVは多分にポルノだし、自動運転もそう。冒頭に書いたようなホワイトナイト的企業もポルノで、強欲で旧弊なオールド企業もポルノ。

詰まるところ何のために記事を書くのかという話だと思う。たくさんクリックされて、評価を受けるためにポルノを書く。まああれだ、「アイドルの誰それが始球式でノーバン」みたいなのと、「EVに出遅れた日本のメーカーは滅びる」みたいなのはほぼ一緒だ。

もうクリックさえしてもらえれば何でも良いか、もしくは本当に取材する力か判断する力が無くて、宗教的に盲信してしまうかのどちらかだと思う。2021年にはバッテリー価格が革命的に安くなり、ICEを搭載したクルマを買う合理性が失われるのだなんて与太記事を根拠に21年で内燃機関は終わるなどと書いている人は、22年にはどの面で記事を書くのだろうか? まあ大体わかっている。「あれは海外の何とか教授が提唱した説を紹介しただけだ」と言い出すのだ。でもその記事を根拠に、まともな記事に対して「石油産業の提灯持ち」みたいに揶揄しているのは書いた本人でしかないのだけれど。

さて、そういう文脈で自動車メーカーは大手マスコミにいつも足を引っ張られている。5月に発表されたトヨタの決算が特に良い例だ。19年度の決算発表ではコロナの影響を測りかねて、次期の見通しを出さない会社がほとんどだった。それはそうだ。どの会社でも、記者会見などでは、「コロナの影響をどの程度にみていますか?」とか「回復のタイミングはいつ頃でしょう?」みたいな質問が飛び交ったが、そんなものわかるはずがない。屏風の虎を捕まえよと命じられた一休さんのようなものだ。「それではまずコロナの治療薬が十分普及する時期を教えてください」とでも答える他あるまい。

そういう中で、トヨタは何故、2020年度の見通しを発表したのか。他社同様わからないと言っても全く批判を受けるタイミングではなかった。決算後のスピーチでここを明らかにしたのは豊田章男社長と小林耕二執行役員だった。

トヨタはリーマンショック以来、原価低減の努力を積み重ねて来たことによって、リーマン以上の打撃と言えるこのコロナの中にあって、前回と違い赤字に沈むことなく5000億円の黒字を確保できる目算がある。外乱に強い体質へと長年にわたり歯を食いしばって必死に改革をしてきたことが、この緊急事態を黒字で乗り切る予測につながっている。TNGAももっといいクルマもみんなこのためだと言える。

「トヨタだけがひとり勝ちですか」という皮肉も聞くが、ではひとりも勝たない日本が理想だと言うのか。トヨタは苦境を乗り越えて勝ち、それによって日本経済復興を牽引する。サプライヤーも心配するな。そういう大袈裟に言えば日本国民に向けた激励であり、希望としてのメッセージをふたりは丁寧に説明した。実はこの記者会見。数名の自動車ジャーナリストと一緒にリモートで会話しながら見たのだが、全員が感動していた。トヨタすごい。良いものを見せてもらった。口々にそういう意見がこぼれた。しかし、大手メディアはその志にはまったく、いやカケラもついて行かれなかった。

踊った見出しは「トヨタ●●パーセントの大幅ダウン予測」、「自動車産業存亡の危機へ」(本当のタイトルは差し障りがあるので意訳)のような、日本終末ポルノであった。上品な言葉では表現できないものもある。クソだと思う。滅びよ。


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