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言語聴覚士が摂食嚥下療法を医師または歯科医師の指示なく実施するのは違法です

こんにちは。
表題の件について、注意喚起をしている人がほんとに誰も居ないので(協会だいじょうぶか????)、ちょっとnoteを書いてみることにしました。

普段は、学級会のガミガミ委員長みたいな、自警団的なノリ自体あまり好きじゃないので、法律の範囲内でうまく自由になんでもやったらいいんじゃないかと思っているのですが、最近のインターネットの状況をみるとマジで知らない人が知らないまま「嚥下で開業」に突っ走ってしまっているんじゃないだろうかと気になっているので、知ってるんだよね???と思って書きます。
STKOTORIの発信に本記事が必要ないなと思ったら消します。

嚥下訓練には医師又は歯科医師の指示が必要

言語聴覚士法には、

第四十二条
言語聴覚士は、保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第三十一条第一項及び第三十二条の規定にかかわらず、診療の補助として、医師又は歯科医師の指示の下に、嚥下訓練人工内耳の調整その他厚生労働省令で定める行為を行うことを業とすることができる。

言語聴覚士法 より抜粋

と書かれています。

そうなんです。摂食嚥下療法(嚥下訓練)は医療行為なので、医師又は歯科医師の指示が必要です。

もし言語聴覚士が独自に嚥下訓練をやった場合

「医療行為」であると判断された場合には以下に該当する可能性があります。

〇〔医師でない者の医業禁止〕
第十七条 医師でなければ、医業をなしてはならない。
〇第六章 罰則
第三十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第十七条の規定に違反した者
二 虚偽又は不正の事実に基づいて医師免許を受けた者

2 前項第一号の罪を犯した者が、医師又はこれに類似した名称を用いたものであるときは、三年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

「医師法」「第六章 罰則」より抜粋


オンライン相談は?間接訓練は?離乳食は?環境設定は?専門具の販売は?他の職種はやってるんだけど!?


とはいえ、こうした声が聞こえてきそうです。
ーーー
「言語療法をしているときに、話の流れで食事の話題になることがあるんだけど!」
「直接訓練をするのはNGだけど、相談ならOKって聞いた!」
「他の職種はよく離乳食相談とか乗ってるじゃん!」
ーーー
こういうものです。
正直、知らん。という感じです。

率直に、言語聴覚士は「言語」や「音声」などで開業でき、医療の外で充分に活動の幅があるわけなので、わざわざリスクを取って医療行為スレスレのところに近づく必要がまず無いのでは?と感じます。
私の場合、食事にかんするご相談をいただいた場合、まずは「病院のリハビリ科」、「訪問リハビリテーション」のSTのご利用または「嚥下療法を実施している歯科」のご利用を進めます。
また、法律でこのように決まっている、ということをお伝えした上で、助言は一般的な話題(発音の獲得と嚥下機能の獲得には深い関係がある、 等)に留めます。

それでも嚥下で開業したい?

それでも、摂食嚥下が一番得意だから、合法のキワを狙って開業したいというならば止めません。
インスタグラムには、摂食嚥下の相談をオンラインやメール・LINEで受けますという人が、2022年3月現在、なんかたくさんいます(まじか・・・)。

ただ、法律をどう解釈するか、の細かな点について議論の俎上に上げたいならば、"ちゃんと"進めていくべきだと考えます。
個人間でいくら話し合っても答えは出ませんし、グレーな商売に大きな未来は描けません(=たとえばマスメディアから取材が来たり、公的な機関と提携をしていくようなことは難しいでしょう)。
医療行為外として、「食事」や「食べること」、「摂食・嚥下」の業界を作っていきたいならば、弁護士などを入れ、職能団体としてリーダーシップを取り、ガイドラインなり提起していくべきではないでしょうか。
または、医師又は歯科医師をメンバーに入れて起業をされてみてはいかがでしょうか。「監修」や「提携」という形が取れるとまた話は違ってくるかと思います。
こうしたことは、社会の合意形成が積み重なっていくべき領域であり、ひとりの個人事業主(フリーランス)の個人プレーの手には余るところかと思います。

少数の人が大幅に踏み越えてたケースが何かの拍子に悪目立ちした結果、業界全体の規制がとても厳しくなってしまい、現場の人が動きづらくなってしまう。患者さん・利用者さんの不利益になる、という自体もままあり得ることだと思います。同じ業界内の人間は相互に治安維持の責任を負っています。

なぜ、嚥下訓練が医療行為なのか

そもそも、なぜ嚥下訓練が医療行為なのでしょうか。それは、誤嚥・窒息のリスク/危険を伴う行為だからです。
ルールで定められているから窮屈、という視点ではなく、患者さん・利用者さん・一般市民の安全を守るために定められているルールであることを理解したいものですね。

助言だから、ただの離乳食だから、オンラインでの相談なので、本人には手を触れず、実施するのは親や家族だから、ということをおっしゃる方、なにか事故があったときにどのように責任を取る用意があるでしょうか。
法律の専門家に、日頃相談はされていますか。契約書にはどのような記載をされているでしょうか。

さいごに

この記事について、ご質問や正確性の問い合わせ等は一切お受けしておりません。
各自お調べいただくか、しかるべき専門機関にお問い合わせください。

追記

フリーランスや起業の文脈ではなく、医師または歯科医師の居ない職場に勤めている場合にはどうすればいいのか、(デイサービスや保育所、学校など)というご質問があがりました。
おっしゃる通り、どうするんでしょうね。

主治医がいる場合(療育手帳を取得している小児さんや介護保険を使用している高齢者さん)であれば、主治医が別の施設である場合にも何らかの連携が取れることが望ましいかと思います。ただ、日々の業務に忙殺されてそんなこといちいちやって居られない…というケースがあるのだと思います。
それを「しょうがない」「みんなそうしているし」としてもよいのか、よくないのか、というのはこの記事の範疇を超えます。

また、「上長が言語聴覚士法の存在を知らずに、STに食事に関する介入の指示ををする」場合においては、言語聴覚士が「摂食嚥下訓練は医療行為であること」を上長に知らせる責任(義務?)があると思います。もし知らせなかった場合に、最悪の場合には、未必の故意というやつにあたるのかな?法律に明るくないのでよく知りません。

上司や施設の定めた介入ルールと、国が定めた法律のどちらが上位かといえばそりゃもちろん法律のほうなので、都度都度必要なプロセスを踏んでいく必要があるんじゃないですかね。現場感覚とズレたことを言ってる感じになっていたら若干申し訳ないですが。

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