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「やりきる文化」と「やりきらせてもらえない問題」

以前勤めていた会社では「やりきること」は美徳として奨励されていた。多くの会社でもそうなのではないかと思う。

会社のスタンスや成功パターンを行動規範やスローガンとして集約し、周知浸透させることは組織を率いる上で効果的かと思う。

一方で、事業の撤退やピボットなどにより、「やりきらせてもらえない」、「やりきるつもりだったが失敗した」という話もよく聞いた。会社が奨励しているスタンスと、実態に乖離があるというのだ。

私もそんな同僚をみるにつけ、当時からなんとなくモヤモヤしていたが、3C分析におけるバリュープロポジションになぞらえることでわかりやすくなるのではないかと思い書いてみた。

「やりきる」とは

要するに "困難な状況にあっても投げ出さず、責任を持って最後までやり遂げる" という意味でよいかと思う。根性論の現代的な言い回しと捉えてたぶん問題ない。

ポイントは「投げ出したい気持ちの克服」。

3Cとバリュープロポジション

こういうやつ。

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外部環境における市場と競合からKSFを見つけ出し、自社の戦略に活かす分析をするフレームワーク。3Cとは、「市場(customer)」「競合(competitor)」「自社(company)」の頭文字。

バリュープロポジションは、上図の通り「顧客が望んでおり、競合には提供できないが、自分たちであれば提供できる価値」。シンプルですね。

続いて本題である、報われない "やりきる" の例と、気をつけるべきポイントを考えてみたい。

できないことをやっている

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できないことをやろうとしている時はつらいですし、結果もついて来ないので可能なら避けたいものです。

難しいのは新規事業のように継続的な努力の中で勝ち筋を見出し、突破することが前提の場合など「頑張りが足りないからできないのか、それとも頑張っても無理なのか」の判別がつきづらい点。

例えば、"ドラえもん" を求める顧客は多いですが、それを提供するためには未知の科学技術が必要です。

顧客が求めていることは間違いないが、自分たちは価値を提供できるだろうか。

そう不安になった時、「やりきる」べきか。それともピボットするべきか。

20代の起業家、杉生 遊 の著書にこんな一節がある。創業当時のプランから早々にピボットせざるを得なかった際のリアルなエピソードだ。

いい反応を得られたお店もありますが、なかなか契約に結びつかない。当然、その間は僕も木村も無給です。

打開策はないかと考えあぐねていたところ、僕たちは実業家の佐藤俊介さんに相談しに行きました。佐藤さんは、現在トランスコスモス株式会社の取締役CMO、他にも様々な会社の経営を手がけている、本当にすごい実業家の方です。

佐藤さんにもらったアドバイスは、「今やってる事業から撤退しなさい」というものでした。

そのとき、僕たちは「自分たちにできることは何か」ということを改めて考えることができました。若くて経験の少ない僕たちができることは限られているのはわかりきっていたことでした。それなのに、「短い会社員時代に身に付けてきたスキルやノウハウを活かせない、まったく新しい事業をやろうとすることがナンセンスだ」と指摘されて、本当にそのとおりだなと納得しました。

最初の事業から撤退した僕たちは、再スタートを切ることになりました。

(中略) 受注数もどんどん伸びていきました。

杉生 遊 著 『デキるやつは起業しろ』

相対的に難易度の高い領域や、参入障壁の高い領域を攻めている際、当事者は増大し続ける サンクコスト (埋没費用) によって、厳しさを増す環境とは反対に、撤退の意思決定が心理的に難しくなってきます。かと言って無関係な他人は「はなから無理だったんだよ」と冷たいことを言うだろう。

そのため、撤退要否を判断する上でステークホルダーの客観的意見が重要だ。アドバイスが常に正しいとは限らないが、少なくとも利害を共有している以上無責任なことは言わず、また当事者よりは広い視野でアドバイスできるだろう。

客観的かつ俯瞰的な視野を持ったアドバイザーを、いつでも相談できる状態にしておくことは大切だ。

だれも求めていないことをやっている

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「こんなサービスがあったらよかろう」と思って開発したが、市場に必要とされなかった、というケース。

この場合、「やりきる」べきか。ピボットするべきか。

問題となるのは、そのサービスまたは製品を必要とする人に「まだ出会えていないのか」、それともそのような人が「存在しないのか」、最後に「出会っているが刺さっていない」のかの判断である。

一人目の顧客を探す暗中模索の旅は、とても不安で大変なものだ。ただでさえ「新しいものに飛びつく変わり者」は市場の16%程度しかいないと言われている

まずは「顧客発見」、ついで「ソリューションのアジャスト」というステップになる。ソリューションを顧客ニーズにフィットさせる際には初期仮説の大幅な変更を含む可能性を頭に入れておくべきだろう。

リーンスタートアップで有名なエリック・リースは、初期プロダクト仮説の変更に直面したときの心境を以下のように綴っている。

我々の状況に同情を感じ、私がかたくなだったのも仕方ないと思っていただけるだろうか。なにせ捨てなければならなかったのは、数ヶ月もかけて私がした仕事だったのだ。私は死ぬほど働いた。それが当初戦略の要だったからだ。当初戦略を捨てて方向転換するとは、私がした仕事 ---数千行にもわたるコード--- のほとんどを捨てることを意味する。

言い換えると、我々の努力のうち価値を生み出しているのはどの部分で無駄なのはどの部分なのかということだ。

エリック・リース著 『リーンスタートアップ』より

上記でいう「価値を生み出している部分」を発見し、特価・洗練させる工程が「ソリューションのアジャスト」になる。

「顧客発見」も、「ソリューションのアジャスト」も、通常は時間制限があることを常に念頭に置くべきです。売上を生み出すまで、人件費をはじめとするコストにより刻一刻と予算は減っていく。

タイムアウトになる前にバリュープロポジションを発見できるのか。改善スピードと効率が勝負の鍵だ。

終わりに

冒頭に述べた「以前勤めていた会社」というのはGREEである。

私は新規事業系の部署だったし、新規事業系の社内企画コンペに参加したりしていたので新しいことにチャレンジしている仲間は多かった。

事業の撤退やピボットなどによってあがる「やりきらせてもらえない」、「やりきるつもりだったが失敗した」という話は、もっぱら会社に対する不満の声だ。

でも、ここまで見てきたように「やりきる」文化は姿勢として奨励されつつも、「正しいやり方で、期限内に」という条件が暗黙的に課せられてる点にはしっかりと心に留めておきたい。

チャレンジするスタートアップやイントレプレナーはこの予算が減り続けるタイムアタックを常に意識しなければならないし、「やりきれ」を社員に奨励する企業側は撤退基準や中間のマイルストーンなど、ゲームの条件を予めチャレンジャーに明示し、納得感を持って送り出すべきだと思う。

撤退は学びでもあるので、撤退するのであれば学びの効率が最大かつ損失が最小になるタイミングをきちんと判断することで得られるリターンもある。

GREEでは新規事業に際して「やり切る文化」と「撤退基準」は両立していた (浸透してたかはわからない)。

人は、ひとつの事業に必死で打ち込んでいると、自分と事業を重ね合わせてしまう。フロー状態というのだろうか。この時、モチベーションは内側から溢れ出し、ストレス耐性も付き、仕事そのものが楽しくてしかたない状況になる。

この様な状況でのピボットや撤退は、自分の身を切られるような想いだろう。

当然すべての挑戦がうまくいくわけではないが、全力を賭けて取り組む仕事は必ずメンバーの成長をもたらす。その糧を育て、活かすことで挑戦を通じたサステナブルな企業成長がもたらされるのだと思う。「やり切る文化」が燃え尽き症候群を増やすことなく、ひとつでも多くの有意義な挑戦を増やせればと願ってやまない。

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