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あきれてものも言えないとはこのことか  ~楽天が勧める「全国民のセルフPCR検査」報道を受けて

楽天を率いる三木谷さんが、ドヤ顔で「全国民のセルフPCR検査」を政府に勧めていたらしいことがわかった。

特定の誰かを非難することはなるべく避けたいのだが、さすがにここまでくると、医療ライター界(なんてものがあるのか知らないが)の端っこにいる私も三木谷さんに対して「どうかお静かに」と申し上げたくなる。この人、何かをしたいのはわかるが、口を出さずに金だけ出すことはできないものか。

はじめに言っておくと、私は本件について、上記記事を書かれた岩永さんの論調に完全に同意だ。微妙なPCR検査キットでセルフ検査とか、やっていいわけがない。熱しすぎて炎が上がった油を消火しようとして、水をぶっかけるようなものだ。

間違っていることが多すぎて、どこから指摘したらいいのかわからないくらいだが、ひとまずはっきりと否定しておきたいのは大きく以下の2点だ。

セルフ検査がダメ

バズフィードの記事でも指摘されているが、セルフでこの検査を行っていいわけがない。正しく検体を採取できることはほぼなく、何もついていない綿棒をひたすら検査することになるのがオチだろう。検査の感度(正しく陽性を判定できる割合)、特異度(正しく陰性を判断できる割合)がどうこうという以前の話だ。

コロナのPCR検査とは少し違うが、同じような例に子宮頸がんの自己細胞診というものがある。

子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスによって発生するがんで、子宮頸がんの検診は、日本では国が推奨するがん検診のひとつだ。子宮頸部の細胞をこすり取り、HPVに感染していないかを検査する。通常、検体の採取は婦人科医によって行われるが、ごくまれに、自分で検体を採取する自己細胞診が健診のメニューに含まれていることがある。婦人科の受診が恥ずかしい人でも受診できるように…という配慮によってできたものかもしれないが、先日、がん検診の記事を書く際に取材したところ、「自己細胞診はほとんど意味がない」という話を聞いた。自己採取で正しく検体を取れているケースは、ほぼないらしい。

比較的、検体採取がしやすいとされる子宮頸がんでさえ、こうだ。それよりもさらに痛みを伴うPCR検査で、うまくいくわけがない。大金を使って、意味のない検査を大量に行うのってどうなんだろう。

自己採取でなんとかなるのは尿検査と便検査くらいではないだろうか。

全員がやるのがダメ

医療の世界では、病気の人に対してする医療行為と、それ以外の人に対するものとを明確に分けている。前者は治療であるが、後者は違う。病気の症状がある人に対し、病気の原因などを知るために行う血液検査は治療の一環で保険診療でもあるが、血液型を知りたいためだけに行うそれは、治療ではない。

治療として行うのと、そうでないのとでは正直、検査の信頼度も変わってくる。簡単に言えば、正しい結果を得られる確率が低くなる。

また医療行為は、それによって得られるメリットとデメリットとをてんびんにかけ、メリットが上回る時にだけ行われる。症状がない人に対して、粘膜を傷つけるおそれをはじめ、いくつかのリスクがあるPCR検査の検体採取を行うのが、果たして医療的に正しいのかどうか疑問だ。

症状の有無にかかわらず、全員にPCR検査をしないのは、医療崩壊以前にこうした医療の原則を考慮してのこと。検査は「やればいい」というものではない。


この事態に何かをしたい気持ちはわかる。わかるけれど、それが果たして本当に望まれていて、適切なことなのか、大きな企業の偉い方なら、周囲の意見を聞き、その上でさらに考えてから提案されるのがよいのではないだろうか。若手社員が思いつきで作ったような提案では、みんなが困ってしまうだけだ。



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医療、とくに不妊、妊娠、出産など女性の健康にまつわることを伝えるライターをしつつ、「どうやったら来世で“金持ちの家で飼われている猫”に生まれ変われるか」を考えながら日々生きています。左投げ左打ち。Twitterはやってません。
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