スクリーンショット_2019-01-23_18

マーケが「ペルソナ」作りっぱなしにする話

どういう理由かわからないが、マーケティングにおける「ペルソナ」という用語はとても浸透している。

マーケティング部門はもちろん、経営企画や広告部門、様々な事業部に属するホワイトカラーの間でも普通に認知されており、「ターゲット」とほぼ同義の使われ方をしているんじゃないかと思う。

新規事業開発においても「まずはペルソナを決めましょう」とか「そのビジネスのペルソナは誰ですか?」というやり取りをよく耳にする。

ところが、この文脈で出てくる「ペルソナ」様はたいてい役に立たない。

ペルソナって何

ペルソナは元々 心理学用語 だったらしい。

いつからマーケティングの分野で活用されはじめたのか、実はよくわかっていない。私が記憶している一番古い事例は、確か2008年頃、ウォルマートで売場づくりを行う際に、店舗設計やプラノグラム (plan on diagram、グルーピング・ゾーニング・フェイシングのよなプロセスを経て店舗の棚割りを決める工程) 、接客やレジ打ちといった実務を担当する社員間で、想定している顧客像がバラバラだったのを統一的に扱うために作り上げられた人物像だったと思う。うろ覚えだが、キャサリンとかなんとかという名前がついていた気がする。間違ってたらごめんなさい。

マーチャンダイジングやR&Dでの活用

その後ペルソナという言葉は日本に輸入され、商品開発などの分野で応用されていた。

「この化粧品を使うユーザーはこういう感じ」

「だったら外箱はこういう感じじゃね」

「売り場はこうだよね」

マーチャンダイジングの現場におけるペルソナは、ペルソナ仮説 (サービス提供側が考える "多分こうだよね" という仮説) に基づいたインタビューや、エスノ調査から裏付けられ設定される。

エスノ (ぐらふぃ) 調査については、ぐぐったらこのような説明があったので参考に掲載しておきます。

画像1

出典 : 行動観察/エスノグラフィー | マーケティングリサーチ・市場調査ならレアソン

※ 専門家のみなさんから見ると上記の説明もなんだかな、と思うかもしれませんが雰囲気ですので勘弁してください。

Biz-Dev屋のは「ペルソナ」ではなく「ペルソナ仮説」

先程、"新規事業開発で出てくるペルソナは役に立たない" と書いたが、それはだいたいが "ペルソナ" ではなく、作りっぱなしの "ペルソナ仮説" だからだ。検証されていないペルソナ仮説を基にビジネスを行ってうまくいくはずがない。

さらに最悪なのは、そういった仮説でしかないものを、あたかもファクトのように扱って「ペルソナがこうだからマーケティングはこう」とか「ペルソナに併せてUIはこう」のような実投資が行われるプロジェクトだ。恐ろしい話だが、これは実際にある。そして当然結果がでないわけだが、担当者は「おかしいな」となってしまう。

「ペルソナを作成することで効率的な、刺さるマーケティングができます」と教えられているから無邪気にそう信じているのだが、「なぜなのか」についてだれも真面目に考えたり、疑ったりしない。

「理屈のよくわからないもの」に頼る弊害

メソッドの誤用による弊害は、同じく流行っている「カスタマージャーニー」でも見られる。

分析や仮説を信じることで、新規事業につきまとう「正しいものがわからない不安」が麻薬的に和らぐが、そのツケは実損として上がってくるだけではなく "内面化された誤謬" という取り返しのつかない事態を招く。

ウォルマートの例でも、MDの例でも、ペルソナは「実在する顧客」から重要な特徴を抽出し、検証を経て定義される。一方、事業開発やWEBマーケティングの世界で出てくる「ペルソナ」は「想定ターゲット」と同様ただの仮説に過ぎない。

ペルソナが悪いんじゃなくて大事なのは使い方

企画の段階でターゲットのイメージを広げ、顧客接点の上流下流やシナリオやデザインの仮説を作る際に、ペルソナ仮説のような具体的でビジュアライズされたイメージがあることは作業効率に関して言えばプラスだろう、とは思う。

新規事業開発の担当者に強くおすすめしたいのは、企画フェーズが終わり、実行フェーズに入ったらすぐに「ペルソナ仮説の検証」を行うことだ。企画段階でペルソナ仮説を持っているチームは非常に多いが、仮説の検証を行っているチームは非常に少ないように感じる。

企画段階で「このサービスのペルソナは都市部に住んでいる」「35歳である」といったデモグラフィックな属性が定義されていたら、広告・マーケティング実行時はそれより広い範囲 (当然メリハリを付けるのはよい) に配信し、仮説を検証するといい。

ペルソナ仮説は検証されることで確からしさを増す

「都市部と過程したが、その他の属性を揃えると郊外と反応率が大きく変わらない」「35歳と仮定したが、40代の方が反応がよい」といった想定外の結果が出た場合、ペルソナを破棄してデータを基づいたチューニングに移行するか、ペルソナ仮説の再定義を行う必要がある。一般に、ペルソナは1つ、多くても3つ程度に集約するため、全体の整合性が揃ってはじめて意味がある。この例では、年齢が異なってしまえばライフスタイルや嗜好性、年収といった、ペルソナに設定されているその他の意味が価値を失ってしまう。

多少なりとも顧客がついてきたのであれば、顧客がいなかった頃のペルソナ仮説は破棄して顧客にインタビューやアンケートを行い、新規で再定義してもよい。インタビューの結果、サービスがニーズのロングテールを拾っている場合 (かつインターネットビジネスの場合)、ペルソナやカスタマージャーニーといった集約型の仮説立案・検証プロセスは相性が悪いのかもしれない。

今回は「ペルソナ」という単語を取り上げたが、"検証されない仮説は、仮説ですらない"、"思い込みにとらわれない" といったリーンスタートアップの原則に基づいて曇りなき眼でデータに向き合い、正しく打ち手を決めていただければと思う。

photo by Katie Inglis

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?