見出し画像

はぐれ言語聴覚士の挑戦(セラピスト開業マガジン創刊に寄せて)

こんにちは。言語聴覚士の寺田奈々です。
ことばときこえの専門家、言語聴覚士として、2020年の春から台東区蔵前でことばの相談室ことりを主宰しています。

そんな開業初年度、ほやほやフリーランスのわたしですが、狭い業界のなかではそれなりに目立ってしまうもので。「開業に興味があります」という同業者さんから、ぽつぽつとお問い合わせをいただくようになりました。

とはいえ、個人でお客さんを受けるようになってまだ1年足らず。
偉そうに語れるだけの経験を持ち合わせているわけではありません。

それに、自営業者としてスタートを切ったばかりの身としては、競合をわざわざ増やす必要もないのでは?という考えもないわけではありません(※これは、業界のためにならないな…と思い直しました)。

さて。いま、このタイミングで情報が欲しい方にお伝えできること、自分がお伝えしたいと本心から思えることあるのでしょうか。

知名度が低いのは誰のせい?

現在、言語聴覚士は日本全国で4万人。理学療法士が15万人、作業療法士が7万人、それにくらべれば決して多いとはいえません。美容師は21万人、歯科衛生士は8万人。(我々の職能人数に近い数字はないかなと探したところ、弁護士は全国で4万人ほどだそうです。)

それを聞いて、希少性がとても高く、多くの人から希求されている職業人・・・そんなイメージを持つ人も居るのかもしれません。

ところが、イメージもなにも、実際には「そんな職業聞いたことない」からはじまります。がっかりするほど知名度が低いのです。アレコレ説明すると、ふーん、と聞いてくれます。まあまあ関心を寄せてくれる人もいます。

それでは、理想と現実、実際には専門職として世の中からどのように頼りにされているのでしょうか。

我々、言語聴覚士は専門職として自分たちのスキルに高い自負を持ち、この仕事に熱意を持ち、日々の臨床にあたります。しかしどこか、「自分たちの仕事が世の中に知られていないことを世の中のせいにしている」ところがあるような気がします。わたしは、だんだん疑問を持つようになりました。

専門技能が右手だとしたら

専門技能と専門知識が右手だとしたら、その職能の役割や世の中でできることを知っていただく活動・社会の役割を担っていくための営業・PR活動は左手にあたります。社会とどういった関係を結んでいくか、社会の在りかたに合わせてどう役に立っていくことができるか?自分たちで考えることも職能としての大切な仕事なのではないでしょうか。

"外からの風"が吹くところなのに

言語聴覚士に限らず、医療系国家資格は世間が不景気になると志望者が増えます。とくに就職氷河期やリーマン氷河期の時期に社会に出た人のなかには驚くほど優秀な人たちが居て、運よく(運悪く?)言語聴覚士の資格を取り再就職をされていきます。

看護師や理学療法士など、ストレートに養成校に入り資格を取得した叩き上げの人が多いほかの医療系職種にくらべれば、大卒2年課程の比率が高い言語聴覚士は、"外の風"が入ってきやすいという強みを持ちます。けれども、個人的には職能全体がそのポテンシャルをまだまだフルで活かしきれていないように感じます。

養成校時代、新人として回復期病院ではたらいた時期、実習生の指導に携わった時期、と、短い職業人経験の過程のなかでも、さまざまな現場を見ることができました。そのなかで、表現が悪いかもしれませんが、"こっち側"のやり方や考えに染めるトップダウン式の指導が多く、せっかく言語聴覚士を仕事として選んでくださった方々をガッカリさせてしまう・自分の考えを押し込めながら馴染んでいく努力を強いる現場を、数多く目にしてきました。「あなたはST向いていないよ」と言う同じ口で、言語聴覚士の知名度が低い、人数が少ない、スポットライトが当たらないと嘆く様子を目の当たりにしてきました。なかには、厳しい指導に耐えかねて、その道を諦めてしまう人も。

もちろん、言語聴覚療法はとても奥が深く、医療の枠組みをはるかに超えた探求の可能性があります。その景色を知っている先生方は、ついつい、指導に熱が入りがちです。ただ、言語聴覚士の"ナカ"でものごとを考える習慣が強固になりすぎる=右手ががんばりすぎると、言語聴覚士が世の中でどうのように求められ、どんなはたらきを担っていくのか考える=左手が退屈してしまいます。

開業STとして社会とかかわっていけること

わたしは、言語聴覚士という職能集団と社会との関係において、自己研鑽や切磋琢磨のサイクルが芽生え、豊かな土壌が育っていくことを望みます。他人の能力を妬み、経験年数や知識の過多で同僚にマウントを取り、間違いを指摘されることに萎縮し、互いの足の引っ張り合いをするような、サバイバルが必要な荒れ野のなかで業界に失望していく人をもう見たくはありません

同じエネルギーを使うなら、肥沃な大地を潤し、必要な人に必要な技術をお届けできる、そんな職能集団でありたい・あってほしいです。それがわたしの大好きな、言語聴覚士だと思います。

わたしはよく「変わってるね」と言われます。独学で絵やデザインを学び、教材を作り、マーケティングを学んで商品に値段を付け、販売し、利益を上げ、その売上でことばの相談室ことりという相談室を開業しました。

そんな、わたしのような変わり者の「はぐれ言語聴覚士」が、ささやかながら刺激剤となり、3年後、5年後、オモシロい人が私たちの業界から登場してくれたらいいなと思います。

まずはその足掛かりとして、自分の取り組みを記したnoteがお役に立てば。
そうした想いで「開業シリーズ」をはじめることにしました。
noteの場を借り、開業やわたしの「言語聴覚士業」アレコレをお伝えしていければと思っています。

ビジョンというほど大仰なものではありませんが、教材をつくり、相談室をつくり、今まで受けたことのなかった相談をたくさん受けるようになり、社会とどう関係していくかを考える言語聴覚士でありたいなと思うようになりました。そうしたことを、ステークホルダー(利害関係者)のみなさんと一緒に考えていけたらと思います。

開業マガジン

執筆の応援として、購読いただけると励みになります。
どうぞ、よろしくお願いいたします。

※ このnoteは「買い切りマガジン」形式で販売をいたします。
開業シリーズは15〜20篇くらいの編数を想定し、ただいま執筆を進めています。すでに執筆を完了した、開業に関係する有料note記事についても、このマガジンを購入すると読むことができます。
単品購入では各記事300円、マガジンを購入すると3,000円で読むことができます。10編以上の構成となるので、マガジン購入がお得です。

ここから先は

0字
全部で32篇の記事を執筆しました。 一度購入すれば、マガジン内に以後追加されていく記事もすべて読むことができます。 各記事を単体購入すると300円ですが、マガジンを購入するとまとめ買いでちょっぴりおトクです。

教室開業・言語聴覚士開業に興味がある・開業したい|小児発達障害吃音臨床の仕事をしたい|個人事業主やフリーランスに関心がある|などの人に向け…

いただいたサポートは、ことばの相談室ことりの教材・教具の購入に充てさせていただきます。