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パリのホテル

 私の「イチオシ」ホテルは、パリの「セレクトホテル」である。このホテルは、パリの「カルチェラタン」、ソルボンヌ広場に面していて、活気のある学生街にある。

 私は、20年ほど前に、パリで日本語教師のアルバイトをしながら、ソルボンヌ大学付属のフランス語講座に通っていた。

 渡仏したばかりの頃はよく、友人であるフランス人のカフェに呼んでもらい、朝をご馳走になった。そこは職人が行き交う下町で、私はパリジェンヌ気分を満喫した。


が仕事が始まると、フランス語が未熟なため、寒~い冬のパリで辛い思いをした。肌は乾燥でガビガビ。仕事場では生徒からもスタッフからもバカにされる。
「人間、やめていいですか?」
 私は、アパルトメントの古い鏡に向かって呟いた。

しかしせっかくパリまで来たのだからと意を決して、フランス語を一から勉強し直すことにした。ソルボンヌ大学付属のフランス語講座に、通いはじめたのだ。


ここは、女優の故野際陽子さんも通っていた名門フランス語講座で、大学レベルのフランス語の授業が受けられる。先生は自分の電話番号まで教えてくれ、留学生に親身に接してくれた。毎日は、今とは比較にならないほど、充実していた。

 このホテルは、このように、私の想い出がいっぱいのエリア、「カルチェラタン」にある。おじさんとジョークを交わしたキオスク、途中で電話を切られた公衆電話、通いつめた本屋、何もかもが美しい想い出である。

 何度か帰国後に泊まったこのホテルは、実にフランス的。受付のマダムは客のムッシューと話し込んで、なかなか対応してくれない。このらしさも、今の時期には特に良い想い出だ。地下の朝ごはんを食べるカフェもこじんまりとしてて、感じが良い。

滞在中は現在の「高齢主婦」「家政婦同然」な自分の立場を忘れ、再びパリジェンヌ気分に浸れる。

 島崎藤村も泊まったことのある名門プチホテル、「セレクトホテル」。コロナウィルスが収まった後には、是非また訪れたい。

 観光客がいなくて、閑散としてるパリなんて、悲しすぎる。



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