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「女神の継承」の感想(ネタバレあり)


分からない事の怖さ

今作のプロデューサーであるナ・ホンジンの監督作「哭声/コクソン」とも通じる異常事態なのは分かるけど呪いみたいなものに対し、何が効いてて何が事態を悪化させているのか観ているこちらにちゃんと判断が出来ないのがずっとクラクラしてくる。
祈祷ばっかりで実際に何が起きているのか分からないし、つまらないと思う人も居ると思うのだけど、僕はその分からない状態こそが楽しい作品だった。

ミンが何かに取り憑かれ、祈祷師であるニムが原因を探っていくのだけど、悪霊の正体を探る過程からして、色んな事をしてるのに最後まで翻弄され、振り返るともう映画が始まった最初から何をしても詰んでいたと思えるのが辛い。

登場人物それぞれに後悔や大切なモノを持って生きている庶民として僕らと同じ様な人生を感じさせる描き方をしているからこそ、こちらの理解を超えた存在によく分からないまま踏み躙られいく様な後味がとても怖かった。

ホラー映画としてのサービス精神

祈祷対決的な面白さだけじゃなく、ラストに向けどんどんテンションが上がっていきぶち込まれていくホラー描写の数々も観ていて楽しかった。

前半は何が原因で何をすれば解決に向かうのか?を探っていく中、更に余計な祈祷で霊が追加されミンが失踪して「この映画どう収拾していくんだろか」と思ったあたりで、後半から最高におどろおどろしい廃墟を見つけそこで祈祷することによって悪霊と闘うという凄く分かり易くて熱い展開になっていく。

そこに至る準備期間と祈祷当日のシーンが本当にホラー映画としてサービス満点という感じで最高。

まず祈祷準備期間の家での固定カメラを設置してミンが普段何をしているのか覗くシークエンス。
寝静まった家でカメラを設置し何が起こっているのかを後で見て時間差で怖くなってくるというPOV形式のホラーだと定番の描写なのだけど印象的なシーンが沢山あってここからして最高だった。
階段を上る母の下から闇の中ゆっくり浮かび上がるミンの禍々しい顔、急にカメラの横から顔を出してくるビックリシーン、トラウマになる犬ちゃんの描写、兄の嫁さんや子供に対しての怖すぎる危害等々、胸糞悪くなるような描写のオンパレード。
後、ここで兄夫婦が別の場所に避難する選択を取らないというのがかなり意外で面白くて、普通はこの兄の奥さんと息子は別の場所に退避すると思うのだけど、家族の危機にみんなで絶対団結するタイのお国柄的な価値観なのかなぁ。
それが後々最悪の形で完全に裏目に出るのだけど・・・。

そしてラストの祈祷シーンでの盛り上げと、それが大失敗に終わった後、悪霊の伝染によって「こんだけ人数居れば大丈夫かもしれない」と頼もしく見えた祈祷師のほとんどがゾンビ化する流れが、あまりにブラックジョーク過ぎて笑ってしまう絶望感。
ここまでハイテンションな悲劇だと、逆に気持ちよい位の感覚でこんだけサービス満点のホラー映画をありがとうございますと感謝したくなる位最悪だった。

ニム

中盤までは彼女が主人公でこの映画のエクソシストポジションなのだけど、頼りになるんだか、ならないんだか絶妙なバランスのキャラクターでそこが面白い。

巫女をやりながらも服飾系の学校に行ってた時の夢の残骸を示す様に裁縫の仕事を小さく受け付けているのとかを見ると切ない。
血筋の呪いみたいなモノに対し彼女は人生を犠牲にした訳だけど、彼女が受け継いでも姉の方が拒んだ時点でこの家族の行く末は詰んでいるのが観終わって振り返ると悲しい。

そして映画のラストに彼女が言う言葉が本当に救いが無くて、痺れる。
ミンのいる場所を探しあてたり巫女として不思議な力は持っているし、彼女に救われてきた人は沢山いるのだろうけど、彼女自身が自分の人生の意味を見出せていない感じが本当気の毒だ。

迷いを振り払う様に生きてきたのに、ミンに取り憑いた悪霊に言われた言葉にやっぱり精神がグラグラで、その弱さを付かれる様に亡くなる所は思わず声を出してしまう位驚いた。

ミン

最初のアジア圏のどこにでもいそうな雰囲気なギャルOL的な雰囲気からこの世ならざる者へとだんだん変容していく過程が凄まじい。

後半の獣に取りつかれた辺りはもうあっち側って感じなのだけど、まだ彼女の自我が残っている状態の所がかなり観ていて辛い。とにかく体の調子が悪い感じの気の毒さや、突発的に人を傷つける行動をとってしまう怖さ(特に子供が遊んでる中小さい子供を突き飛ばす所はめちゃくちゃドキドキしてしまった)、そういう変化に対して彼女自身も傷ついているのが分かる様にジッとカメラの向こうのこちら側に訴えかける様に涙を流すシーンが切ない。

そしてこの変化を丁寧に演じ切ったナリルヤ・グルモンコルペチの演技の迫力にただただ圧倒される。舞台挨拶の様子とか見るとやっぱりめちゃくちゃ綺麗な女優さんで映画で良かった・・・という気分になった。

ノイ

おそらく彼女が巫女を嫌がって妹に押し付けなければ、ここまでの惨劇は起こらなかった訳で、この映画の悲劇の始まりになっている。
もちろんだからといって自分の人生を生きる事を選んだ彼女の選択を誰も責める事は出来ないし、そもそもこの血筋に生まれた時点でもう詰んでいるとも言えて本当救いがない。
この一個人の意志ではどうやったって抗う事が出来ない大きい宿命の中で、自由を選ぶだけでここまでの代償を伴わなければいけない血筋の不条理みたいな部分で言うと「へレディタリー継承」と通じるアリ・アスターの作風とも近い怖さだと思った。

ラストの実際に何かが降りてきて彼女が言う「女神の存在」を本当に感じられたのかどうかは見ているこちらは分からないのだけど、(個人的にはニムが彼女を励ますために言った言葉を信じてそういう気分になっただけな気がして、そうならより救いがないなぁ・・・)どちらにしてもこの時点ではもう全てが遅くて、最後は正気に戻ってミンに殺される展開が鬼過ぎてクラクラする。

全体としてドキュメンタリーにしては見やす過ぎるし、画作りとかはしっかりしていて劇映画的な感じだし、カメラがあるにしては登場人物が自然過ぎるし、そこまでちゃんとPOVホラーとして密着番組の体はとってないのだけど、この設定のおかげで面白がって外から観ている僕らの目線にまで危害がくる様な恐怖があってすごく良かった。

撮影クルーが襲われる直前にミンに言われる「私が撮ってあげる」というセリフがめちゃくちゃゾクッとして素晴らしかった。

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