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「セラとチーム・スペード」の感想(ネタバレあり)

シネマクティフ東京支部さんでやっているPodcastの「Diggin' Amazon Prime Video」というコーナーに参加させて頂いていて、そちらのお題になった作品。
ちなみにこちら↓では、ネタバレ無しでお話しさせてもらっていますので、よろしくお願い致します。↓



世界観の語り口

舞台は閉鎖的な名門校で生徒達が作った5つの組織が学校を牛耳っているというのが説明されて、そのトップの生徒達の似顔絵付きで紹介が冒頭で唐突にされて映画が始まる。何が何やら分からないまま、いきなり情報量が多くて面食らうのだけど、この辺の語り口が冒頭からお洒落で面白い。

なんとなくそれぞれのチームの説明から始まるのでHIGH&LOWみたいな権力争いの話なのかなぁと思って聞いていたらそういう予想をわかっているみたいにナレーションの最後で「これは地下組織の話じゃなくてあくまでセラの話だ」という言葉で終わる。

閉鎖的な高校の独特な閉塞感や、それを取り仕切る組織の描き方や、結構ヤバいお金儲けをしてる事とか、世界観だけで面白い要素が沢山あるのに、ナレーションの言う通りセラという女の子の友人との関係や、母親との確執など、振り返ると描いていること自体は一人の小さい青春物語映画になっている。

この高校に転入生であるパロマが入ってくるのだけど、セラの右腕になっていくこの外部からの人間である彼女の目線で映画を語っていくのが普通だと思うし、そういう要素もあるのだけど、あくまでこの組織の中でカリスマ性をもっているセラの目線で映画は進んでいくのが逆に面白いと思う。

画のこだわり

映像的なこだわりが強い感じでどこを切り取ってもかっこいい画作りになっている。それぞれのチームがどういう人たちがいてどういうカラーなのかを示す様な決め画的なカットが中盤で入るのだけど、そこらへんもビシッとし過ぎてちょっとHIGH&LOW思い出したりして笑っちゃう。まあかっこいいのだけど。

あと印象的なパロマに写真を撮られながら語りかけているであろうセラの17歳についてのポエム的な宣言シーン。
写真を撮られる事という行為に対して、バリバリ決まった顔で自分への絶対的な自信とその裏に見え隠れする危うさを体現していて思わず引き込まれる。
写真を撮るパロマに語りかけているんだけど、まるで映画を観てるこちらに語りかけてきている様なちょっとクラっとする感覚があって映画的で面白い。

セラ

カリスマ性をありながらそばにいる人を束縛してしまい、それ故にトラブルを起こしてしまう。

彼女と母親との関係がとても面白い。
映画の前半では彼女が母親に縛られているからこそ、組織内の人間を支配しようとしてしまうという構図にも見えるのだけど、中盤で母親が彼女に語る「川の向こう岸にわたる為にカエルの背中に乗せてもらうお願いをするサソリの話」がとても象徴的に彼女の未来を暗示しているみたいだ。
だから逆に母親だけは彼女の自分で自分をコントロール出来なくて他人を傷つけてしまう彼女の本質を理解していてそれ故に縛り付けるしかない、という風にも見える。

ラストは結局母親が話したサソリの様に大切なはずな人を勝手に見限り傷つけてしまう展開になり、そこから彼女が完全に成長したという描き方はしていないのだけど、ラストの視線の動かし方で何かが彼女の中で変わったのを示すように映画が終わっていくのが、くどくなくてとても上品な後味。

パロマ

彼女の背景みたいなものはあまり描かれず、どちらかというとこの高校の事を何も分からない映画を観ている僕らの視線と同じような真っ新なキャラクター。
彼女が途中でセラの様なやり方ではなく、これまで分断されていたグループをまとめ団結しようと動いていく展開は感動的にも出来そうなのに、かつての彼女と同じく皆の中で存在感を増してセラに潰されてしまったティーラとと同じ危険が彼女にも迫っているサスペンス的な描き方になっている気がした。そしてドラッグを盛られてえらい事になっていくのだけど、彼女の見ている映像のトリップ感の撮り方がホラー映画的な不穏さがあって見入ってしまった。監督であるタヤリシャ・ポー、今回初めて観たけどどのシーンも演出が上手くて常に不安な気持ちにさせてくる画が印象的なので次回作はホラー映画とか凄い作品を撮ってくれそう。


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