見出し画像

#10 ニュージーランド蹴破り日記その1-9

 オアマルに二日滞在したのち、海沿いに南下し、「ダニーデン」に来た。
 この町はまた一段と、急な坂が多い。町全体が、山の斜面に作られているようだ。またダニーデンは、ゴールドラッシュで栄えた古い大都市らしい。車の往来が激しい。石造りや赤レンガ造りの立派な建物が、ぎっしり並んでいる。特に教会や学校が多い。
 中でも、坂の上にある男子校が素敵だ。黒い石を基調に、白い石でラインが引かれた建物で、知的な領主の小城のようだ。門も塀も、普通の高校のものに見えない。一歩足を踏み入れれば、市街地と違う空気を感じられそうだ。なんだこの高校は。絶対寮とかあるじゃないか。楽しそう! 私もこんな男子校に通ってみたかったかもしれない。
 オタゴ大学の周辺は、妙に日本食料理店が多い。アジアンスーパーでは学割をしているようだ。そのスーパーに入って驚いた。なんと、私が日本から七本持ってきた「歴七十年以上の歯ブラシ職人『田辺重吉さん』の作る歯ブラシをもとに開発した歯ブラシ」が売られていたのだ。日本では、奈良、京都、大阪の店舗を中心に販売されているはずだ。私は先日、京都の友人のゆかさんから贈られて初めてこの歯ブラシを知った。まさかこんな場所でお目にかかれるとは思わなかった。
 持ってきた七本を使い切ってしまっても、この歯ブラシは買える。しかし簡単に買えるだろうと思っていたリンスインシャンプーが見当たらない。どこかにリンスインシャンプー売っていませんか。

 ダニーデンの二日目はよく晴れていた。「オタゴ半島」を巡った後、「トンネルビーチ」に行った。
 オタゴ半島の山の上から見渡すと、島は、上にも横にもポコポコと出っ張っていた。大小様々な緑色のポコポコを見ていると、気持ちも丸くなるようだ。
 その合間から空と海が見えた。海は、昨日までに色々なところで見たのより、青が濃かった。深い青に、日の光が反射していた。
 ロイヤル・アルバトロスを見たかったが、繁殖期で見えづらいそうなので今度に回すことにした。ロイヤル・アルバトロスセンターの周辺には、アカハシギンカモメが大量にいた。あたりは糞だらけだった。糞の匂いが漂っていた。糞をかけられている車もあった。とても景色の良いところだったけど、落ち着いていられずに退散した。
 トンネルビーチでは、急斜面を歩いて下ると、入り組んだ海岸に出た。
 正面にイタリアみたいな形の崖が突き出していて、左右には何度もフォークを入れられたケーキのような形の崖が続いていた。色は白っぽくて、フラットホワイトの表面みたいだ。
 入り組んだ崖には、大きな波が打ち寄せていた。付近の水面は真っ白で、時に崖よりも高いしぶきが上がった。轟音が響いていた。「波が砕ける」とはよく言ったものだ。大きな波が、崖に、水面に、砕け散っていた。
 急斜面を上る帰り道は、息が上がった。坂道から眺める海が、とても広く見えた。
「海、広いなあ!」
 と三回くらい言った。

 ダニーデンの宿で、日本人の「あらぴー」と会った。日本人と話すのは二回目だ。
 あらぴーは東京生まれで、大学時代に世界一周をして、卒業して五年働いて、辞めて、去年からオーストラリアを巡って、インドに行って、デング熱になって一時帰国して、今ニュージーランドへ来たらしい。今年で二十八歳だそうだ。私の一つ年上だ。
 オーストラリアで見舞われた一番大きなトラブルは、
「電波も入らず、ほとんど車通りのない場所で、ガソリンが無くなったこと」
 だそうだ。ヒッチハイクでガソリンスタンドに行き、大きな水の容器を買って、中身を捨て、ガソリンを入れ、ヒッチハイクで車の元へ戻ったらしい。
 あらぴーのリサーチによれば、人は五年くらいふらふらすれば働きたくなるそうだ。
 五年か。けっこう長いな。

いいなと思ったら応援しよう!