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オランダの子どもたちが幸せな理由③<スキルの観点から>

ユニセフの子どもの幸福度調査において、オランダが3度連続で1位を獲得しました。
そのことについて、レポートを読み、自分がオランダで生活して感じていることについて書いていきたいと考えています。

今回は<スキル>の観点からです。
実は、私はこの<スキル>という要素の結果がとてもオランダらしさを表していると感じています。一言では語ることが難しい子どもの幸福度。
今日は最終回ということで結論に至るため長くなりますが、是非最後までお付き合いいただければ。と思います。

ユニセフの幸福度レポートとは?

まず、「ユニセフのレポートとは何ぞや?」という方や、その内容について知りたい方は、是非前の記事からお読みいただきたいと思います!

また、レポートは3つの要素である

・精神的幸福度
・身体的幸福度
・スキル

から成り立っていますが、この記事ではその要素を3つに分けた観点から考察を書いています。

前々回の<精神的幸福度>についての記事はこちらから。

そして、前回の<身体的幸福度>についての記事はこちら。

<スキル>とは?

さて、それでは今回のテーマである<スキル>について、さらっとおさらいをしておきたいと思います。
ユニセフのレポートによると、

◉スキル
・読解力/数学的思考力が基礎的習熟度に達している15歳の割合
・社会的スキルを身につけている15歳の割合
(「すぐに友達が出来ますか?」という問いに対して「その通りだ」「まったくその通りだ」を選択した子どもの割合)

とされています。

簡単に言うと、<スキル>という要素は

・学力スキル
・社会的スキル

に分けれられいるということになります。

そして私自身、この<スキル>は日本が抱える学歴社会、そしてその中で生きる子どもたちの在り方を如実に表していると感じています。
そして、順位を見てもそうであるように、スキルは精神的幸福度と密に関わっている。というのが私の見解です。

それではここから、
「オランダの子どもたちのスキルが高い理由はここにあるのかな?」
と私自身が勝手に分析していることについて書いていきます。

オランダと日本の結果は

<2回目>Edubleインスタライブpdf(12)

スキル面でオランダは3位日本は27位という結果になりました。

これはたまたまかもしれませんが、オランダも日本も<精神的幸福度><スキル>の順位がどこか似ています。オランダは1位3位。日本は37位27位という感じです。

【オランダ】
個人的な感想でいくと、オランダは学歴に対して日本とは異なる意識を持った国ですが、学力と社会的スキルを合わせたところの順位は高く、3位を獲得しました。また、学力レベルについては、日本よりも少し低い結果となっています。しかし、学力の影響を受けたとしても、スキル全体で3位ということは、もう1つの要素である<社会的スキル>が大きく影響していると思っています。

【日本】
一方で、日本の学力レベルは世界的にみてもトップクラスに位置していることがわかりました。しかし、社会的スキルを加えるとその順位をグッと下げているのが日本...というイメージでしょうか。
学力的には高いけれど、学校で必要になる<社会的スキル>が全体的な順位を下げる程度まで影響していることがわかります。

義務教育期間の在り方と教育システムの違い

前々回の<精神的幸福度>でも言及しましたが、オランダは日本と大きく異なる教育システムを持った国です。留年や飛び級が認められる上、一回の受験で進学先が決定するというような「一発勝負」がほとんどありません。

オランダの義務教育は基本的に16歳までとされています。その一方で、日本は15歳に達した日以降の3月31日までを義務教育期間としています。

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【オランダ】
オランダでは小学校卒業後、これまでの成績やCITOテストの結果、担任と保護者そして当人との面談を経て、順当にいけば13歳になる年、義務教育期間を含む約3つのレイヤーに分かれた中高一貫校に進学します。

【日本】
対照的に、日本は中高一貫校に進学するケースは私学に限られることが多く、比較的少ないと言えるかもしれません。多くの場合は中学校を卒業すると義務教育期間を終えますが、98.8%の子どもたちが中学3年生で高校入学試験を受け、高等学校に進学します。

マイルドな学歴社会であることで、どんなプレッシャーが外れるか

ここでオランダの教育システムとその在り方について深く話をするのは避けますが(とても複雑且つ多様性に富んでいる部分も多いので、説明するだけで1つの記事になりそうです...)、オランダの教育は基本的に「子どもの能力を無理やり伸ばそうとしない教育」だと言われています。

多くの教育者やその家族、社会全体が「無理に伸ばさなくても」と思えるのは、もちろんオランダが極端な学歴社会ではないことと、社会福祉が充実していることに関係しているとは思いますが、いずれにせよオランダの子どもたちは「将来何になるの?」という質問を含むプレッシャーを感じにくく成長できるのかもしれません。

もちろん100%とは言えないにせよ「どんな道を選んでも社会で生きていける」という感覚の中で育つ子どもたちは「他人と比較する」という経験をあまりすることがなく、その必要性を感じにくいように思います。
そして、他人と比較することが少なくなくなった時、人は自分の中に物差しを持つことでより自由になり、より幸福になれると思うのです。

15歳で「友達がすぐ出来る」ということが何を表すのか

さて、前置きが長くなったのですが、<スキル>という要素の中にある<社会的スキル>という観点では、15歳の子どもたちに対して、
「友達がすぐに出来るか?」という問いを投げかけています。

そして、その問いに対して、
「その通りだ」「まったくその通りだ」と回答した子どもの割合をデータとして活用しているのですが、オランダは82%の子どもが友達の作りやすいと感じていることがわかりました。(上位から3番目)
一方で、日本の子どもたちの割合は69%であり、これは最下位から2番目の結果です。

友達を作る...日本人はこれが得意でしょうか?
「先生、大学でどうやって友達作ったら良いん?」
卒業生が母校を訪れた時、そんな悩みを多く聞いたことを思い出します。

さて、15歳の子どもたちにとっての「友達の作りやすさ」は一体何を表しているのか、と考えました。
そこで感覚的に見えてきたのは、15歳の子どもたちの心の在り方です。
日本に関して言えば、15歳とは高校受験を控え「自分の立ち位置」を強く認識し始める時です。
基本的な風潮として、塾へ通ったり、通知表の結果に一喜一憂したり、周囲の友人と自分を比べ、自分はどこへ向かうのか、何になりたいのか、目標とする到達度までどれくらいなのか...という葛藤があると思います。

15歳とは、少なからずそういったストレスやプレッシャーを抱えながらも他人と比較しながら「自分」を見つめる時期のように思います。
そして同時に、多くのストレスやプレッシャーを抱える中で、それらの感情が人間関係に影響していく時期であるとするなら、日本の子どもたちはやはり「友達作り」に苦戦しているのではないか、と思います。

一方で、オランダの子どもたちはマイルドな学歴意識の中で育つ上、自己肯定感を高める教育の中で「自分は自分で良い」という教育の中で成長する傾向にあると思います。他人と比較するような状況からできるだけ距離を置くことで「自分なんて」と、自分を卑下する機会をあまり多く持たないのかもしれません。

「人は人、自分は自分」
自尊感情が高いと、自分どころか人に対しても否定的な意見を持ちにくくなる。というのは、近年明らかになってきていることだと聞きます。
そういった意味で、オランダの子どもたちは自尊感情が高く、他者との人間関係に悩むことも少ないのかもしれません。

私がここで導き出した仮説は、オランダに住む15歳の子どもたちはマイルドな学歴社会で生きる中、学力比較におけるストレスやプレッシャーが少ないため、人間関係でも苦労することが少なく「友達はすぐできる」と答えやすいのではないか、いうことでした。

そして、その影響は大人になってからも

そして、さらにレポートを読む中でとてもオランダらしい面白いデータを見つけました。

それは保護者への質問だったのですが、
「子育てに困った時、助けを求めることが出来る相手の割合」です。
そこには、助けを求める相手として、

家族、友達、サービス(ベビーシッターなど)、誰もいない

という項目がありました。

そして、
「子育て中のあなたをサポートをしてくれる人はいるか、それは誰か」
という問いに対して、オランダの保護者だけ「友達」という割合が29ヵ国中、圧倒的に多かったのです。
(ちなみに、この調査に日本は対象国として含まれていません)

これは何を意味しているのか、ということを自分なりに考えました。

一見、15歳段階の<社会的スキル>とは無関係に思えるこの結果ですが、実はこの<15歳の時の社会的スキル>の結果が大人になってからの生活にも影響しているのでは...と思ったのです。

そして、私がたどり着いた仮説は、
「15歳で"友達が作りやすい"と答えたオランダの子どもたちが大人になり子どもができた時、"頼りたい"と思える相手が"友達"なのではないか?」
ということでした。

つまりは、家族を持ってからもオランダ人の保護者たちは友人に頼ることが出来るため、孤独になりにくい。そして、そういう気持ちになれるのは15歳の頃の「友達の作りやすさ」が影響しているのではないか。

という仮説です。

街を見渡せば、オランダ人は人と喋るのが好きだということがわかります。
もちろん全員が全員ということではないでしょう。しかし、カフェで見かける人たちは会話を楽しみ、コミュニケーションを楽しむ人たちだということはこの国に暮らせば理解できるような気がする上、オランダ人と話をするとそれを強く感じるのです。

さらに、大人の働き方

さらにレポートを読み進めると、もちろんそういった<スキル>の影響だけが要因なのではないことも見えてきます。
そこで
「家庭と仕事の両立に難しさを感じている人々の割合」を見てみました。

ここに日本の数字はないのですが、オランダはヨーロッパ諸国において圧倒的に低い数値となっています。つまり、家庭と仕事の両立に苦労していない人が多い。ということです。

数字でみてみると、

・家庭と仕事の両立に苦労していると感じている人たちの割合は25%程度
・1週間あたりの平均就業時間は30時間を切っている

という結果だということがわかりました。
ここから見えるのは、

・オランダの保護者は困った時は友人に頼ることが出来る
・基本的には家庭と仕事の両立に苦労することも少ないと感じている
・その理由の1つは、1週間あたり働いている時間が短いから

ということでしょうか。

15歳の<社会的スキル>が大人の幸福度に繋がり、大人の幸福度が子どもの幸福度に還元される

私の仮説としては、
<15歳の社会的スキル>は大人になってからも影響し続けている
そして、その影響は大人の幸福度にも繋がっている
ということです。

簡単にまとめると、

・オランダの子どもたちはマイルドな学歴教育の中で「のびのび」と育つ
・「自分は自分で良い」と思えるような教育活動や社会の在り方を通して自尊感情を大切にされる
・人と比較しない教育の中で15歳前後の子どもたちはプレッシャーも少なく、大人も含めた「人との繋がり」を大切にできる
・一度得た繋がりは大人になってからも人生に影響し続け、孤独になりにくい
・就業時間は他国に比べて短く、困難を覚えた場合も友達を頼れる環境で子育てが出来るため、家庭と仕事の両立に難しさを感じにくい
・そんな余裕のある保護者の下で育つ子どもたちの幸福度は高めになる

というところでしょうか。

結局、「大人の幸せ = 子どもの幸せ」

結局のところ、余裕ある大人の生活が子どもの幸福度に繋がっている...
つまり、

大人が幸せであることが子どもの幸せ

ということなのかもしれません。

子どもが単独で幸せになることは難しく、そこには子どもたちを取り巻く大人の生き方が大きく影響している。とも言えます。考えてみれば当たり前にも思えるこの構図ですが、現代社会において、それを構築することいかに難しいかということを、今回のレポートの分析で感じました。

<オランダの子どもたちは、幸せな大人のもとで生きている>

これが幸福度が高い理由の一つだとすれば、日本の大人たちは
「自分たちの幸福度を上げること」
をもっと意識的に大切にしても良いのかもしれません。

一人ひとりの大人が当事者意識を持ち、自分と関わりを持つ制度や社会を変えていく。
それは「目の前や未来の子どもたちの幸福度を上げること」に繋がる。
と、ユニセフのレポートやオランダの暮らしは教えてくれているような気がします。

私の主観的な意見で言うと、完璧ではないにせよ、オランダの子どもたちは幸せだと言えます。
...それは大人が幸せだから。そして、大人が自分たちが幸せであることで、子どもたちの幸せを守り抜こうとしている姿勢も感じます。


さて、3回に渡ってお届けした、
「オランダの子どもたちが幸せな理由」
長い時間お付き合いいただきありがとうございました。

多くの方々にとって社会の在り方を見つめ直す機会になれば幸いです。

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今回の内容はインスタグラム(IGTV)でも

さて、今回の内容について、夫の義則とインスタライブでも話をさせていただきました。

お時間があれば是非ラジオ代わりにでもご視聴ください*

instagram: eduble_nld

https://www.instagram.com/eduble_nld/




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