【音楽】2020年ベストアルバム

10. MOUSOU PAGER/BEYOND THE OLD SCIENCE

日本語ラップの伝説的クルー・MICROPHONE PAGERに憧れて2014年から活動してきたラップグループの1stアルバム。単なるパロディではなく、90年代のトラックの緻密さとラップのカジュアルさを2020年に甦らせた奇跡のような一枚。サラリーマンをしながら音楽への偏愛を結実させたミドルエイジドリームの物語でもある。

9. IZ*ONE/BLOOM*IZ

「AKBグループが日韓合同オーディション番組に参加」と聞いた時、楽曲がここまで良いとはとても想像できなかった。「花」をコンセプトに緻密なサウンドプロダクションで、リードトラックはどれも華麗で耽美。カワイイでもガールズクラッシュでもない新機軸のK-POPを提示している。秋元康プロデュースの日本語楽曲がストリーミングで下位に沈み、韓国語曲が国内外ともに支持されているのもなんだか象徴的。

8. Lil Uzi Vert/Eternal Atake

2018年に制作が明かされて以来、実に2年がかりのプロジェクトとなったフィラデルフィア出身ラッパーの2nd。宇宙崇拝のカルト宗教をモチーフにちりばめた独特の世界観で、アルバムというパッケージがどんどん形骸化する時代に、古風ですらあるコンセプチュアルなラップ・オペラが新鮮。もちろん、現代的なトラックメイキングや、キャッチ―なムードで、1曲単位でもヒットを狙えるだけの良曲ぞろいの名盤

7. Cosmo's Midnight/Yesteryear

BTSの最新アルバムにも楽曲提供するオーストラリアのデュオ。ジャンルはフューチャーベースで紹介されることが多いが、ローファイでドリーミーな音像はむしろシティポップに近いかも。よく聞くとベースラインとかは下世話で80年代ディスコリバイバルっぽいフレーズも頻出するものの、アレンジと音色がさっぱりしていて、いい意味でぜんぜんエロくない。10~15年前のインディーをめっちゃ聴いてたよ~みたいなRoyksoppやMGMT、The Avalanchesあたりが好きな人にも刺さりそうなグッドミュージック。

6. J Hus/Big Conspiracy

2017年のデビュー作「Common Sense」も高評価だったUKラッパーの2ndアルバム。前作にあったダンスホール要素や押しの強いトラックはやや後退し、アフロビートやレゲエ、R&Bを取り入れながら、洗練の極みを見せている。ブラックミュージックの豊かな参照点を軽やかに行き来しながら極上のラップを聞かせる贅沢極まりないアルバム。J Hus は本作で全英1位を獲得。

5.Mura Masa/R.Y.C.

フレットの押さえが甘く、ビリビリ震えるギターリフが印象的なM1にはじまり、まるでパンクバンドのように青臭いトラックが頻出するイギリスの新鋭トラックメーカーの2nd。タイトルも「No Hope Generation」「Teenage Headache Dream」といった、思わず面映くなるものが並ぶ。アンプを通さずにPC上だけで再現された『インディーバンド』の音像は、ボロボロのジャズコーラスやその上に置かれたビールの缶が浮かぶほどあまりにもリアルで「集合」を禁止された2020年の耳に魅惑的に鳴り響く。

4.Tom Misch & Yussef Dayes/What Kinda Music

イギリスのネオソウルの旗手・Tom Mischと、新進気鋭UKジャズのドラマー・Yussef Dayesのコラボユニット。ファーストアルバムの頃からいい曲書きまくりのTom Mischの抑揚の効いたChillyなソウルミュージックに、Yussef Dayesの個性的なドラミングがダイナミックに絡み合い、奔流となって耳に飛び込んでくる。惜しげもなく現れる印象的なフレーズで、BGMに収まらない強烈な求心力を持った1枚。

3.Moment Joon/Passport & Garcon

なみちえやKazuoなど、グローバルな出自を持つ日本語ラッパーの名作が多数リリースされた本年、もっとも注目を集めた1枚。イデオロギーの左右対立に飲み込まれず、日本社会の欺瞞や違和感を挑発する。語る言葉語る言葉全てが切実で、不穏な知性に彩られている。ただ自分の居場所を求めることが極めて政治的な行動と見做される矛盾と悲哀が、甲高い声から動脈血のように流れ落ちている。

2.Chassol/Ludi

道行く人の雑談や、知らない国の言語など、音楽以前の音に伴奏を合わせ(突然変拍子多数!)洒脱な音楽へと変貌させるフランスの奇才現代音楽家の2nd。センスがいいとか前衛的とかの以前に、突拍子もないフレーズが小動物のようにぴょんぴょん登場してくるのがキュートすぎて思わず笑ってしまう。どれも変態楽曲なんだけど、根っから陽気な感じがなんとなくフランスっぽい。

1.Tigran Hamasyan/The Call Within

イスラエルのジャズピアニスト渾身のアルバム。これまでのアルバムは静謐な楽曲と、変拍子変態ジャズが混在してたんだけと、今作は全曲フルスロットルの変拍子キメまくりジャズで、とにかく濃厚すぎる。Animals As Leadersのギタリスト・Tosin Abasiが参加していたり、メタルっぽいアプローチもあるにはあるけど、あくまで前線で暴れ回るのがひたすらピアノなのがカッコいい。

今年後半はどんどんジャズへの関心が高まったこともあり、ジャズとヒップホップが二強のランキングになりました。ほかにもThe Avalanches, Wajatta, Moses Boyd, Onipa, Kazuo, Deadelus, Waaju, Video Age, Zara McFarlane, HUMAN ERROR CLUB, YUKIKA, Oneohtrix Point Never, Arcaのアルバムがとってもとっても良かったです。

あと今年の個人的ベストJ-POP賞は、ダントツでaikoの青空に授与します!


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