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【Concert】東京音楽コンクール入賞者による テノールの饗宴

 東京文化会館に「歌」が帰ってきた。

 東京文化会館主催の「シャイニングシリーズvol.7 東京音楽コンクール入賞者によるテノールの饗宴」は、本来5月28日に小ホールで開催されるはずだったコンサートだ。新型コロナ禍により延期されていたが、場所を大ホールに移しての開催となった。客席は、1階は前4列を空けて5列目からの着席、かつ左右は1席空け、前後は千鳥配置である。このソーシャル・ディスタンスを保つために小ホールから大ホールに変更になったのだと思うが、それにしても3階席までほぼ満席で、いかにみんなが「歌」を渇望していたのかが伺える。

 出演者の村上敏明、与儀巧、宮里直樹、小堀勇介はいずれも東京音楽コンクール声楽部門の入賞者。ひとくちに「テノール」といっても、その声の質から得意とするレパートリーまで様々で、今回はそうした歌声の違いも楽しめるコンサートだった。前半は各人オペラ・アリアを2曲ずつ、そして後半はカンツォーネなどポピュラーなナンバーからという構成も、すっかり歌から遠ざかってしまった今はそのオーソドックスさが心にしみる。

 4人の中でひときわ印象に残ったのは宮里直樹。ちゃんと彼を聴くのは二期会の『蝶々夫人』以来だと思うのだが、豊かな声量、低いところから高音まで重心がしっかりとしていることにまず度肝を抜かれた。特にマスネの『マノン』からデ・グリューのアリア「消え去れ、優しい面影よ」は、その表情の豊かさが素晴らしい。ピアノの江澤隆行がまたなんとも美しくロマンティックな演奏で宮里の柔らかい歌声に華を添える。このコンビ、意外にイケるかも?!

 もちろんベテラン村上敏明の安定感はコンサート全体を引っ張っていくにふさわしいものだったし、与儀巧のキャラクター性あふれるカンツォーネ、小堀勇介のハイCも大いに客席を湧かせた。とにかく「歌」が好き、「歌」を聴きたいと思っている人たちにとっては、本当に待ち望んだ時間だったと思う。オペラはまだまだ完全な形での上演は難しそうだが、色々工夫を凝らしながら「歌」を聴かせてくれるこういう機会が、今後もっと増えていけばいいと思いながら上野を後にした。

2020年6月28日、東京文化会館・大ホール。

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