Z世代が聴く名盤 #31 椎名林檎「無罪モラトリアム」
ここ数年で「Z世代」という単語をよく聞くようになった。「団塊世代」「氷河期世代」「ゆとり世代」等に続く新たな世代の区分である。
なんでも世間様はこの世代を「自分達とは全く違う感性を持った若者」と見ているようで、そんな歳の若者が起こした迷惑行為やトラブルを見つけては叩く報道や、そんな歳の若者を集めては「昔はこうだった」と昭和や平成の映像やらを持ち出して色々説明して反応を見てみる企画が最近増えてきており、「最近の若いのは何を考えているのやら」という空気をなんとな~く感じる事が多くなってきた。
そこまで我々の考えていることが気になるなら発信していこうじゃないか、ということでこのシリーズを始めることにした。当記事はZ世代にあたる筆者が世代よりも上のアーティストが出した名盤を聴いて、感想を書いていくただそれだけの記事である。
筆者は2003年生まれで、ニュースなどで取り沙汰される「Z世代」よりやや年上だが、WikipediaによればZ世代とは概ね1995~2010年生まれの若者を指すとのことなので、そのちょうど真ん中あたりに生まれた自分はバリバリZ世代を名乗れる。
作品情報
椎名林檎、初のオリジナルアルバム。デビュー作にして次回作につづく2番ヒットを記録した作品でもある。
前置き
椎名林檎は我々の世代においても絶大な存在感を誇るアーティストである。今更自分が語るまでもなく、その辺のネット記事を漁れば彼女のカリスマ性は充分すぎるくらいに伝わるだろう。近年は「丸の内サディスティック」のコード進行がここ数年のヒット曲に使われているとかで再評価が進んだりもしてただでさえ高かった彼女の評価がさらに高まった感覚もある。
特に今作は鮮烈なデビュー作であること、再評価真っ只中の「丸の内サディスティック」を収録していること、170万枚以上を売り上げた特大ヒット作であることから絶対領域大正義の揺るぎない超絶名盤として発売当時以上に根強く愛されている印象が強い。
今作自体は発売当時に親が買っていたようで、次回作「勝訴ストリップ」と一緒にCDラックの中で眠っていたのを発見しパソコンに取り込んだのは記憶しているが、具体的にいつ彼女の音楽にハマったのかというのは全く覚えていない。気づいたら篭絡されていたみたいな感じでいつの間にか好きな作品の一つになっていた今作だが、例によって一曲一曲をピックアップして聴く事はあっても全ての曲を順番に集中して聴いたことはほとんどない。なので好きな曲とそうでない曲の馴染み具合には半端ない格差があり、今回はそれを少しでも是正するという目的もちょっと含めつつ感想を書いていく。
感想
改めてバケモン級のアルバムだなと思った。シングルレベルでキャッチーな「正しい街」「丸の内サディスティック」をアルバム曲送りに出来るほどの充実したソングライティング力がまず凄いし、それ以外もコクのある高品質バラード「茜さす 帰路照らされど…」、何か破滅的でメンヘラっぽいロック「シドと白昼夢」、斎藤ネコによる品格あるバイオリンが美しい「同じ夜」など粒ぞろいで、一般的なアルバムと比べると耳に残る曲の割合が段違いで高いように感じられる。
あくまで個人の感想であり、昔からあまり聴いていなかった「積木遊び」や最後の2曲は歳を重ねた今でもやっぱりそんなに残っては来ないんだけど、実際今作が出てから椎名林檎は邦楽を語る上では外せないキーマンとなったのは事実だし、今作を聴いて自分が観測したインパクトの大きさ、曲の打率の高さは多分発売当時にみんなも感じ取っていたんじゃないかなと思う。
この後どんどん世界観が濃くなっていきこちらから理解を示せないライトなファンたちがふるい落とされていく印象だが、今作はまだ世界観の構築途中だったのか、曲がりなりにも新人だから我々大衆に合わせて歩み寄りあえて分かりやすく作っていたのか分からないが結果的に大衆性とマニアックさのバランスが一番ちょうど良い作品に仕上がっている。コアなファンにとってはもしかしたら物足りないのかもしれないが個人的にはこれくらいでも充分「らしさ」は感じ取れるし、今作の時点で既に兆候が見られる和風な一面が前面に出た最近の濃ゆい作品(それはそれで好きだけど)と比べるとやっぱり今作や次作の方が構えずに聴けて良いと思ってしまう。
そういえばこれ以降のアルバムは全部、題名と総再生時間がシンメトリーになっていて非常にコンセプチュアルな感じが漂ってくるがデビュー作である今作は特にそういった縛りもなく自由なタイトル付けがなされている。活動休止中にやっていた東京事変のアルバムでもそれを貫き通しているが率直に窮屈じゃないのだろうか。
一番好きな曲:歌舞伎町の女王
一番「…」な曲:幸福論(悦楽編)
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