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図書館訪問録No.4 南相馬市立中央図書館 2020年3月8日

何この図書館神

2020年3月8日現在、福島県で一番好きな図書館かもしれない。

本棚の間にある「座り読み」スペース、テラス席、広い畳スペース、自習スペース、free wi-fi完備。

震災関連スペースを常設、心理的にアクセスしやすいオープンな郷土資料スペース。「使ってもらいたい」という意識がひしひしと伝わってくる。
他にも、車関連の資料の近くには車の模型やクラシックカーの写真が飾れれるなど、コーディネーターの「愛」を感じる。本や学ぶことが大好きな人たちが考えてこの図書館を作っているのだろう。めちゃめちゃ好感もてる。大好き。

館内の雰囲気は暖色系の電球と、マホガニーとかメープルっぽい色合いの木、緑を基調とした備品で統一された設え。主張しないヒーリング系のBGMと相まって、集中力UP&リラックス効果がある気がする。なぜこの施設を地元の住民、学生があまり利用しないのか、理解に苦しむ。


『野馬追の少年、震災をこえて』

恒例のご当地調べもののテーマは「相馬野馬追と震災」。
とりあえず読み物として井上こみち著『野馬追の少年、震災をこえて』PHP、2015年を読んだ。

相馬野馬追は、甲冑を着た「相馬武士」たちが競馬や神旗奪戦を繰り広げたり、馬を素手でつかまえ神馬として奉納したりする、南相馬市に古くから伝わる夏の祭事だ。
平将門の軍団が野生の馬を敵兵に見立てて訓練をしていたことが起源とされる。

今回読んだ本は、その相馬野馬追に代々「出陣」する西家の少年、西駿斗くんに焦点を当てたノンフィクション。平易な文章、かな送りで文字も大きいので、小学生高学年以上なら読めると思う。でも大人が読んでもかなり楽しめる。ぼく自身ちょっと涙腺を刺激されたところもあった。

震災があっても野馬追の開催をあきらめない南相馬のひとたち、それを支援する岩手県金ヶ崎町のひとたち。相馬武士として地域を盛り上げる男たちと、それを全力でサポートする女たち。老年、壮年、青年、少年。かかわるすべての人の心が一つになって、震災にも負けず野馬追を作り上げていく物語に心打たれた。一つになれるからこそこの伝統行事が続いていくのだと思うし、同時に伝統行事が世界を少し巻き込みながら地域を一つにしていく。ありきたりだけど、「伝統アレルギー」、「地域のつながりアレルギー」のぼくですら、自分の中の熱い何かが刺激されたような気がする。

全体としても、
・地域の団結の物語
・地域間の「絆」の物語
・被災した動物たちの死と生の物語
・復興への希望の物語
・駿斗くんの成長の物語

など、いろいろな読み方ができる。良いノンフィクションの代表のような作品だと思う。


『フクシマ発 イノシシ5万頭、廃炉は遠く……人びとはいかに這いあがるか』

もう一冊。現代書館2015年、『フクシマ発 イノシシ5万頭、廃炉は遠く……人びとはいかに這いあがるか』。著者はオムニバス。

南相馬にある小高は、東北開拓の立役者の一人ともいわれる半谷清寿が活躍した地。

「東北の盛衰は、東北の問題であるというよりも、むしろ国家の重要問題である。西南に対して東北があまりに遅れているために、東京・大阪のような大都市も、対外貿易に専心することができずに、せいぜい、その違いすぎている南北の国内商業を中継するにとどまっている。もし、東北にも西南程度の商工業が興り、西南と東北とが対等という時代になるならば、日本はこぞって対外貿易に従事し、国益を富ますことができよう。だから、東北問題は、国家が正面切っって取り組まなければならない重要問題である」

東北の発展が日本の発展につながるのと同様に、停滞する日本経済の復活も、東北の真の復興の先にあるのではないか。

旅先の図書館で出会った本から偶然受ける学びと、祈り。図書館巡りの醍醐味。


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