コヤマナオ 「ニュージーランド蹴破り日記」

2023年9月から2024年9月までニュージーランドでワーキングホリデーをしていました。都立国立高校、京都大学文学部、某食品小売会社出身です。

コヤマナオ 「ニュージーランド蹴破り日記」

2023年9月から2024年9月までニュージーランドでワーキングホリデーをしていました。都立国立高校、京都大学文学部、某食品小売会社出身です。

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#1 ニュージーランド蹴破り日記 はじめに

 これは、私がニュージーランドで見たものを、そのまま文章にしたものだ。  ニュージーランドで過ごす一年の間、「今ここにあるものをもっとよく見るように」努めた。  よく見ることは、けっこう大変なことだ。根気と集中力がいる。時間がいる。ここに費やさなければ、私はこの一年の間に英語がペラペラになり、財布も大層潤ったことだろう。それらは今なおペラッペラのスカスカである。  それでも毎日、努めてよく見た。それがほとんど唯一の、やらねばならないことだった。  これを読んで、私が見

    • #57 ニュージーランド蹴破り日記その4-10

       コウダイと語学学校で一緒だった、台湾人のウェイと、日本人のモモとユリが来た。みんなでバーベキューをした。  ウェイは、他人の優しい心を掻き立てる、天賦の才を持つような人だった。いつまでも自分の車を買わず、仲間の車で旅をするのも、しっくりきた。  モモは、これまで会った覚えがないほど、野性味のある人だった。同い年のようだが、正直そんな感じがしなかった。  ユリはマイペースで、焼き肉のたれを作るのが上手だった。チーバくんの首元あたりの出身だそうだが、「東京」と書かれたシャツを着

      • #56 ニュージーランド蹴破り日記その4-9

         その休日、私はワナカに向かっていた。初めての遠征である。  これまで、面白いくらいに、 「連休を使って遠出をしよう」  という気にならなかった。今も、別にそういう気持ちになったわけではない。  ではなぜ行くのか。第一の目的は買い物である。そろそろ、宿泊用の荷物が入る大きさのバックパックを買わねばならない。できればテントも買ってしまいたい。  そしてせっかくワナカへ行くので、二日目は山に行くことにした。できれば「マツキツキ・バレー」に行きたい。そして「氷河と岩の迫力に目を見張

        • #55 ニュージーランド蹴破り日記その4-8

           昨晩からの強い雨は、朝にはほとんど収まった。しかし強い風は収まらない。そして山に行きたい気持ちも収まらない。今日は休日だし、明日も休日なのに雨予報だ。セバストポール・ピークへ行くことにした。明るい日中に行って、ルートを確立したいと思っていたのだ。  行きはなかなかスムーズだった。ルートのイメージもつかめた気がした。帰りのほうが難しかった。 「こんなところは知らないぞ」  と思って引き返し、 「ああ、こっちこっち」  と道に戻ることを、二、三回した。しかし、おそらく行きと同じ

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        #1 ニュージーランド蹴破り日記 はじめに

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        • ニュージーランド蹴破り日記その4
          10本
        • ニュージーランド蹴破り日記その3
          19本
        • ニュージーランド蹴破り日記その2
          14本
        • ニュージーランド蹴破り日記その1
          13本

        記事

          #54 ニュージーランド蹴破り日記その4-7

           ここ数日、肌寒い日が続いている。特に昨日は寒かった。ミューラー・ハットやセフトン・ビヴァークでは、雪が降ったそうだ。  それだけならそれほど驚かない。しかし今朝外に出たら、道のわきに連なる山や、家の裏山の上方に、粉をまぶしたような雪化粧が施されていた。ニュージーランドは、夏である。  冬でない季節に降る雪は、嬉しいものだ。自分が寒さに凍えなければ、なおさらだ。  マウント・クックの風景は、紅葉したり、季節によって色を替えたり、あまりしないそうだ。しかし私は、秋が来るのを楽し

          #54 ニュージーランド蹴破り日記その4-7

          #53 ニュージーランド蹴破り日記その4-6

           その日は、二日前から続く雨が、昼頃になっても降っていた。休日の私は朝から大量のごはんを炊き、大きなおにぎりを作っていた。  今日はセフトン・ビヴァークに行くのだ。雨は昼過ぎに止み、強風は夜には収まり、深夜から明日にかけては晴天の予報だった。  十六時頃、ルート序盤のフッカー・バレー・トラックを歩き始めた。風はやや強いが、それほど厳しいわけではない。雨が上がって数時間後のマウント・クックは、上方が大きな雲に覆われていた。  荷物は、先週ミューラー・ハットへ行った時とほぼ同じだ

          #53 ニュージーランド蹴破り日記その4-6

          #52 ニュージーランド蹴破り日記その4-5

           以前ここで働いていた、チェコ人の「ニコラ」が来た。背が高くてとてもきれいな、明るい女性だった。  これまでにニュージーランドでいくつかの仕事をした彼女は、こう言った。 「ここは、ニュージーランドで最も良い職場だ。」  ニコラも、みんなも、行きたい場所がたくさんあるようだ。そしてそのために、もっとお金が必要だと感じているようだ。  またニコラは、自国の家族や知人から、「時間を無駄にしている」と思われている、と感じているそうだ。しかし彼女にとって、今の時間にはとても価値があって

          #52 ニュージーランド蹴破り日記その4-5

          #51 ニュージーランド蹴破り日記その4-4

           今日の仕事は七時半前に、朝点検の当番から始まった。日中は初めて一人で洗濯係をした。私の段取りは、ほぼ完ぺきだった。シーツを畳むのがあまり上手でないのは見逃してもらいたいところだ。仕事終わり、けっこう高難度な車庫入れも、一発で決めた。きっと一日を通して、集中の度合いが高かったのだ。  なぜか。この後ミューラー・ハットへ行くからだ。テントと寝袋を持って。  家に帰って腹ごしらえをして、シャワーを浴びて歯磨きをして、大きなおにぎりを六個と水とビールをカバンに詰めて、家を出た。  

          #51 ニュージーランド蹴破り日記その4-4

          #50 ニュージーランド蹴破り日記その4-3

           赤レンジャーの右のウインカーの修理に行った。しかし赤レンジャーは完治しなかった。新しい部品の手配が必要だそうだ。完治は次回に持ち越しだ。  ただ、部品調整と洗浄により、打率が上がった。しかしその作業に百十ドルも支払った。歯医者さんと同じだ。何度も行く上に、何度も行くほどお金がかかるのだ。次回はちゃんと治ってほしい。がんばれ赤レンジャー。  夕方、家の裏山で夕焼けを眺めた。ここからはマウント・クックからプカキ湖までが一望できる。一番上まで登ったことはないけれど、景色も空も本当

          #50 ニュージーランド蹴破り日記その4-3

          #49 ニュージーランド蹴破り日記その4-2

           今日の目的地は「セフトン・ビヴァーク」だ。マウント・セフトンの頂上を仰ぐ、山の中腹の山小屋だ。  ボール・ハットへ行く道に迷って帰ってきたとき、 「それじゃセフトン・ビヴァークには行けないぞ」  とブレットから言われた。コウダイですら、初回は一時、道を外れたそうだ。前にビジターセンターで、 「セフトン・ビヴァークへのルートについて教えてください」   と頼んだら、丁寧に対応してくれた女性は、 「あなたが行くの!? 大丈夫なの!?」  という心の声を隠せていなかった。  つま

          #49 ニュージーランド蹴破り日記その4-2

          #48 ニュージーランド蹴破り日記その4-1

           一月二日、元旦の仕事終わりにミューラー・ハットへ行ったコウダイが帰ってきた。中からマウント・クックもマウント・セフトンも見える位置にテントを立てて、寝て、起きて、朝焼けを見て、昼過ぎまで過ごしてきたようだ。写真の中のテントは、様々な山小屋に似た、赤っぽいオレンジ色をしていた。小さな、自分専用の山小屋のようだった。  コウダイは、自分が使わない時ならなんでも貸してくれるそうだ。テントがあれば、ミューラー・ハットの予約が取れなくても、行きたいときにいつでも行ける。とりあえず寝袋

          #48 ニュージーランド蹴破り日記その4-1

          #47 ニュージーランド蹴破り日記その3-19

           早いもので、大晦日である。  天気は不安定だったが、ありがたいことに休みをもらえたので、山へ行こうとした。すると赤レンジャーが動かない。「バッテリーが上がる」という事態に、初めて遭遇した。バックドアが閉まっていなかったようだ。ありがたいことにブレットがなんでもできるので、赤レンジャーは復活した。タスマン湖まで行ってみた。霧と小雨の中で、景色は一層荒涼として美しかった。しかし霧と小雨の中なので五分と滞在しなかった。  帰ってから、みんなが仕事へ出かけてしまった家の掃除をした。

          #47 ニュージーランド蹴破り日記その3-19

          #46 ニュージーランド蹴破り日記その3-18

           その晩は満月だった。コウダイはシーリー・ターンズへ行った。私はフッカー・バレ―・トラックへ行った。  月の出から一時間ほど経った、十一時前に家を出た。道中でも東側の山の上に、丸く、大きく、黄色い月が、時折顔を覗かせた。  月はとても明るかった。月の周りの雲は黄色く、空一面の雲は白く光っていた。 「あかるい!」  と叫んでしまった。その晩、同じことを二十回以上繰り返した。  コースのスタート地点で空を見上げると、星がちらちら光っていた。そして細かい雲が、白く、明るく、ふわりふ

          #46 ニュージーランド蹴破り日記その3-18

          #45 ニュージーランド蹴破り日記その3-17

           今日の仕事は十三時に終わった。しかも最後の二十分ほどは、みんなでビールを飲んでいた。  そのために、ブレットとエミリーも一緒になってルームメーキングをした。イギリスから来て滞在中の、エミリーのお母さんが、シーツ類の洗濯をしていた。昼時ど真ん中のキッチンにいるお客さんも、清掃のためにエミリーが一人残らず追い出した。  なぜなら、今日はクリスマスだからだ。  仕事を終えて家に帰ると、大上司のロスとヘレンから、一人一人にクリスマスプレゼントが届いていた。私たちはみんな、前日のうち

          #45 ニュージーランド蹴破り日記その3-17

          #44 ニュージーランド蹴破り日記その3-16

           休日明けの日の夕方、レッド・ターンズに行った。ゆっくりと色を変える山々を眺めながら、私はずっと、様々なミュージカルの曲を聴いていた。たぶん今朝、「エマ」とブロードウェイの話をしたからだ。  二日前から、ドイツ人のマレイカに代わり、アメリカ人のエマがやってきた。これまで最年少だった私より若い、二十五歳だ。出身はニュー・メキシコだが、ニューヨークのブロードウェイにも、もちろん行ったことがあるそうだ。  私は大学一回生の終わりに、初めて日本を出て、一人でニューヨークへミュージカル

          #44 ニュージーランド蹴破り日記その3-16

          #43 ニュージーランド蹴破り日記その3-15

           良く晴れた休日だった。「ボール・ハット」へ行こうとした。  ボール・ハットは、タスマン湖の奥、タスマン氷河を目の前に臨む山小屋だ。片道三時間ほどで行けるらしい。その道のりは地図によれば、タスマン湖の西側を、南から北へ、ひたすらまっすぐ進むのみだ。登る必要もあまりないようだ。しかし私の実際の足跡は、まったくもって「ひたすらまっすぐ」では無かった。  お気づきの方もおられるかもしれない。私は道を見失い、目的地への到達を断念した。山岳事故を起こすかと思った。  朝九時頃、タスマン

          #43 ニュージーランド蹴破り日記その3-15