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022 山月記の授業作りを語る~形象読み~

残暑が厳しく、先週は本当に忙しかったので、今日は半日寝てしまいました。

さて、今日は現在取り組んでいる高校2年生の「山月記」の授業についてお話ししたいと思います。この記事はポッドキャストの要約なので、詳しく知りたい方は、ポッドキャストを聞くか、文字化を読むかしてみてください。

「山月記」は、中島敦が中国の古い伝説をもとに書いた小説で、優れた才能を持つ李徴という人物が自尊心の高さゆえに苦しみ、最終的に虎になってしまうという物語です。高校では定番の教材ですね。

漢文訓読はAI文体よりすごいぞ!!

私は授業で、よく自分自身が朗読をするのですが、今回も「山月記」を読んでいて感じたのは、漢文訓読調の文体の美しさです。

簡潔で力強く、リズムが心地よい文体が体に染み込むようで、読むたびにその魅力を感じます。文章というのは読むだけでなく、声に出して口や体に染み込ませて感じるものでもあるんだと改めて実感しました。

ふと考えたのですが、AIが生成する文体には、このような実感を持たないんですよね。AIが書く文章は簡潔で読みやすいのですが、「山月記」の漢文調の文体は、先を予測させるリズムやパターンがあり、自然に次の言葉を待ちながら読む自分がいるのです。AIの文章にはこうした特徴がないので、漢文訓読調の素晴らしさを改めて感じました。

様々なアプローチ

さて、「山月記」の授業では、生徒にさまざまなアプローチで読解を深めさせています。

例えば、疑問を出させてそれをグループで共有したり、毎時間振り返りを書かせて次の授業で配布したり、版書を工夫して意見をやり取りしながら進めたりしています。

どの方法を取っても、「山月記」という教材は非常に魅力的で、生徒たちも深く読み取ってくれます。

生徒にとっての山月記

高校2年生の生徒たちはちょうど自意識が芽生える時期なので、自分を李徴と重ねて読むことがよくあります。

国公立附属の生徒は「まるで自分のことが書かれているようで苦しい」という感想が出たり、進路多様校の生徒たちは「人間が虎になるなんて面白い!」と物語の設定に興味を持ったりと、さまざまな反応がありました。

中でも印象的だったのは、スポーツが盛んな学校の生徒たちが「割り切ればいいじゃん」と李徴に対して説教を始めたことです。スポーツ選手はポジティブに前進する傾向が強いので、そうした反応が出るのも面白かったですね。

形象読みを取り入れて

私自身が「山月記」を授業で扱う中で最も読みが深まったと感じたのは、形象読みを取り入れたときです。

形象読みとは、物語の中で象徴的なアイテムや表現に注目する方法です。例えば、李徴が自分を「自分は」と言っている時と「俺は」と言い始める時の変化に着目させると、生徒たちはすぐに「理性的な時は『自分は』で、感情的な時は『俺は』だ」と答えてくれます。こうした発問は、生徒が李徴の二面性に気づく良い機会になります。

さらに、李徴が虎になった理由についても発問をします。「なぜ虎だったのか?ライオンでもよかったのでは?」と問うと、生徒たちは「虎は単独行動だから」「虎の鋭さが李徴の性格に合っている」といった答えを出してくれます。

そして、私の解釈としては、虎のシマ模様が李徴の二面性、自尊心と羞恥心の対立を象徴しているのではないかという点も提示します。こうした発問を通じて、生徒たちが自ら深い読みをしていく姿を見るのは本当に嬉しい瞬間です。

また、「山月記」というタイトルについても、生徒に考えさせることがあります。特に「月」については、李徴が人間らしさを取り戻している時に月が登場する一方で、夜が明けると完全に虎になってしまうという対比が見られます。月は虎の姿をした人間の心を持つ李徴を象徴しているのではないか、と考えさせるのです。

他にも、残月や風景描写について生徒に問いかけることで、場面の雰囲気や李徴の心情の変化を感じ取らせます。こうした読みを通じて、生徒たちは物語の奥深さに気づき、説得力のある読みを展開していきます。

最後に、「李徴を呼ぶ声」についての発問をしたときのことです。生徒たちが考え込んでいた中で、一人の生徒が「李徴を呼んだ声は李徴自身の頭の中から聞こえてきたのでは?」と答えてくれました。この瞬間、生徒たちの目が輝き、教室全体が静まり返りました。まさに、物語の核心に触れた瞬間でした。

こんなふうに、小説を論理的に読み解いたり、象徴的な要素に注目して読みを深めたりすることで、生徒たちの理解がどんどん深まっていくのを感じます。今日も長く語ってしまいましたが、皆さんの「山月記」の授業での取り組みもぜひお聞かせください。まだ暑い日が続きますが、無理せずお互いに頑張りましょう。それでは、またお会いしましょう。

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