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オランダ総選挙の投票率83%。ルッテ首相続投、国民は「安定」を選択

マルク・ルッテ首相は強かった。3月17日の総選挙で、同氏が率いるVVDは前回選挙から2議席を伸ばし、4期連続で第一党を維持。10年以上首相を務めるルッテ首相の続投が決まった。地元紙『Eindhoven Dagblad』によれば、VVDに投票した人の7割はルッテ首相を投票の理由に挙げているという。「VVDの顔」、いや「オランダの顔」として安定したリーダーシップを発揮するルッテ首相に、国民が信頼感を表した形といえる。そして、このコロナ禍にあって、国民が大きな変化を望んでいないことの表れともみられている。

そのほかの最終結果は以下のとおり。

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D66が躍進!左派政党の支持者が流出

今回いちばん躍進が目立ったのは、中道左派の「D66」。女性党首のシーフリッド・カーフ氏がテレビの党首討論会などで健闘し、最終的に3議席伸ばして第2党に躍り出た。オランダの各種メディアでは、カーフ氏がテーブルの上で両手を広げて大フィーバーしている様子が映し出された。

一方、これまでの第2党だった極右政党PVVと中道CDAはともに議席を減らし、第3党、第4党に。特に、党首選びに時間がかかりキャンペーン準備が十分でなかったとされるCDAは4議席減という痛い結果となった。

また、野党左派3党のGroenLinks、PvdA、SPは軒並み惨敗。3党を合わせた議席数は26と、前回選挙の37議席から急減し、過去最低を記録した。オランダの各メディアの分析によると、3党を支持していた人たちがD66に流れたもよう。D66に投票した人の3分の1がこの3党の支持者だったという。連立与党に入る可能性の高いD66に希望を託した人が多いのだろう。D66が環境問題について野心的であることもこれを後押しした。

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↑勝利の喜びを語るD66の党首シーフリッド・カーフ氏

「コロナ対策なんていらない!」FvDも健闘

今回大きく議席を伸ばした政党に右派の「FvD」がある。この政党は今回の総選挙で唯一、コロナ対策に反対する立場を取っており、党首ティエリー・ボーデ氏は大っぴらに政治集会を開いて、支持者らと親しく握手をしたりしていた。

この党は昨年11月に仲間割れを起こしたりしてかなり混沌としていたため、古いサポーターは「JA21」など新進の右派政党などに流れたが、「コロナ対策なんてクソくらえ」というポリシーが功を奏し、新たな支持者を得た形だ。コロナ対策で店を開けない事業主などが熱烈に支持しているようだ。

ほかには今回初めて総選挙に参加した「VOLT」と「JA21」がそれぞれ3議席を獲得した。「VOLT」は汎ヨーロッパ主義の政党で、コロナ対策、難民問題、環境問題など、一連の政策をEUと足並み揃えてやっていこうという政党。オランダだけでなく、EU諸国の国会でこれから議席を獲得していきたい考えだ。「JA21」は先の「FvD」から派生した右派政党。「FvD」や「PVV」ほど過激な右翼ではなく、これら2党と経済成長を重視するVVDとの中間ぐらいの位置づけだ。

コロナ禍でも投票率83%

オランダ放送協会(NOS)によると、今回の総選挙の投票率はなんと82.6%。コロナ禍にあってもこんなに投票した人がいたのは本当に素晴らしい!

各党がオランダをどんな国にしたいか、というビジョンをもって政策を争い、国民が自分の立場や考え方から最適な党やリーダーを選ぶ権利を行使する。健全でシンプルな民主主義がここにはある。選挙はみんなワクワクしていて、民主国家の祭典みたいな雰囲気ですらある。

オランダの総選挙を見るにつけ、日本の政治、そして国民の選挙権行使について深く反省させられる。もっとみんなでどんな国にしたいのか、関心をもって選挙を盛り上げなくちゃならない。私自身も日本の選挙権を持つ身として、オランダの選挙を見つめた熱心さをもって日本の政策にも関心を持たなければ……と思った。

子供だって政治に参加

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「子供ファースト」なオランダらしく、子供だって選挙と無関係ではない。NOSの子供用ニュース番組「Jeugdjournaal」では主要6政党の党首が子供たちの前で各党の政策を分かりやすく説明したり、質問に答えたり、クイズに挑戦したり……子供たちにも小さな時から自分たちの生活と政治を結び付けて考える機会を与えている。

18歳未満の中高生には、模擬選挙なるものも実施されている。参加校では大人の選挙と同様、子供たちは3月1日から16日の間に投票用紙に書き込んで専用ポストに投函。これは実際の投票日の前日に開票される。今回の「子供総選挙」では、やっぱりVVDが第1党に選ばれた。残念ながら彼らの票は実際の選挙には反映されないが、18歳で選挙権を得る前の、いい予行演習になっているようだ。

これからまたひと仕事

オランダでは1つの政党が議席の過半数を獲得することはまずなくて、だいたいいつも4つぐらいの党が連立与党をつくることになる。今回もVVDは圧倒多数で第一党になったが、それでも35議席と、「第2院」全体(150席)の5分の1程度に過ぎない。そのため、今回も早速、連立政権樹立のための話し合いが行われている。当然のことながらこのすり合わせ作業は結構大変なので、選挙が終わってから何カ月も連立政権が樹立されないこともしばしばだ。

今回はこれまでもタッグを組んできたVVD、D66、CDAの3党による連立が予想されているが、この3党が集まっても過半数にはならないため、さらにほかの党が加わる見通しだ。それがこれまでも与党に入っていたChristenUnieになるのか、はたまたD66が左派政党を招きいれることになるのか、VVDが比較的右寄りの党を入れるのかは、まだ分からない。ただ、今回はコロナ禍の真っただ中にあるため、比較的すばやく連立樹立・組閣がなされるのではないかというのが大方の見方だ。

VVDも最低賃金の値上げや安価な住宅建設の加速、中間層への減税などを約束しており、政策的には左傾化する見通し。D66の躍進で環境への取り組みも強化されるだろう。コロナ禍で拡大した経済・教育格差の是正も期待される。

毎回盛り上がるオランダの総選挙。私は選挙権がないにもかかわらず一緒に盛り上がらせてもらって、選挙というのは真剣ながらも楽しいものなのだということに気付かされた。日本の政治家は汚職や責任逃ればかりで、フォローするのが嫌になってしまうほどだが、彼らを選んだのも私たち国民だ。私はこれまでほとんどオランダから日本の選挙に参加してこなかったが、次回はちゃんと大使館に投票に行こうと思っている。

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