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美術館で出会った新里明士さんの器を 初めて購入した話

そうなのです、昨年末、大好きな作家さんの個展で木版画作品を購入したわたしが、次に思いきって購入したのは、これまた美しい、憧れの器です。

手元に届いてまず最初にしたことは、一番やってみたかったこと。
自分で薄茶を点てて、美味しくいただきました。

たった一服でしたが、とってもとっても、豊かな気持ちになりました。
これは本当に、思いきって良かったお買い物でした。

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出会いは突然に

お話のはじまりは、2019年2月。
東京国立近代美術館工芸館で開催されていた展覧会「棗にまつわるエトセトラ」を観に行ったときのことでした。

展示ケースの中で光り輝く器に、思わずすーっと吸い寄せられました。

無数のドット模様から光が透けて、とても美しいのです。
これは・・・どうやって作られてるんだろう・・・?素敵・・・!!!

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≪光器≫(こうき)かぁ。タイトルも素敵。
そして作家さん、1977年生まれなんだ!

大きな器の横には、蓋物が。
観る角度でキラキラと輝くドット。絶対に抹茶のグリーンが映えるはず。
こんなお道具でお点前できたら、とっても素敵だよなぁ・・とため息。

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これが、陶芸家 新里明士(にいざと あきお)さんの作品との出会いでした。

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再会もまた突然に

それから1年後の2020年2月。
金沢への移転のため、閉館が迫った工芸館に、最後に訪れた日のことです。

たまたまイベントに遭遇できたので、参加したところ・・・

なんと!あの美しくて大きな器 ≪光器≫ に再会。驚きました。
しかも!素手で直に触れることができたのです!!!

思わず学芸員さんに、”この美術館で昨年、この器に一目ぼれして、こんなところが素敵だと思っていて大好きで、かくかくしかじが・・・”と語ると

「そうなんですね!将来は人間国宝になっちゃうかもしれない方ですから、
お好きなら今のうちに作品をお買いになるといいですよ!ぜひ!!!」

と、笑顔でひと言。

え?国立の美術館にあるような方の作品が、わたしでも買えるの?
いやいやいやいや・・・!でも、え、ほんとに買えるの⁉

目からウロコでした。

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さて、どうしたら買える?

学芸員さんはとても楽しげに勧めてくれましたが、そもそも美術館で観るような作家さんの作品って、”とてもじゃないけど買えませんよ!”っていうイメージ、ありませんか?

てか、アーティストの作品って、個展以外だと、どこで売ってるの?
ギャラリーとかお店で買えるの?てか、それはどこにあるの?
そもそも値段が想像つかない!から、お店に入りにくいし、怖すぎる!!!


学芸員さんにもっと聞いておけば良かった・・・誰か詳しい人教えて・・・
と思ったものの、”芸術家の作品をよく買っている”という知人はすぐには思い浮かばず。お茶の先生に聞くのもちょっと違うし・・・

このとき3月。ご時世もご時世、もちろん個展の予定も出ていません。
ひとまずGoogle先生を頼りに、販売している作品があるのか、どこで見られるのか、探しました。

すると、いくつかの古美術のお店や、作家物の器を扱うお店のホームページに、新里さんのお名前や作品の写真を発見。
様々なデザインの光器、光器以外にも深いブルーのシリーズや、信楽のもの。いろんなタイプの作品を作っているんだなぁと分かりました。

しかし!サイズや素材は分かるものの、全て売り切れているためか、一番知りたい肝心のお値段がわかりません!!!

うーん・・・前途多難。
そもそもこの状況では、すぐにどこかでお品物を見ることも難しそうだと思い、いつかご縁があったらいいなぁ、と、気長に待つことにしたのでした。

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ついに発見!そして考える・・・

その後、お茶のお稽古の席で先生に話すと、
「好きな現代作家のお道具って、あなたらしくて良いんでは?
 最初に買い求めるなら、お茶椀でもいいし、棗に使えそうな蓋物でもいいかもね」とのこと。
ふむふむ。はてさて、いつになったらお茶碗や棗に出会えるかなぁ・・・。


と思ってから3か月。
ふと思い立って、ネット検索してみたら・・・
なんと!お茶碗として使えそうな、小ぶりで筒型の光器がとあるところに出品されているではないですか!!!

説明を読むと、数年前にギャラリーで購入したもので、共箱も共布も陶歴もついている、とのこと。器の外側の底、高台の部分にサインも入ってます。

この出品者の他の出品物を見ると、他にも共箱がある現代作家の器がいくつもあり、この方なら信頼できそう、と思えました。


もちろんお値段は、決して気軽に買える額ではありませんでした・・・。
でも、絶対無理!な額ではなく、仕事している大人なら頑張って買えなくもないお値段、なのです。

再びあれこれGoogle先生で調べると、古美術のお店のページで、以前は見つけられなかった価格がいくつか出ている!
それらの相場と比べると、かなり良心的に値付けされていることが分かります。

うーん・・・・・・
本当に本当に欲しいのか、よくよく納得できるまで考えて、1ヶ月。
もし売れてしまったら”ご縁がなかった”ということ、と思っていました。

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そして結論 ご縁があって本当に良かった

7月。そうです、つい数日前です。
どなたのお家にも行かず、ずっと出品され続けていたこの器を、ついに譲っていただきました! ようこそ我が家へ!!!涙

やり取りのメッセージで出品者にお礼を伝えると、
”新里さんは作品も素晴らしいけれど、お人柄も素敵な方で・・・”
と、ご本人とのエピソードも交えた素敵なお返事が。

素敵な方から、素敵な作品を引き継げて、本当に良かった!!!と心から思ったのでした・・・。

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ここ数年で特に思うようになったことがあります。
それは、何かを買うときに大切にしている、買うこと・愛用すること = 作り手への応援  の感覚です。
できるだけ”作り手が見えて、自分が好きだと思えるもの”に、ちゃんとお金を払いたい、と思うのです。

身の回りで日々使うものが、応援したい人や企業が作った素敵なものだと、いつもより余計に、それらを長く使いたいから大事にするし、手にする度に自分も嬉しかったり楽しかったりするんですよね。

今回の憧れの器も、まだ数回しか使っていませんが、お稽古もかねて日々自宅でお茶を点てるのが、早速楽しくなりました。至福のひとときです。

もちろん、これは割れ物。考えたくもないけれど、もし割れてしまったら、たぶん泣きますが、そうなったとて大丈夫、金継ぎすれば良いのです!
贅沢かもしれないですが、箱に大事にしまい込まず、大切に大切に、たくさん使っていこうと思っています。

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”作品を買う”という体験をしてみて思うこと

それにしても、”美術館で観た作家さんの作品を買う”、なんてこと、できるんですね・・・! 最終的に、まさかの出会いとなりましたが、いま考えても、たいぶハードルが高いことをやってのけたなぁ、と。

でも、思いきって飛び越えてみて思ったのは、そのハードル、実は自分で勝手に作って、勝手に高くしていただけなのかも、ということ。

超えようと思ったら、案外、簡単に超えられたし、超えてみるとびっくりするくらいに素敵なことがある!!!と、今回、身を持って学びました。


そしてここ半年ほどで、木版画と器という2つの作品を購入してみて、改めて、作品を買うってアーティストへの応援だなぁ、とつくづく思いました。

応援、といえば、クラウドファンディングはまさにそう!
ライブハウスやミニシアターなどへの支援が話題になって、ここ数か月で一層世の中に広まりましたよね。
わたしもクラウドファンディングで二人の作家さんをサポートしています。


思えば、写真集やCDを買うことだって、好きなファッションデザイナーの服やバッグを買うことだって、アーティストの作品を購入している、ってことですもんね。デザイナーズ家具とか、照明なども。

アート作品、というだけで、なんだか漠然と、”限られた人だけができる特別なこと”っていうイメージがありましたが・・・

自分で調べたり体験してみると、金額の多寡は確かにあるけれど、写真集やCDや、家具と同じで、アート作品を買うことって、全然特別なことではない!と、実感しました。

コレクターになるつもりは全くないけれど、できる範囲で本当に自分が好きだと思う作品を購入し、日常で使ったりお部屋に置いたりして、アーティストを応援していきたいです。

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アート作品が普段の生活空間にあると、想像以上に、自分自身の日常とこころを、格段に豊かにしてくれるなぁ、と感じています。

ただ、正直まだまだ、作家の方とも作品とも、出会える場所が見つけにくいような・・・。
古美術のお店やギャラリーも、相変わらず入るのに勇気がいります。
これはもう、場数を踏んで慣れるしかなさそうですね。


いきなり一点ものの作品を買うのは無理!とか、お財布と相談が必要!という方は、例えば、展覧会のグッズ売り場やミュージアムショップで、大きめのポスターやポストカードを買ってきて飾るのも、とってもお勧めです。

もっと言えば、自分で撮った家族やペットの写真だって、立派な作品!
子どもが描いた絵だって、塗り絵したやつだってそう。作品です。

ちょっと大きめにプリントして、フレームに入れて壁にかけるだけで、フレームがなければマスキングテープでぐるっと四方を囲んで貼るだけで、とっても素敵な空間が作れます。

そんな風に、もっと多くの方にとって、暮らしの中でアートを楽しむことが身近になって、もっともっと軽やかな気持ちで、好きなアーティストの作品を買うことで応援していくような人が増えたら、とっても素敵だし、なんだか嬉しいなぁ、なんて思った体験でした。


新里さんの作品も展示される展覧会が、まもなく

そうなんです。
最後になってしまいましたが、新里さんや多くの若手現代作家の皆さんの作品がたくさん楽しめる展覧会が、汐留で予定されています。
どの作家さんの作品も本当に素敵すぎるので、開催が待ち遠しいです。

そして来月、新里さんも出演予定のトークショーをすでに予約しましたが・・・なんとか無事に開催してほしい!と思っています。


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