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中島みゆき『36.5℃』

 初めて買ったCDは、1986年の11月に発売された、中島みゆきの『36.5℃』である。それまで私は、ずっとLP盤を買っていたのだが、ちょうどこの時にCDとやらが発売され、その音質の良さはレコードとは全然違う、と聞いて、時代に乗らねば、と購入したのだった。

 しかし、当時の私はまだCDプレイヤーを持っていなかった。お小遣いもそこまで貯まっていなかった。おまけに受験生だった。そこで、大学に合格したらCDプレイヤーをお祝いに買ってもらうこととし、それまではひたすら光にCDをかざして「音鳴れへんかなあ」と思っていた。(一昨年、高校の同窓会があって、卒業以来初めて参加してみた。そこで久しぶりにあった同級生に「中島みゆき好きやったよねえ、CD持ってきて教室の電気にかざしてたよねえ」と言われ、学校にまで持っていくとは、どこまでアホやねん、と思った。)音が聞けない代わりに歌詞カードを読んでじっくり味わっていたのだが、LP盤に比べて字も写真も小さいことが、不満といえば不満だった。浪人したら一年以上聴けない、と思ったものの、幸いにも合格し、4月に晴れて曲を聴くことができた。

 『36.5℃』はみゆきさんが色々と模索していた頃のアルバムで、本人は後ほど「ご乱心時代」などと振り返っているし、「前の方がよかった」という人も多かったけれど、私はみゆきさんが試みるならどこまでも見届けましょう、と思っていたので、何とも思わなかった。最後に収められている『白鳥の歌が聴こえる』は名曲で、87年の3月のオールナイトニッポン最終回のラストでも流れたが、アルバムとは微妙にアレンジが違っていた。「今までありがとう!」と思いながらも、イントロのリズムが違う、と思いながら聞いたことを懐かしく思い出す。そしてこの年に東京国技館で行われたコンサートでも、ラジオの方のアレンジでこの歌が歌われたことも、くっきり覚えている。

 そしてCDの音質についてだが、この『36.5℃』を皮切りに、私は、LP盤で揃えていた中島みゆきのアルバムを、すべてCDに買い直していった。そこで『うらみ・ます』所収の「蕎麦屋」のギターによるイントロが、CDだとちょっと薄っぺらいというか、深みがないような気がする、と思った。しかしその頃つきあっていた理系の男に「そんなもの、人間の耳では聞き分けられない」と言われ、そんなものなのかな、と思い直したのだった。後日、LPを聴いているときの方がリラックスした脳波が出る、というデータを知り、「ケッ」と思った。(この男は現在の夫だが、理系の男は文系の女に対し、しばしばデータを盾にハッタリをかます、と私は思っている。)

 というわけで、「お題」を見たら急に過去の思い出がゾロゾロと蘇ってきたけれど、多分お題の意図は「最初に買った『音の出る円盤状のもの』」であって、LP 対 CDではないんだろうな、と思う。

 




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