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皮革産業の歴史から技術まで徹底解説!O-Roundに行ってみました!(イベントレポート#4)

こんにちは!
南海電鉄沿線価値向上PJです!

2024年11月8日(金)~10日(日)に、大阪市浪速区・西成区で靴と皮革の祭典「O-Round」が開催されました。

私たちも、計4会場にて参加・体験。
この記事では、参加して改めて気づいた“皮革産業のまち なにわ・にしなり”の歴史・文化・技術・そして働く人の想いまで、盛りだくさんで紹介します。

O-Roundの案内パンフレット

O-Roundへの想い:大山一哲実行委員長より

O-Roundは、実行委員長:大山 一哲(おおやま いってつ)さんの考えから計画が始まり、経済産業省の補助金を獲得してスタートしました。

『誰かの何かのきっかけになれば。』

「初めて浅草のA-Roundに参加したときに、TTP※したい!と思ったのがきかっけです。すぐにA-Roundさんにお話をしたところ、『それなら情報共有もしながら一緒にやろう!』と言ってくださったんです。」
※TTP…徹底的にパクる、の頭文字。

「西成・浪速の先人が300年以上も前から紡いできてくれたおかげで、今も当たり前のように革や靴の仕事ができています。」

「ただ、地元・西成区、浪速区でも、ここが靴の産地であると知っている人はあまりいません。ましてや日本、世界という単位で見ると、ほとんど知られていないのが現状です。」

「新しい形のイベントとしてO-Roundを開催することで、先人への感謝だけでなく、紡がれてきた歴史文化を未来の子どもたちに繋いでいきたいと考えました。」

 「そこで、昨年(2023年)に初めて展示販売会という形でO-Roundを開催し、今年(2024年)は工場を公開する“オープンファクトリー”にも挑戦しました。」

大山さんの想いはこちらのYoutube動画でもご覧いただけます!

O-Roundとは

O-Roundは11月8日(金)~10日(日)に開催されました。
このうち、11月8日(金)は「オープンファクトリーの日」、11月9日(土)、10日(日)は「展示販売会の日」です。

職人が製作現場を公開する「オープンファクトリー」を開催した企業さんは全部で13社。全て、浪速区・西成区にて革のなめしや革靴製作などの皮革産業を営んでおられます。

これらの企業さんを巡るツアーが全部で6コースあり、私たちは西天下茶屋駅を出発する『伝統と今を繋ぐコース』に参加。
太鼓革のなめしを行う中本商店さん、革靴を製作するモデナさんを見学しました。

また、週末の展示販売会は2会場※で開催され、皮革産業者以外にも、同エリアで活躍する飲食店なども出展。
こちらも参加しましたので、レポートしていきます。

※2会場…①にしなり会場@西成高校 ②あしはらばし会場@A’ワーク創造館

 

レポート:日本最古の太鼓革の手法!「中本商店」さんのオープンファクトリー


集合場所の南海汐見橋線 西天下茶屋駅

オープンファクトリーの日の朝です。
私が参加した『伝統と今を繋ぐコース』の集合場所は、南海 西天下茶屋駅。参加したのは、なんと10名の定員を超える13名もの皆さま!

「革のなめし」を目にする機会なんて、普段なかなかありまんよね。
未知の体験に皆さんワクワク(少しドキドキも)しておられるようです。

「O-Round」のぼりが立つ、中本商店さんの外観

ワクワクしながら歩いていくと、見えてきたのが「中本商店」さん。
ここでは、なんと50年以上もこの場所で「原皮業」と太鼓革の「なめし業」を営んでおられます。
さらにその歴史を遡ると、新なにわ筋ができる前は芦原橋でも事業を営んでおられたとのことで、トータルなんと100年近く!

一歩足を踏み入れると、大きな工場が!

その重みある歴史を肌で感じながら、オープンファクトリーがスタートしました。

(豆知識)
原皮(げんぴ)とは、革の製造原料となる加工前の皮のこと。
原皮業とは、食肉加工場などで解体された肉や皮のうち、皮の部分を入荷し腐らないように保管する作業のこと。
入荷した原皮には、肉片や脂肪などが付着しているため、それらを取り除き、腐らないように一枚一枚丁寧に塩で漬け、腐らないように皮の水分と血管の血液を抜く作業を行います。

なめしとは、原皮に様々な加工を加えることで、安定した素材としての「革」にしていく工程のこと。漢字は「鞣」。

皮が革になるまで

今回は、牛の原皮の状態と、太鼓革のなめしの工程、皮をなめしてできる本物の太鼓革を見せていただきました。
中本商店さんのなめし技術は、日本で一番古い乾皮を使った手法。
早速、写真と共に見ていきましょう。

塩漬けにされた原皮

まずは原皮。
沢山の塩に漬けられた原皮が目に飛び込んできます。
これが本当に革になるのか…想像ができません。

ここで印象的だったのは、塩へのこだわり。
原皮は腐らないように塩漬けにしておく必要があるのですが、塩化カルシウムなど安価なもので漬けると皮が傷んでしまうのだそうで、塩にも職人さんのこだわりが詰まっています。

繁忙期には倉庫いっぱいに積みあがるのだそう。
一度は絶対に見てみたい光景です。

続いては原皮を太鼓革に変身させる「なめし」の工程。
まさに職人技の見せどころです。

工程は下記の順で行われます。

1.水洗い

塩漬けされた原皮を大きな樽で水洗い。まるで洗濯機のようです!

2.毛抜き作業
3日ほどかけてアルカリ性の薬剤を用いて毛抜き作業を行います。

3.スリッティング作業
姫路市たつの町にあるスリッティング業者さんに皮の厚みが均一になるように厚みを調整してもらいます。

4.スリッティング作業後

厚みが整った皮に、かんなを使って油などを取っていきます。
比較的柔らかい桜の木の一枚板の上で大工さんが使用する鉋(かんな)のような道具を使用して皮に残った脂を落としていく作業です。

そして、見栄えの良くない毛根などが残らないよう、硬い松の木の一枚板の上で銑(せん)包丁を用いて作業も行います。

4.コーティング

毛穴・毛根を落とした皮は、酸を入れてコーティングをして太鼓皮が乾皮になった際にパリっとした仕上がりにし、革自体の強度を上げます。

毛穴・毛根を落とした皮は、毛抜き作業の際にアルカリ性になっている為に塩化アンモニウムを加えて中性に戻します。そうする事でより酸が効きやすくなります。

この工程では、また洗濯機のような樽に入れるのですが、なんと半日間も回し続けるのだそう!

5.乾燥

沢山の工程を経た革を乾燥させると太鼓革の完成なのですが、原皮をこの状態にするまでに1週間から10日もかかるのだそうです!

完成した太鼓革を見せていただきましたが、その重厚感がすごいです。
また、太鼓は白いものだと想像していましたが、やや透明がかっていてとっても硬い!
色々なことに驚き、知識欲がかきたてられる会となりました。

太鼓と革、日本の伝統

私は恥ずかしながら太鼓が革でできているということを知らなかったのですが、中本商店さんのオープンファクトリーで、一つの素材が日本の伝統文化にどう活かされているのかを知ることで、太鼓の音色も新しい意味を持ち、違って聴こえるように感じました。

今回の中本商店さんのオープンファクトリーは、職人技の素晴らしさだけでなく、100年近く続く歴史と革文化への敬意を感じさせる特別な体験でした。「なめし」、その背景には膨大な技術、時間と情熱が詰まっています。
太鼓革の作業工程を知ることで、伝統文化がもっと身近に感じられるようになりました。

次回は、ぜひ繁忙期の塩漬け原皮の「山」を見てみたいです!

最後に…教えていただいた豆知識

太鼓革には、基本的には食用の赤牛を使います。黒毛和牛などは脂が多すぎるし、ホルスタインは乳牛なのであまり出回ってこないからだそうです!

レポート:革靴づくりの情熱に触れる!「モデナ」さんのオープンファクトリー

出迎えくれた代表の大山一松さん

続いて参加したのは、靴製作の「モデナ」さんのオープンファクトリー。
工房を率いる代表の大山一松さんは、楽しい語りで靴づくりのへの情熱とその魅力を存分に伝えていただきました!

靴好きにはもちろん、ものづくりの奥深さに興味のある私たちにとっても、大変勉強になる時間となりました。

モデナさんは、5人の職人の皆さまで、1日約80足もの靴を製作しておられます。コロナ禍前は12人体制で120~150足を生産していたそうですが、規模を縮小しても妥協のない品質を追求されています。

技術と安全へのこだわり

靴づくりの一から十を工程ごとにお見せいただいたのですが、特に印象に残ったのは、技術と安全へのこだわり。

通常、靴底を取り付ける際には釘を使うことが一般的ですが、モデナさんでは「万が一の事故」を防ぐために、釘を使わず手間のかかる技術で仕上げています。
この細やかな配慮が、職人としての誇りを物語っています。

(イタリア製の機械をご自身で改良し、より安全面を向上させておられるのだそう。)

大山さんの多才な活動

モデナさんは、OEM生産を中心としながら、自社デザインの卸販売や最近では直販も積極的に展開しておられます。
「ヨーロッパが靴作りの最先端」と語る大山さんは、日本だけではなく世界を見据えておられるのかも。

そして驚いたのは、大山さんが「バックストリートバンド」という名前で音楽活動もされていること!
この流れで、革を使ったギターのストラップまで製作しておられるんです。
靴づくりの技術を生かし新たな製品を展開する多彩さを見せていただきました。

最後に…靴に愛着を。

職人さんが丁寧に心をこめて靴を製作する現場を見学し、その細かな技術や熱意に触れたことで、靴に対する愛着がより一層深まったように感じます。

「履く人のことを考え抜いた靴作り」という言葉の重みが、心に響きます。

皆さんも、機会があればぜひモデナさんの工房を訪れてみてください。
靴が、ただの消耗品ではなく、愛すべき「相棒」になる感覚を体験できるはずです!

レポート:学びしかない!にしなり会場@西成高校

会場となった西成高校は津守駅の目の前です。

オープンファクトリー翌日の土日は、①にしなり会場、②あしはらばし会場の2拠点にて、O-Roundの展示販売会が開催されました。

会場となった西成高校には、なんと「靴づくり部」という部活があるそうで、その皆さまにより展示・靴磨き実演もありました。
どの靴も、機械を使わない全くの手作りだそうですが、まるで売り物のように本格的で驚きました。

他にも、「ある精肉店の話」という映画の上映会や和太鼓演奏会、スポーツドクターやシューフィッターによるセミナー・ワークショップなど、盛りだくさんの内容でした。

レポート:靴メーカーが勢ぞろい!あしはらばし会場@A'ワーク創造館

会場となったA'ワーク創造館は、芦原町駅よりすぐです。

こちらは主に展示販売会。
浪速・西成の指折りの靴メーカーが勢ぞろいし、個性的な自社特製の革靴を販売。

他にも、革の切れ端の“超特価での”販売や、セミナー、地域の飲食店によるブース出展などがありました。

あとがき

これまで数々の企業さんを訪問し、オープンファクトリーにも参加してきましたが、今回初めて「皮革産業」という言葉を聞き、その現場を目にしました。
皮が革になり、革が太鼓や靴などの製品になっていく。
その過程を間近で見学し、伝統を体感し、改めて自身が普段使用している革製品への愛着と敬意を深く持つ機会となりました。

また、グローバルな社会の変化に負けず、伝統と革新が共存する現場を体験し、日本のものづくりの魅力を再発見できた3日間となりました。

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