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オランダの子どもたちが"筆記体"で文字を学ぶ理由

先日、オランダで小学校の先生になることを目指しながら学ばれているオランダ人の方にインタビューをさせてもらいました。

彼女は以前、大学卒業後、Marketing researcherとして働いていたそうなのですが、画面と向き合うだけの仕事の内容に違和感を感じ始め、本当に自分がやりたいことはどこにあるのか?という問いを立てた時、もっと人と接し、未来を作る仕事に従事したい。と小学校教員を目指すことにしたのだそうです。

その後、彼女がどのようにして教職課程に入り、そこでどのようにしてカリキュラムが組まれてきたかということについては別の記事で触れたいと思うのですが、彼女自身、今は正規教諭になるための学校である教職大学に通いながら、実際に学校現場でも働いています。

「働いている?先生になるための勉強をしているのに?」

と思われれるかもしれませんが、オランダでは教員不足もあって、これから正規教諭になりたいと望む人たちに向けて「学びながら働く」という選択肢を用意しています。
その選択肢についてはまた書きたいと思いますが、彼女はその道を選び、「大学で学びながら学校で働く」ということを実践しています。


オランダの小学校では、何故"筆記体"で学ぶのか?

彼女が教職大学で教師になるためにどのようなことを学んでいるのか...そんな話を聞いているうちに"writing"という言葉が聞こえてきました。

そこで彼女が英語で"Hello"と筆記体で書いてくれたのでした。
私はそこで「何故、オランダの子どもたちはブロック体ではなく、筆記体を学ぶの?」と聞きました。

すると、彼女は下の写真のように、3種類のアルファベットのペアを筆記体とブロック体で書いてくれたのです。

「これを見てね、筆記体とブロック体、どちらの方が右と左の文字の違いがわかる?オランダで筆記体を学ぶには2つの理由があるのよ」

そう言って、彼女はオランダで筆記体を書く理由を話し始めてくれたのでした。

理由① ディスレクシアなどの子どもたちにとって認識/学習しやすいのは筆記体

1つ目の理由は、驚くなかれ「ディクレスシアの子どもや、特性のある子どもたちにとって学びやすいとされているから」でした。

これを聞いた時、本当に声が出るくらい驚きました。
「え?!?!そこまで配慮する意図で筆記体?!?!!?!?!?!」

「そうよ!」と、彼女は笑顔で応えてくれました。

その時、私はふと工業高校で教えていた生徒たちの中に、アルファベットの小文字の"b""d"を反対に書く生徒がある一定数いたことを思い出しました。

1学期中間考査ではアルファベットをきちんと順序よく書けるかどうかのテストをしていたのです。(常勤講師だった私は疑いもなくその試験の在り方を受け入れていましたが...)

今思えば、クラスには特性のある生徒たちもいたと思います。ひょっとしたらあの生徒たちにとってブロック体はとても見分けにくいものだったのかもしれない...そんな風に思ったのでした。

理由② 筆記体はブロック体よりもfine motor skillに良い!

"fine motor skill"とはどのようなスキルかというと、小さなものを巧みに扱ったり、物を手から手に移すようなスキルを指します。日本語で言うと「手先の器用さに繋がるスキル」かもしれません。

彼女の話では、
「筆記体はブロック体よりも手首を動かす動きが大きくて、それが脳への刺激に繋がると言われているの。その刺激を大切にする意味でも筆記体を推奨しているのよ」
ということでした。

「fine motor skillが高いことは何に繋がるかと言うと、例えばボタンをつける能力や、ほらこうやって細かいベルトを調節する力につながったり、ね?」

と、彼女は細かい作業が必要になりそうなベルトを見せながら、ベルト穴の調整を見せてくれていました。

エビデンスベースで学ぶ学生たち

「私たち教師を目指す学生は、常にエビデンス(根拠)ベースで学んでいるの。だから、単純に"筆記体の方が良いから"というような理由もない状態で筆記体を選択するようなことはないの。子どもたちもきっと聞いてくるでしょう?

「何でブロック体で書かないの?」って聞かれた時、それに対して「そう決まっているからよ」って言われて納得するかな?オランダの子たちはきっと納得しない。笑
そして、納得しないことはしないのがこの国の子どもたちなの。だから、私たちは自分たちが学ぶ時も"why”を大切にする。"why"を持って学ばないと、教室の子どもたちの"why"に答えられないから。それはつまり、教室が崩壊するってことね。笑

そして、"why"を持って学ぶ時、そこには必ず理由がなければいけない。何で筆記体を学ぶのか...そう決められた背景にはエビデンスがなくちゃね。それを学んだ私たちは「あぁ、だから筆記体なのか〜」と納得できるしね」

そう言って、彼女はその理由を裏付けるエビデンスが書かれた論文が載っている紙を握りしめていました。

文字は書けなければいけないのか?タブレットはだめ?

最近ではiPadやタブレットで文字を学ぶためのアプリケーションも出てきましたが、彼女が学校で学んでいることに基づけば、
やはり、
「ペンを持って紙に書く行為は欠かせない」
とのことでした。

「これに関してはいろんな議論がなされているから、答えはまだ模索中とは言えるかもしれないれど、今この瞬間も目の前の子どもたちには教えなければいけないことを考えると、現時点でわかっているエビデンスに基づいて"書く"という行為はペンを持って紙に対して行うこと。とされているの」

この議論は、インターネットが普及した、21世紀らしいものではないでしょうか。そして、これに対して「文字学習はiPadじゃだめなの?」と思っていらっしゃる保護者もいらっしゃると思います。

これに対してオランダは、
「現時点でエビデンスがあり、有用とされている方法で、教師自身が生徒と保護者に説明可能なものを選ぶ」
という道を選んでいると思います。

そして、その"エビデンス"とは、ひと昔の論文や研究発表ではなく、常にアップデートされたものであることがきちんと意識されていると感じました。

そして1番面白かったのは、彼女自身「教科書」と呼ばれる教材は1冊も持っていなかったことです。
この速すぎる時代の進化に合わせようとすれば、発表される論文や研究発表に基づく必要が出てきます。
その速い流れの中で学ぼうとすれば、何年も前に出版された教科書や参考書では遅すぎる...イノベーションに長けたこの国の学び方は、かたちにこだわることなく、本質をつかみにいく姿勢が見えるのです。

"筆記体を教える理由"をどう思いましたか?

全ての子どもにとって理解しやすい筆記体を教えること、それだけではなく、エビデンスをもって筆記体を選択している...

皆さんはこの点についてどう思われましたか?

ちなみに、彼女が教える学校では高学年になるとブロック体も習います。(習得する年齢は学校によって異なるとは思いますが)

でも、最初は筆記体で。
ブロック体の方が世界的に見ても需要は高いでしょう。しかし、そこであえて「みんなにとって"より"良いもの」を選ぶ。

その選択が、多様を受け入れやすいと言われるオランダらしいな。と感じたエピソードでした。










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